<真帆片帆>





船を操れるのはクロスとテッドだけで、もっともシグールとセノもコツを飲み込みつつあったので、(残り二名はグロッキーで役立たずなので論外)初心者sに任せてテッドは船室の一つに水差し片手に滑り込む。
「おいルック、生きてるか?」
「揺れる……」
「慣れろ、ほら水」

コップに入れた水を差し出すと、起き上がって無言で飲む。
顔色はさほど悪くはない、さすがにこれだけ船の旅を続けていれば段々と慣れてきたようだ。

「で、何?」
「は?」
「……ああ、この間の話ね、聞きたいの?」
「……はい?」

いらっとした様子で、だから僕とクロスの関係聞きたいんじゃないの? と返され、ようやっとテッドはルックが先日ラズリルでの会話の事を言っているのだと思い当たる。
別に水を持って来た事に下心はなかったわけだが、どうせ暇だし興味はあるし、聞かせてもらえるなら聞かせてもらおうと思って頷いた。


「いつって正確に覚えてるわけじゃないけど、だいたい会ってから一年半くらいじゃない?」
「……それは、早いのか、遅いのか……」
「さあ。それで、他に質問は?」
ふられてしばし考えたテッドは口を開く。

「お前さ、結局クロスのどこに惚れたわけ?」
「まるでセノにジョウイのどこがいいのって聞いてるようなもんだね」
「……ルック君、それはあいつは顔だけってことかい」
この時点で二人の内でジョウイは顔だけという事になっているが、セノがここにいない限りツッコミを入れる人はいないので、話がそのまま続く。
「自分勝手だし人の話聞かないし、へらへら笑ってる割には甘ったれだし」

一旦言葉を切ってテッドにコップを差しだし水を請求すると、無言で水が注がれる。
それで喉を潤して、続けた。
「時々家事手伝わせるし、嫌いなもの食べさせるし」
「グレミオさんみたいだな……」
「グレミオさんはしっかりしてる。一人でも立ってられるし今回だってちゃんと笑って送り出した。クロスは絶対ダメだね、待ってるとかムリ」
「……言っとくがルック、それがわかってなんであの暴挙に出たんだ」

この旅に出たそもそもの理由を示され、ルックは視線を逸らす。
「まさか、追ってくる、とは」
「嘘つけ、予想してたろ、お前の痕跡はほとんど消してあったからな……事実、セノがいなければまずかった」
テッドの言葉に、ルックは項垂れる。
「だって」
「まあいいけど。俺から見ればクロスはずいぶんとしっかり立ってるように……」

今も昔も、彼の隣には支えてくれる人がいても、支えてあげる相手がいても、クロス本人はちゃんと両足を地面につけて立っている。
ちゃんと前を見据えて、ちゃんと自分の為すべき事を知っている。
―――ように、思えた。
「それはない」
きっぱり言い捨てて、ルックはコップの水を飲み干した。
「甘えただよ」
「そっか」
だとすればたぶんそれはルックにしか見せないクロスの一面なのだろう。

「じゃあ、話を戻して出会ってから一年半後の辺を」
「……前々から疑問なんだけどあんたはシグールとは違うの」
「……ルック、お前冗談は休み休み言ってくれ。俺はシグールに真面目にそっちの意味で「愛してる」なんて言われたら即行ソウルイーターの中に戻らせてもらう」
うん、まあそうだねと相槌を打ってルックは手の中でコップを弄んだ。
「まあ僕も連日の告白に飽きてたし疫病神が憑いてると今後の人生保証ないし、まあいっかと」
「……えーっと、つまりクロスの連日なる愛の告白についにほだされ、ずっとそばにいてくれるらしき相手を認め安心し、それならってことか?」
「……さすがシグールの親友」
「お褒めの言葉ありがとう」

皮肉ったつもりだったが、テッドには軽く肩を竦めて流された。


 


***

タイトルぜんぜん関係ないです、すみません。
(ただ船の雰囲気
……それだけ〜……
テッドとルックの語らいは真面目に穏やか。すごい。


真帆片帆:真帆は船首に対して真角に張る。片帆は、斜めに張る。追風は真帆で、横風は片帆で受けて帆走する。