「あのっ、頑張ってください!」
本拠地を歩いていたら唐突に走り寄ってきた少女達に声をかけられて、リーヤとラウロは一瞬固まった。
「色々世間の目も厳しいと思いますけど、お似合いだと思うし……。私達応援してますから!」
「あ。うん……ありがとう?」
「…………」
激励ならリアトにするべきじゃないんだろうか、が最初に浮かんだ事だったが、熱意に圧されるような形でリーヤが感謝の言葉を口にする。
応援してくれているのならば、リアトにかわってお礼は言っておいた方がいいだろう。
対してラウロは何かを感じ取ったようで、ひたすらに無言を貫いている。
きゃー、と愉しげに声をあげて少女が走り去っていった後、ラウロは無言でリーヤの脇腹に肘を叩き込んだ。
「なにすんだよ!」
「お前の無駄な記憶力をフル活用してさっき言われたセリフもう一度復唱してみろ」
「頑張ってください?」
「その後」
「色々世間の目も厳しいと思いますけど、お似合いだと思うし……お似合い?」
首を傾げたリーヤに、ラウロは深々と溜息を吐く。
「いやぁ。ご両人よかったねぇ」
どこから見ていたのか、ひょこりと二人の間から顔をだして愉しげにしているシグールに視線が注がれる。
「シグール、なにがよかったんだ?」
まだ理解できていないらしいリーヤに、まあまあとシグールは手を振って、ちょうどいい時間だからお昼一緒にどう、と誘った。
このあたりで、ロクな事になるまいとラウロは悟った。
<ゴシップ>
「もうちょっと節度を持った方がいいと思うのよあんた達」
昼食を摂るために食堂に入ったら、そのまま大テーブルの方へと引きずられた。
そこにはクロスとルックが座っていて、どうやら今日のこのテーブルの昼食はクロスがつくったものらしい。
そしてそこに、美味い料理の匂いを嗅ぎつけたのかメルディとネイネがいた。
「何の話だ?」
「最近また出回ってるわよ、二人の熱愛報道」
フォークの先を二人に向けたメルディの隣で、このグラタンおいしい、ともぐもぐ口を動かしながらネイネが頷く。
そこでようやく事の真相までたどりついたらしいリーヤが素っ頓狂な声を出す。
「はぁ!?」
「やっぱりあれはそういう意味か」
「そういうって……」
ようやく気付いたか、とリーヤにじと目を向けて、ラウロは自分の取り皿を引き寄せた。
「最初の頃に流れてたわよねぇ。一時期」
「あったねそんなことも」
ネイネの言葉にルックが同意する。
本拠地を手に入れたばかりの頃からいる二人は、城で出回った数々のゴシップネタを知っている。
特にネイネはそのフットワークの軽さから、ほぼ網羅している一人といってもいいだろう。
「え。その頃もそんな面白いことあったの」
「へたすると僕とリーヤも回ってた。ゴシップ好きだよね、こういうところって」
「ルックとの場合は、純粋に男女でって感じだったけどね」
「へぇ。へぇ……?」
「クロスこっち見ないで。丁寧に否定したから。すぐ否定したから」
クロスがにこやかな笑みを向けてくるのがやけに怖くてリーヤは視線を逸らす。
それを焼きもちと取って、ネイネがくすくすと笑ってその後の経緯を口にした。
「最終的にルックが力ずくで黙らせてたけどね」
「噂で命は落としたくないよねぇ」
「あれだけ手加減した切り裂き一発で止めるなんて根性がないんだよ」
「……ルックの場合、手加減してても十分威力あっから」
ルックとしては、リーヤ相手であれば害がないと分かっている分、虫除けもかねて対応は幾分柔軟にしていたつもりらしい。
けらけらと当時の光景を容易に想像できて、シグールが笑っている。
「まぁ二人が怪しいっていうのはちょくちょく聞いてたけど、最近たしかに増えたよねぇ」
「そんなしみじみと言わないでくれよ……」
料理を取り分けながら言うクロスにリーヤが撃沈している。
「まぁ噂だからいいじゃない。そもそもいつも一緒にいるし、リーヤがよくラウロの部屋から朝帰りしたりするし、料理半分こしたり、ネタには事欠かないと思うんだ」
「「…………」」
にこにことネタを挙げるクロスは、もしかして地味に機嫌を損ねていらっしゃるのでしょうか。
怖くて聞けないリーヤとラウロだった。
「半分こはあれだよね、学生時代の習慣? 身にしみてるって怖いよね」
「本気で嫌なら攻撃呪文の一発でもぶちこめば。元凶に」
「や、それはさすがに」
「だいたい元凶ってどういうことだ」
「最近の噂の再燃の元凶、そこにいる暇な交易商人だよ」
「あ。ルック酷いよ暴露するなんてー」
さらっと言ったルックにシグールが抗議の声をあげる。
「……シグー、ル?」
「だって暇だし。ゴシップのひとつやふたつあった方が、気晴らしになっていいんだよ?
」
幹部たるもの身を張って提供しないと、といい笑顔で言われて二人は顔を引きつらせる。
「軍主だとちょっと噂にするにはとっつきにくいランクなんだよねー。だからその周りの有名人とかだとおいしい」
「おいしいって何」
「昔は青いのと熊がよくあったよね。あと騎士二人とか」
「青いのと赤いのは今も昔もペアだよねぇ」
「そうなの?」
「クロスの時はちょっと例外な気がする」
そのままかつてのネタについて話し始めた三人に、もうこうなったら止まらないと諦めて、リーヤとラウロは食事を進める。
「ひとつずつ地道に否定するしかないのかー……。あ、それうまそう。ちょっとくれ」
「面倒だからお前一人でやれよ。ほら」
「なんで俺だけ!? さんきゅ」
「……あんたたち、否定しても余計こじれるだけな気しかしないわ」
「まったくだ」
大皿があるんだからそっちからとりなさいよ、とネイネに言われてまったく無自覚らしく首を傾げているリーヤに、これは重症だわとメルディとネイネは溜息を吐く。
それを見てシグールが爆笑して、この二人にもおおいに原因はあるんだよねぇ、とクロスとルックはそれぞれ苦笑を漏らしていた。
***
<ラウロ&リーヤが恋人だと勘違いされ、それを見た4ルクと遊ぶシグール>
限りなく酷い。
しかしやっていることはくっついていようがいまいが同じなんだこの二人…。