< El significado que existe en usted 3.4>





密室である筈の室内に風が起きて、机の上に置いてあった紙が数枚浮く。
転移魔法で見慣れた室内に戻ってきたルックは、その場にがくりと膝を付いた。
そんな姿など今まで一度も見た事がないアルベルトやユーバーは何がなんだがわからない様子でルックを見ていたが、本人はそれどころではない。


なんで。どうして。
足跡を残しておいたつもりはないのに。
どこから嗅ぎ付けてきやがった。

数年間かけて変更された(矯正された)口調が完全に戻っている。
頭に浮かぶのは転移する前に見たあの笑顔。
忘れたくとも脳裏にこびりついて剥がれない。
怒ってた。
絶対、完膚なきまでに怒ってた。


「……ルック様」
セラがどこか遠いところを見て呟く。
その目はやはり虚ろだ。
ルックは顔を上げて、ここまで付いてきてくれた弟子を見た。
二人の視線がかち合い、その瞳に映る感情に、互いが見た者がやはり本物だったのだと悟る。

僅かに震える声でセラが言う。
「ルック様、あの、あの方は」
「セラ」
それ以上は言うなとばかりに、セラの言葉をルックが鋭く遮る。
わかってる、わかってるから。
万が一にも間違いではないだろうけど頭で思うのと言葉にするのは衝撃が違うんだ。

ルックの思いに、セラはしかし泣きそうな顔で続きを口にした。
「どうみてもクロス様……」

………………………………………………

室内に重苦しい沈黙が落ちる。
何かを堪えるように膝を付いたまま小刻みに震えるルック。
床に視線を落とし、しかしその目は何も見ていないセラ。
相変わらず二人が何に対してそんなに怯えているのかわからないアルベルトとユーバーは、ただただ見守るのみ。


息の詰まるような張り詰めた空気を震わせたのは、ルックだった。
やおら立ち上がり、どこかに向かって声を張り上げる。
「あの馬鹿クロスっ……なんで、なんであの場にいるんだよっ!」
今まで必死になって身を隠してきたってのに。
顔面蒼白そして涙目。
「ルック様、お気を確かに!!」
けれどそれを宥めるセラも似たような様子で説得力はない。
「しかも何だよあの笑顔にあの目は……捕まったら絶対終わりだ」

世界巻き添えにして死のうとしている人間が何を言う。
「……あいつに捕まるくらいなら志半ばで殺された方がマシかもしれない」
一通り叫んで気が済んだのかはたまた力尽きたのか、よろよろと椅子に座り込んでルックは悲壮な面持ちで言葉を吐いた。

捕まったら殺されるどころのは話じゃない。
生き地獄……それ以上を味合あわされるに違いない。
何も言わずに黙って出てきただけじゃなくて数年間音信不通にしてたわけだし。

長い長い息を吐きながら、ふと移転前のある行動を思い出してルックは硬直した。
今度は何だとアルベルトとユーバー、そして気遣うようなセラの視線が集まる。
「どうしました?」
「……紋章の化身、置いてきた」
時間稼ぎのためとはいえ、己の愚行に頭を抱える。
問題は、ルックがクロスがいると知っていて紋章の化身をけしかけた事。
今頃はそれはもう大層お怒りになられているに違いない。

地獄だ、と呟いて、ルックはがっくりと項垂れた。




 


***
移転後のルック達。
最終決戦までによくぞまぁ立ち直れたものだと思います(立ち直ってなかったか

 



(おまけ)
ア「あのですね、そのクロス様って誰なんですか」
セ「
……クロス様です」
ア「いや、答えになってません」
セ「他に言いようがないのです」
ル「あれは悪魔だ、鬼だ、いやまだそっちの方が可愛げがある
……
セ「常識であの方は測れないのですよ
……
ア「
……(人間ですか)」