<最悪チョイス>



ここ数日テッドの機嫌は底辺だった。
最近シグールとラウロの仲がよすぎる気がしてならない。
気付けば二人で何かこそこそと話しているし、その距離が異様に近い気がする。
こちらが話しかければ露骨に会話を止めてしまうからその内容を探る事すらできやしない。
シグールとの共通の趣味であるはずのジョウイいじりもどうもラウロと組んでやっているようで、それもまた気に入らない。

いっそ単刀直入にシグールに何をラウロと話しているのか聞いてみたい気もするが、それではまるで浮気を疑っているように思われやしないかと、何度も尋ねかけてその度に口を噤んでしまう。
シグールのことだから「浮気を疑うなんてテッドは僕のこと信じてないんだー!」と非常に事態がこじれる恐れがある。ていうかそれで本当に浮気されたら墓穴もいいところだ。

それとなくクロス達に聞いてみたところで、彼らも二人がタッグを組んでいる事は把握していても、果たしてそれがなぜかまでは知らないようで、かえって「あのタッグ怖いから止めろ」とまで言われた。
止めれるものならとっくに止めている。

ちなみに一度だけ、シグールにそれとなく「最近ラウロと仲がいいな?」と尋ねてみたところ、あからさまに動揺された。
……あれ、これって結構真面目に浮気疑惑?





などと悶々としながら三人がけのソファに一人でテッドの目の前では、相変わらずシグールとラウロが机を挟んだ反対側で仲睦まじげに何事か話している。
こちらに聞こえないように顔を耳に近づけて、唇も読まれないように手を添えての念の入れように、なんというか面白くない。

苛々と組んだ足を揺らしているテッドの視線に気付かないわけがないのに、二人して華麗に無視してくれた挙句、そろって部屋を出て行ってしまう。
ドアを開けて立ち去る間際にシグールの腰にさりげなく添えられたラウロの手をぶった切りたい衝動に駆られながら、テッドは腹に澱んだものを全部吐き出すように長い長い息を吐いた。

「およ、テッド一人?」
「……リーヤか」
ノックもなしにドアを開けて顔をのぞかせたリーヤは、室内にテッドしかいない事を確認して首を傾げる。
「ラウロここにいなかった?」
「ついさっきまでいたけどシグールと出てったぜ」
「あー……そっか」
つまらなさそうに零したリーヤに、ふとテッドは思いついた。
あまり褒められた事ではない自覚はあるが、たまにはこんなのもいいだろう。

「なんだ、ラウロ探してたのか」
「最近付き合いわりーんだもん。シグールとばっか話しててさー」
「あいつら最近無駄に仲いいだろ。なんでか知らね?」
「俺もさっぱり。ラウロも聞いても教えてくんねーし」
「俺もだ」
シグールと一緒であると聞いて探すのを諦めたのか、部屋に入ってきたリーヤを手招いて、自分の隣に座るよう促す。
ほとんど変わらない座高のせいで目線はほとんど変わらないが、押し倒すにあたっては不意を突ければ余裕である。

「そんじゃ、俺の浮気相手になってくれよ」
「へ」
足を払うと同時に肩を引いて、ソファに上半身を倒す。
よいせ、と顎を持ち上げて、見開かれた瞳に映る自分は、随分と悪い顔をしていた。
「リーヤも寂しいんだろ? 俺もシグールのほっとかれて退屈してんだ」
不精なせいでやや荒れ気味の唇に指を這わせて悪い笑みを浮かべて見せれば、戸惑うように眼球が左右に動いた。
「て、っど」
薄く開いた唇を一舐めしてやれば、手の下の体が強張る感触が伝わってくる。
「別にいいだろ、少し遊ぶだけ――」




「そういう問題じゃないよね」








背後から声が聞こえたと同時に、背筋にぞわりとしたものが走る。
咄嗟にリーヤに抱きつくように前へ倒れこむと、つい一瞬前まで自分の後頭部があったところを抜き身の剣が通り越していた。
振り仰げば、そこには剣を握り締めたクロスが般若の表情で立っていた。
「クロ、」
「信じらんない! いくらテッドでもリーヤにだけは手を出さないと思ってたのに! 僕とルックの可愛い可愛い子供に手を出すとかどれだけ節操がないの!?」
「待て! 「でも」ってなんだ「でも」って! 俺の信用が元々ゼロみたいな言い草はやめろ!」
「この瞬間マイナスに振り切れた」
見下した視線と絶対零度の声でクロスは言った。

「ていうか実際今押し倒してるし!! 今すぐリーヤから離れて床に下りてよ!!」
もの凄い剣幕で剣を鼻先に突きつけられる。
ここでどかなかったらそのまま剣で切り付けられそうだったので、大人しくどく事にした。

降りたはいいが下手に動くと何をされるか分からないので、こういう時の反射姿勢で正座をしていると、クロスはポケットから布を取り出してリーヤの口をごしごしと拭く。
「ああもうテッドの菌が移る……」
「待て、俺は雑菌か何かか!?」
「君は黙って後ろでも向いててくれる」
射殺されんばかりの形相で言われて、言われるがままに壁の方向を向いて待つことしばし。

「なー」
「なんだよリーヤ……」
今話すとクロスを刺激するから極力遠慮したいのを堪えて振り返ると、目の前に看板があった。
でかでかと「大成功」とペンキで書きなぐられた看板を掲げたリーヤが非常にいい笑顔でしゃがんでいる。
「ドッキリだーいせーいこーう☆」
「…………」
目の前の現実を理解できずに呆然としているテッドの肩に、手が置かれる。
振り向けば、いつの間に戻ってきていたのかいい笑顔を浮かべたシグールがいた。
「……シグール」
「やぁテッド☆ 僕らの盛大なるドッキリは楽しんでもらえたかな?」
「……ドッキリ?」
「うん。僕とラウロがいちゃついてたらテッドがどう行動を起こすかっていう僕の浮気疑惑ドッキリだったんだけど。まさかリーヤに手を出すなんて思わなかったなぁ」
あはははは、と笑うシグールだが、肩に指が食い込んでいて痛い。
「シ、シグール……?」
「で、クロスが止めに入らなかった場合どこまでするつもりだったのか、じっくり教えてもらいたいなーと僕は思ってるわけだけど、どうだろう?」
「…………」
本能が危険を察して助けを求めようとしたが、リーヤ始め全員がとっくに部屋から出たあとだった。





***
<ラウロとシグールのカプ(でもギャグ)>

最初いただいていた詳細リクエストままだとグレーゾーンぶっぱなしたのでドッキリという形に収束。
リーヤも巻き込もうとしたけどそっちは単刀直入で聞きに行くので早々にネタバレしたのでした。