<比翼連理>





「ジョウイ、だいじょーぶー?」
ひょこりと船室を覗いたセノの目に映ったのは、蒼白のやつれた顔で天井を見上げている彫刻――もというジョウイの姿だった。
「リンゴ持ってきたから、食べれる?」
「……うん」
舟に乗った事がなかったわけでは無論ないのだが、数時間なら気力でなんとかなれども、さすがに数日単位になるとダメだったらしく、ジョウイは盛大にダウンしていた。
ちなみにセノは全くオッケーなので、おそらく体質なのだろう、仕方がない。

「あれ、ルックは?」
隣に寝ていたはずのルックの姿がないことを指摘すると、さっき出て行ったと元気のない声が返ってくる。
「セノ……」
「うん?」
「水……くれる?」
「水? うんちょっとまって」

脇においてあった水差しを取って、コップを探したがなぜかない。
そういえばさっき来た時に洗おうと思って持っていってしまったんだっけ、と自分の行動を振り返る。

さて、どうしよう。
「ジョウイ」
「……何?」
「コップないんだけど……」
「口移しでいい」

口移し「で」いいじゃなくて「が」いいんだろう、と突っ込む人間はいないので、セノはわかったと頷いて水差しから自分の口に水を含むと、仰向けになっているジョウイに口付ける。
「もっと飲む?」
「――うん」
幾度か同じ事を繰り返し、もういいかなとセノが言って切り上げた。
「あんまり飲むとまた吐くしねー」
「……うん」

名残惜しそうなジョウイだったが、その途端吐き気がまた襲ってきて顔をしかめる。
もう吐くものなんて残っていないんだが。
「……うっ」
こんなに体調を崩したのはいつ以来だったか。
……ええと、紋章による副作用を除くと……紋章持つ前?
「ジョウイ」
吐くものもないし、これ以上悪化はしないと思うのだが……。
「ジョウイっ、だいじょうぶ? 僕何かできることある?」
「……セノ?」
どことなく必死な語調だったのが気になった。

「ジョウイ、死なない?」
「……いや、死んだら相当マヌケだし……」
所詮船酔いなんだけど。
そう言おうとして、ジョウイは微笑んだ。
「セノ」
「だってっ――だってジョウイ真っ青だし返事も遅いし……し、死なないってわかってるけどっ」
俯いて唇をかんで、震える拳を握りこんでセノは早口で言う。
「……セノ」

優しく名前を呼ばれて、セノは顔を上げる。
「大丈夫だから、すぐ……よくなると、思う」
「ほんとう?」
「うん……だからキス、して?」
「…………」

セノは少し頬を染めて、ジョウイに自分の顔をゆっくりと近づけた。



バタン



「……あんたら……いちゃこくならどっかヨソでやってくれない?」
戻ってきたルックが、腕組みをしてげんなりとした顔で言ったところで、セノはくるりと振り返って笑った。
「あ、ルックー平気?」
「全然。僕寝る。そこの野獣、大人しくしてろあるいは出てけ」
ビシとジョウイを指差して、ルックはさっさとこちらに背を向けて横になってしまった。

「ジョウイ」
てめぇルックいい時に入ってきやがって、と心の中で盛大に呪っていたジョウイに、セノが微笑む。
「もう一個の部屋、いこ? シグールさんとテッドさんいないし」
「……え」
「ね?」

「……うん」

セノに支えてもらいながら部屋を出て行ったジョウイは、しっかり小さくガッツポーズを取って、廊下を歩いていった。


 

 


***
……ジョウ主……
甘くしたつもりです。
ルック乱入でぶった切らなかったのはせめてもの愛です(ジョウイへの


比翼連理:男女の情愛が深いこと。とても仲が良いことのたとえ。





(おまけ)
クロス「るーっくん、はい梨ー
……ってあれ、ジョウイは?」
ルック「
……今ごろ忙しいんじゃない、ちょっと前にセノともう片方の部屋行った」
クロス「え
……あ、そう」
ルック「何、なんかあるわけ?」
クロス「いや、シグールとテッドがさっき部屋に戻るーって
……
ルック「
…………
クロス「
……皮むくね」