<おにごっこ4>
「中継が入りましたー。えーと……あ、湯葉がアウトになったね」
「「なにぃぃぃぃぃ!?!?」」
「本命の一人が!?」
「一番捕まらなさそうだったのにー!!」
シグールの中継と同時にあちこちから悲鳴があがり、ハズレ券が宙を舞う。
実力的には一、二を争うユーバーがまさかの最初に脱落するとは誰も思いもしなかったに違いない。
「で、さっきから上で不吉な音をさせてるのはC班とF班が戦ってる音で、外で鳴ってる戦闘音はG班とオニが熾烈な攻防をしている音らしいでーす」
「ちゃんと外で戦うあたりおじさんらしいですね」
石を動かしながら言うロアンは、しっかり叔父の特徴を把握しているようだった。
★
「……近寄りたくねぇ」
「ラウロ本気だー」
「テッドとシエラ様、完璧に楽しんでますね……」
地面のあちこちに穴が開いている。
ところどころ焦げたところも見受けられるのは、現在進行形で落ちまくっているシエラの雷のせいだろう。
最近書類でカンヅメになっていたラウロのストレスと、テッドの悪ノリと、シエラの暇潰しと、ジョウイの必死さはイーブンらしい。
まるでどこぞの軍隊が戦っているような光景をひっそりと観戦している三人は、飛んできた流れ雷を避けるように木材に隠れた。
「……このへん直すの大変そう」
「ちゃんと後であいつらが直すって……たぶん」
「いいんじゃないですか、湯葉にでもやらせておけば」
「さりげにササライもユーバーに酷いこと言うようになったな……」
「そうですか?」
にこやかに笑うササライに、リーヤは引き攣った笑みを返した。
三人が今いるのはウーソ族の集落の周りに積み上げられた木材の陰だ。
ここから少し行くとウーソ族の集落になるのだが、一応四人とも理性は残っているらしく、集落までは被害が及ばないよう加減はしているらしい。
これで加減とか言うと冗談にしか聞こえないが。
「あいつらこれにかこつけてストレス発散してるだけだよなー」
「そうだなー……ってケイン!?」
「いつから……」
「最初からあっちの方にいた。そしたらおまえらが見えたからさぁ」
「あなたは参加しないんですか?」
見学しにきたのかよ、と言うケインはラウロとジョウイと同じG班だ。
小首を傾げて尋ねたササライに、ケインは頬を引き攣らせた。
「逃げるだろ普通。あんなのに巻き込まれたら俺みたいな非力な医者はあっという間にKOだ」
「…………」
「……非力?」
「非力だろ。剣も魔法もからっきしだぜ?」
「メス投げて患者縫いとめる男が非力……」
どっかーん、とリーヤの呟きを、テッドの出した裁きの轟音がかき消した。
ていうか真の紋章を使うな。
★
「うわー……」
「お前ら……」
「なんだその視線は!」
「いや……なんつーか、悪漢が少女を襲ってるって感じが……」
「これ見てそれを言うか!?」
クロードとヒーアスとキルベスの言葉に、ウリュウが地面に突っ伏した状態で叫んだ。
上のどたばたが聞こえなくなったので、どうなったかなとクロード達がこっそり様子を見に行くと、そこには激しい戦いの跡があった。
壁や床はところどころ崩れ、そしてそれに埋もれるようにウリュウが両手足を縛られた状態で埋もれている。
そしてそれを甲斐甲斐しく手当てしているのはギラムだ。
たぶんウリュウをそんな状態にしたのはギラム自身だと思うのだが。
アレストとイックも壁際に座り込んでいて、その腕に青のバンダナはないから、どうやらC班は全滅したようだ。
イックに癒しの風をかけているメルディが、にこやかな笑みを浮かべて言う。
「アレストとイックは優しいわよ。私達が怖がると攻撃やめてくれるもの☆」
「……最大限に使ってきたよな」
