<自業自得>





「……は?」
旅に出るから、とは聞いた。
それが保身のためで、さらにセラをこれ以上巻き込まないためであるとも。
レックナートに話は通し、セラはグレミオにもよろしく頼んで、グレミオも快くいってらっしゃいを言ってくれ。
……それはいいんだ。
そこまではいいんだ。
問題は今、ルックの目の前に笑顔で立っているクロス――が手に持っているモノ、である。
「だーって、ハルモニアが追ってるのは「真の風の紋章をもった元神官将のササライ似の男性」でしょ?」
「……そうだけど」
「じゃあルックは女の子の方が、誤魔化せるよね?」
「……そうかもしれないけど」
「なら遠慮なく女装しようよ、ほらワンピースv」

やめれ。
本気で、卒倒したら一瞬でもこの状況から抜け出せると思ったが、その昇天中にしっかと着替えさせられるのは目に見えていたので、やめておく。
代わりにルックに許されたのは、極力視線を逸らしてあくまでも抵抗を続ける事だった。
だが、無意味なのは誰より自分がよく分かっている。

「はい、着なさい」
「…………」
「お化粧もしないし髪も弄らないよ?」
 項垂れたルックがかすかに首肯したのを認めて、クロスはその顔にさらに微笑みを広げた。
「必要ないからね」

「〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」










「あ、可愛い」
バンダナを翻して、爆笑したいのを堪えるような表情で言う問題児その一。
「似合うー」
嬉しそうに純粋な笑顔で褒めてくれた一行の癒し。
「……ちょっと、詐欺だね」
引きつった声と顔でそう述べた問題児その二。
「楽しんだな、クロス……」
溜息を吐いて諌め役が締めた。

「……笑いたければ笑えばいい」
肩を落としてルックは着慣れない服への抵抗を止めた。
「っていうかね、クロス」
「何?」
「僕だけ女装っておかしいと思うんだけど。男五人で女一人?」
「あーそっかー」
「ジョウイとかシグールとか、女装させたら映えそう」

「「ルック?」」

わきわきと紋章がついている手を鳴らしつつ、笑顔を向けた二人をルックは睨み返す。
「まあ僕はいいけど」
「シグール……」
意外にあっさり頷いたシグールだったが、その花の様な笑顔はテッドへと向けられた。
「か弱い女の子は荷物持ちなんてしないから、ね?」
「……ルック、女装が一番似合うのはお前だから」
「……切り裂いてほしい?」
シグールの笑顔から「僕の荷物もテッドが持つんだよね」とのメッセージを的確に受け取ったテッドが、顔色を変えてルックの肩を掴んでそう言えば、パシンとその手を払いのけて、座った目で問い かけた。

「目立ちそうだったら僕が女装するからv」
「……アンタはいい」

 洒落にならなく似合いそうなクロスがノリノリなのを見て、ルックは先行き不安だと再び深く溜息を吐いた。
 

 



***
嫌なタイトルですがこれ以上ふさわしいモノもあるまい。

自業自得:自分のした行いは必ず自分に跳ね返ってくる事。