<千軍万馬>
そう、おそらく皆が忘れかけていたのだ。
だってあんまりにも他の事(主に観光)が忙しくて。
なので尾行されているのに気付かず――もとい無視して――旅をしていたのだが、さすがにそろそろまずいだろうという事で、旅行コースも読まれているという事を踏まえた上で、テッドとクロスが話し合った結果。
「……えっと、あれは?」
「……ハルモニア軍」
テッドが決めて上陸したのはとある小島。
足元は沼地――かなり土壌条件が悪く、もちろん開発はまったくゼロ。
「こんな無人島にもちゃんと追ってきてくれるんだね」
そうクロスが呟く。現在視認できる範囲の兵は――
「ひーふー……ざっと五十か」
相手が真なる風の紋章の使い手と知っての人数ならばまぁ悪くはない。
……が。
「一人八人? 足んない」
きっぱりとテッド横で軍を見ていたシグールが言い捨てた。
……六人の真の紋章持ちがいると、ちょっと、厳しいかも。
いや、一人あたり五十で三百人でも厳しいけど。
敵にお気の毒様と思いつつ、司令隊長テッドは辺りを見回す。
人家なし。
家畜なし。
そりゃそうだここ無人島。
「めんどい……」
「けっこー直接的にルックのせいだけど」
ぼやいたルックにジョウイは返して、棍を構える。セノも武器を構えた。
崖なし。
河川なし。
足場……結構最悪で表面を海水がうっすら覆う沼地状態。まあこれくらいならいいだろう。
「よし、司令隊長より、攻撃許可」
大きく頷いたバンダナ少年は右手を軽く上げる。
「合点です司令隊長。久しぶりだから喰っていい?」
ワキッ
「うーん、久しぶりで僕も手加減が……」
セノが呟きながら武器同士をぶつけて感触を確かめる。
ガンガン
「僕も久しぶりだし――」
「お前はついこの間海賊船で大暴れしただろ」
「えーっ、アレは本気ミリもだしてないし」
ね、テッド?
そう言われてテッドは溜息を吐いた。
「切り込み隊長したい人」
「「はーい」」
元気よく手を上げたシグールとクロスを見て、しばしの逡巡も見せずクロスを指差す。
「じゃあお前切り込み隊長、ノルマ二十」
「了解〜」
「セノとジョウイは兵を逃がすな、周りから囲め」
「「了解」」
ルック、お前は自衛してろ、と言われてはいはいとつまらなそうなルックが返す。
んでもってお前と俺だけど、とテッドはシグールに向いて言った。
「クロスの後についていって残りを全て消化」
「消化?」
「……消化吸収」
テッドの言葉に頷いてシグールは紋章を顕にした。
「一人たりとも逃がすな、わざわざ居場所を教えてやる必要はない」
「「オッケ」」
「あと……体力温存しておけ」
「これっぽっちにそうそう体力使うわけないけどなんで」
「……穴掘るからな」
「は?」
じゃあ全員行動開始、とテッドが呟いてルックの質問に答えず、五人は霧散する。
ただ一人そこに残ったルック目がけて兵がやって……こようとは……しているのだろうが、その前にクロスにぶちのめされているので逃げようとしていたのか向かってこようとしていたのかは不明。
「……暇」
向かってくる相手はおらず、ただクロスが好き勝手に暴れ、周りをセノとジョウイが囲み、適当に魂吸ってる二人を見てそう呟いたルックは、たんっとクロスのちょっと後ろにテレポートをかまし、彼が今にも倒そうとしていた敵を風でナマス切りにした。
「ルック」
「僕の敵だし」
「まあそうだけど――危ないっ」
クロスの剣が凪いだ後には、死体が二つ転がっていて。
「ああーっ、クロス殺さないでよ喰えないじゃん!!」
「……ごめん、つい」
「……あのね」
自らも切り裂きをかましつつ、なんだかハルモニア軍が可哀相になってきたルックだった。
そんなこんなで死屍累々。
「はい、君ラスト一人」
ぴたりとクロスの刃を首筋に突きつけられた兵士が、びくりと動く。
「一応聞いておこう、誰の指示?」
「そんな……ことは……いえな」
「じゃあはい、どうぞ」
ガゴン
柄で殴られて昏倒した男から、テッドが魂を吸い取って、辺りを見回し溜息を吐いて肩を回した。
「さあ、一仕事だぞ」
「なになにー?」
「……埋める」
「「……はい?」」
思わず聞き返した面々を無視し、ああルックこの辺に風で穴を穿ってくれとさらっと言う。
「埋めるって」
「地中に封印して腐って土に還元してもらう」
「海には」
「……遠いだろうが」
たしかに、無人島とはいえどもそうやたらめったに狭いわけではなく、当然海岸までは結構あるわけで。
「それに万が一岸についた死体に気がつかれてもこまるし、切り刻んで魚の餌ってのもあるが」
「埋めよう」
切り刻んで魚の餌にした方が楽かもしれないが、その切り刻むのは自分達なわけでそれはさすがにごめんこうむりたかった。
「穴ね」
「なるべく五十人が入れそうな穴を」
わかった、とルックが頷いて風で一気に穴を穿つ。
ただし元が沼地なので、でろっと埋まりそうな気配だが、まあ死体を放り込む間くらいは保つだろう。
テッドが穴の深さと広さを確認して手近な死体を放り込んだ。
「はい、手を動かす」
「……こうとわかっていればもっとまとめて……」
「ほんと……霧散させなかったよ……」
「もっと中央に集めて倒したのに……」
「……迂闊だったな」
ブツブツ言いながら死体を穴の中に投げ込み終えた彼らが一息吐いて立ち上がると、ああこれこれと言ってクロスが何やら死体の上から穴の上へと放り上げた。
「何、これ」
拾ったシグールが首をかしげると、下から声が届く。
「お金」
「…………」
沈黙してシグールはその金をテッドへ放る。
「持ってて」
「……あいよ」
その後、穴に土を埋めて適当に均して、作業は完了した。
というか均すまでもなく、表面はまた海水が覆ってくれた。
海水と泥地、考えるまでもなくすぐに程よく腐るだろう。
もちろん、兵士の持っていた金になりそうな物はすべてクロスの手により没収され、最寄の街(の裏)で売りさばかれた事は言うまでもない。
***
簡単に。そういえばこんな理由だったんですよね(書いてる本人が忘れてた)
千軍万馬:多くの戦争を体験し戦歴が豊かであること。経験豊富でしたたか。