<過去遺物>
ハルモニア兵を埋葬して次はどこへという所で、シグールが海賊に襲われた時の事を引っ張り出してきた。
曰く紋章砲って何なのか。
尋ねられたクロスはどう説明したものかと苦笑する。
少し戻る事になるけれど、刺客は始末した事だし急ぐ旅でもない、どうせなら直接見せた方がいいかもしれない。
そういうわけでミドルポートにやって来たのだが、クロスと事情と知っているテッド以外はなぜここに来たのか説明されていなかった。
どこへ行くのか聞いたところではぐらかすばかりで埒が明かない。
着いて早々、慣れた様子でクロスは裏通へと入っていく。
多少薄暗いだけで変なものが出てきたりする様子はないが。
路地の突き当たりにあったのは、明らかに人の住んでいないアバラ小屋と言っても差し支えないような家だった。
というか、建っているのが不思議なくらいだ。
「よかった、まだあったんだ」
そう言うとすでについているのが不思議に思えるドアを押して、クロスは室内に入っていく。
部屋の中は穴が開いた屋根の隙間から光が漏れ入ってくる事で、なかなか明るかった。
調度品もそのままで、部屋の真ん中にはなぜかどでかい宝箱。
「ここが紋章砲に何か関係あるの?」
宝箱はどこまでも不自然だが、どこにでもあるような家だ。
それにクロスは笑って、ごそごそと宝箱を探る。
勝手知ったるなんとやら。
「51ポッチもっていました。6ポッチのくだものを4個買いました。おつりはいくらでしょう?」
「うわっ」
いきなりどこからか降ってきた声に、ジョウイが声を上げた。
「……何コレ」
「なぞなぞ?」
「入口のカギ」
そのまんまでよかったーと安堵したようにクロスが口にしたのは、明らかに間違った答え。
というか、問題と関係あるのかそれ。
「一体なに―――っ?!」
がこん、と。
足元の床が抜けて、一向は暗闇の中へと落ちていった。
……なんとまあ。
「手の込んだ……」
「色々あるんだよ」
落ちた先は地下道で、クロスがどこからか取り出したランプの小さな光を頼りにゆっくりと奥に進んでいく。
長い間誰も利用していなかったらしい道は空気が滞っていて埃っぽい。
やがて長い通路が終わり、少し広くなった場所に人の住んでいた形式があった。
机の上に放置されていたランプの埃を払って灯りを移す。
居住空間としては少々手狭なところから、ここは何かの研究室のようなものだったのだろうと推測できた。
壁に並べられた本棚には限界まで本が入れられている。
机の上には黄ばんだ数枚の書類と、何かの小さな模型が置かれていた。
「これ、絶版本……?」
本棚の一冊を無造作に手に取ったルックが声を漏らした。
「持っていっていいと思うよ?もう誰もここにこないだろうし」
クロスが笑いながら言う。
それにおざなりに頷きながら、ルックは他の本も物色し始めた。
ここにあるものの大半が紋章や紋章砲に関するものだ、何しろ書いた本人がこの部屋の持ち主なのだから。
すでに自分の世界に入り込んでいるルックに苦笑する。
あの様子だとかなりの量になりそうだから、また旅が終わった後にでもテレポートで取りに来る事になるだろう。
「で、ここが紋章砲とどういう関係があるの?」
シグールがまだ無事だった椅子に座って尋ねてきた。
ルック同様テッドも本に没頭し始めたのでつまらないらしい。
セノとジョウイもここにある本に関してはあまり関心はないらしく(というか後で持ち帰ってから読めばいいと思っているんだろう)クロスを見た。
机の上にある紋章砲の模型を弄りながら訊く。
「紋章砲は知ってる?」
「……本でちらりと読んだ事はある」
「昔、群島諸国で使われていた砲台だよな」
けれどそれくらいしか知らない。
どんな本でも紋章砲に関しての記述はほとんどない。
「紋章の力を専用の玉に込めて、それを増幅して撃ち出す装置だよ」
玉の強度と要領があれば、威力は二倍にでも三倍にでも膨れ上がる。
当たり所が悪ければ一撃で船を沈める事も可能。
「それじゃあクロスの時代って」
「大規模だった、のかな。白兵戦よりかなり効率よかったしね」
つまり、それだけ大規模な攻撃が行われていたわけだ。
だから紋章砲の威力を上げる研究がされたし、相手の紋章を読んで反撃するのが重要視された。
ふとルックが本から顔を上げた。
どうやら話を流し聞いてはいたらしい。
「……クロス、ここにいた人って」
ここにある本の大半が絶版になったはずのもので、中にはその存在すら知らないものもあり。
そしてそれらはどれも紋章砲について詳しく書かれていた。
「ここにいたのは紋章砲を作った人だよ」
クールークに対抗するために探し当てた彼は、紋章砲を開発した事を誰よりも後悔していた。
だからここで一人沈黙を守り、けれど紋章砲を失くすためならと立ち上がってくれた。
戦いの後、彼の結末は彼自身納得したものだったようだけど。
その事は言わず、クロスは別の話題を振る。
「紋章砲は悪戯に犠牲者を出すだけだって意見が出て……まあ他にも色々思惑とか絡んでるんだろうけど、結果紋章砲に関するものは一切処分されたんだよ」
設計図から模型、試作品、紋章砲に関する書籍諸々、全て抹消された。
実際にはそこにはもうひと悶着あったりして、その際クロスも微妙に関わっていたりしたんだが、敢えて言う必要もないだろう。
だから群島諸国内でも、実際には紋章砲がどんなものでどれ程の威力だったか知る者はもうほとんどいないだろう。
他の近隣諸国に関しても、今のところは紋章砲が出てきたという話は聞いた事がない。
今はもう、僅かに伝承の中にその名前を残すだけとなっていた。
ここにこれだけの物が残っているのは、誰もこの場所を知らなかったからだ。
そこで、話は終わったのとルックが言った。
その手には数冊の古ぼけた本が抱えられている。
「ルックは物色は終わったかな?」
「とりあえずこれだけ持ってく。……残りはまた取りに来るからいい」
予想通りの答えにクロスは笑みを深くして、いまだ没頭しているテッドから本をとりあげて帰るよと声をかけた。
ルック同様数冊本を抱えて、渋々腰を上げたテッドがシグールに押されて行くのを見て。
クロスはそっと、机の上のランプの火を消した。
***
紋章砲について。
でも海戦では近づいたら白兵戦ばっかしてましたが。
ラプソディアで思ったんですが、あんなお魚製造機乗せて戦ってたんですかあんたら。
過去遺物:読んで字の如く。造語。