「えいっ」
「惜しいわ。次!」
「そーれっ!」
「……何してんの?」
斧を手にしたリアトと薪を手にしたセセナに、真顔で聞いたのは間違ってないはずだ。
<薪割り至難>
「薪割りしてたんだけど、なかなかうまくいかなくて」
「もうちょっとなのに、薪が最後の最後で逃げるのよ」
そう言う二人の近くには、大きさにかなりばらつきのある薪が山積みにされている。
指ほどの細さのものもあれば、まだ原型ほとんどままのものまで様々だ。
出来栄えにはあえて口を噤むとしても、この二人が薪割りをしているのか。
誰だ軍主に薪割りさせてるの。
それに、セセナも小柄で年齢的にも薪割りなどには向いていない。
リアトにしたって軍主というのを差し引いても似たようなものだろう。
適役は他に腐るほどいる。
「あのね、普段薪割りしてくれてるおじいさんが腰を痛めちゃったみたいで」
「でも、薪がないと困るでしょう? だからセセナ達がやるって言ったのよ」
……胸を張る二人の意欲はすばらしいものではあるのだが。
随分とほそっこくなってしまった木の棒を拾い上げて検分する。
うん、まぁ。これは火付けの補助くらいにしか使えない。
「薪割りはコツがいるからなぁ」
「リーヤはできる?」
「おう」
塔で使う薪を割るのは一時期リーヤの仕事だった。
クロスがあまりにぱかぱか割るので簡単なんだろうと思っていたが、最初の頃は斧はまっすぐ薪に刺さらないし一発では割れないし、台に刺さった斧は抜けないしで散々だった。
手から斧がすっぽ抜けて、からかっていたテッドのすぐ横を通り抜けて行った事もあった。
……それ以来テッドが真面目に教えてくれて、最終的にはちゃんとできるようになったっけ。
「代わりにやろうか?」
「僕らがやるって言ったし……」
「けど、これをそのまま持ってくわけにもいかねぇだろ」
その場合、評判を下げるのは老人の方だ。
しょんぼりしているリアトはかわいそうだが、あまりここで時間を費やしているのもまずい。
仕事が押すと、どこぞの軍師に角が生える。
「――なら、リーヤが教えてくれたらいいんだわ!」
「……は?」
名案、とセセナが手を打った。
「一度に割ろうとしなくていいから。力まかせにしねぇで、斧の重さで割るつもりで」
「う、うん」
「あとこの薪よりこっちのがいいな」
台の上に乗せられた薪を持ち上げて、リーヤは別の薪を置く。
ぱっと見さっきとなにが違うのか分からない。
「リーヤ、なにが違うの?」
「乾燥してる気は割れが入ってるから、そっから割った方が楽なんだよ」
「お餅が乾くとひび割れるのと同じ感じかしら」
「そうそう」
セセナが首を傾げると、リーヤが頷く。
結局セセナの言うとおりに、リーヤに教えてもらいながらリアトが薪を割る事になった。
リーヤがやった方が格段に早く済むし、綺麗な仕上がりになるのは分かっていたのだけれど。
最初にやると言ったのだから、最後まで手をかけたかった。
それに全然うまくできなかったのが悔しかったから……というのもある。
「セセナはそういうの探してくれるか」
「それなら簡単よ!」
ぱっと立ち上がって薪が積み上げられている山で木材を検分し始めたセセナの姿を見る。
最近は本拠地の手伝いをする時はふわふわしたスカートではなく、膝丈くらいの少しふんわりしたズボンを履いている。
何か手伝っている時のセセナは生き生きしてるなぁ、と最初の頃のつんけんしていた様子を思い出して少し笑った。
「リアト、どしたー?」
「あ、ごめん」
「セセナに見惚れてたとか」
「そんなんじゃないってば」
苦笑して斧を握り直す。
台の上に置かれた薪と、それをなぞるリーヤの指で位置を確認する。
「そんじゃやってみっか。この罅の部分目印にな」
「うんっ」
それっ、と思い切り振り下ろしたリアトの斧は、薪を外して台に刺さった。
「むー……」
リーヤが苦笑するのが聞こえて、口を尖らせながらぐっぐっと斧を引き出そうとリアトは思い切り手を引っ張る。
すぽん、と斧が抜ける。
台と手の両方から。
「…………」
ひゅん、と耳元で風がなった気がして、リーヤは顔を引きつらせた。
「リーヤごめん!!」
「ちょっと、斧が飛んできたけど大丈夫なの!?」
セセナがずるずると斧をひきずるように持ってきながら声を張り上げる。
「かろうじて」
「ごめんー……」
「次頑張れ…………俺はちょっと離れてるから……」
そう言って、リーヤはすすすと距離を取った。
***
<リーヤとセセナが遊んでいる話>
<リーヤとリアトがじゃれあっている話>
最終的に焼き芋をして美味しく食べたようです。