「実際戦闘中の構図は、女子を襲っている熊にしか見えなかった」
「イックΣ( ̄□ ̄|||)」
イックの呟きにアレストががくりと肩を落とす。
ころころと笑いながら、メルディはじたばたともがいているウリュウを示して言った。
「ウリュウはずーっとギラムと戦ってたけど、すごくいい勝負だったわよ」
「結局二人とも相打ちでバンダナは取れちまったけどな」
「……でもあれを見ていると」
「ギラムの勝ちって感じだよな……」
「ギラムもつえーのか!?」
「そういう意味じゃない。黙ってろ」
目を輝かせて今にもギラムと戦いそうなキルベスを床に押し付けて、クロードはどうしようかと考えた。
ウリュウ達が脱落したのであれば残るはメルディとビッキーのみなわけで……。
「メルディ、ビッキーはどうした」
「あの子はねー……くしゃみして、どっか行っちゃったわ」
「…………」
ビッキーはやっぱりビッキーだった。
「つまり残るはメルディだけ、か」
視線を向けられたメルディは少し困ったように髪をかきあげた。
「もしかして戦闘要員男性三人がかりで女の子一人を相手にするの?」
「そう言われると非常にやりにくいんだけど……」
顔を引き攣らせたヒーアスに、メルディはくすりと笑って右手を前に突き出した。
「三十六計逃げるにしかず! 切り裂き!!」
「なっ!!」
切り裂きは床目掛けて放たれ、それは突風となって全員の視覚を一瞬奪った。
その隙にメルディはあっという間に姿を消し、残るはクロード達と失格者のみ。
「逃げられた!」
「くそっ……」
「でもまあ、ビッキーがどこに飛んでいったかはわからないけどさ、三人残ってるチームが少なくなってきてるってのはわかってるわけだし。最後まで三人で残れれば」
「随分楽観的な考え方ねヒーアス」
「っ!?」
ざっと現れた三つの影に、クロード達は振り返り、そのオーラに圧倒される。
「あーあ、こんなに壊しちゃって……あの子が後で怒るわよ〜」
「本人も随分と暴れてるみたいだけどね」
「ふふ……そろそろ私達も暴れましょうか」
「……どーするよクロード」
「逃げる。ヒーアスあとは頼んだ」
「俺ぇぇぇぇ!?」
「逃がすものですかっ!」
声と同時に飛んできた銀色の盆が、ヒーアスの頭にクリティカルヒットした。
★
「ダナイみーっつけた!」
「あらやだ、見つかっちゃったわね。でも捕まえられるかしら」
「それじゃあダナイさん、また後ほど」
「ええ、頑張って逃げましょうね」
二手に分かれたライとダナイにスピカは一瞬迷って、ライを追う事にした。
ダナイの足が速い事は一緒に旅をして知っているので、普通に追いかけるだけでは捕まえられない。
とすれば少しでも望みのあるライから!
「ぜーったい捕まえるんだからっ!!」
バロックさんはダナイをお願いねー! とかなり無茶な事を言って駆けていくスピカに、バロックは苦笑する。
「私、ダナイ殿と同じチームだったんですけれどね……」
捕まえられないと思って言っているのか、手を抜くと思われているのか。
「あっれー? バロックさん、オニになっちゃったの?」
「これはちょうどいいところに」
丁度会ったネイネに簡単に事の次第の説明をすると、ネイネはなるほどねと頷いて笑った。
「さすがに同じチームを捕まえるのは無理よねー」
「難しいとは思いますよ」
苦笑するバロックに、ならあたしに任せてとネイネは笑って駆け出した。
「あ、リアトとアリエに会ったら、手伝ってって伝えてー!」
「わかりました」
***
現時点で湯葉、バロック、アレスト、イック、ウリュウ、ギラムがリタイヤ。
ビッキー行方不明。
ギラムは自力でほぼ願いをかなえた模様。