<おにごっこ3>
「最初の中継が入ってきましたー! どうやら逃走C班と逃走F班が接触した模様! 屋上近くで戦闘が始まりました! あとオニB班が逃走G班を追って本拠地の外に出てったらしいね!」
大広間では、忍者とカフスの鳥から集められた情報が次々に飛び込んでくる。
その様子をシグールが実況すると、ロアンが用意された大きな石版の上に置かれた小さな石を動かしていく。
それぞれの石は青と赤に塗り分けられ名前が書いてあるので、これが彼らの現在地を示しているのだ。
「ちなみに『誰が最後まで残るかトトカルチョ★』の変更受付は最初の一人が捕まるまでだからねー! さあまだ申し込みしてない人は張った張ったー♪」
「……商魂たくましいというかがめついというか」
「商人魂と言ってくれたまえ」
マリンとワックスがぼそぼそとやりとりをしていたが、マリンもしっかりトトカルチョの札を持っていたりするので説得力はない。
★
ユーバーは地下室のくらがりの中、最近は訪れていなかったかつての定位置に身を横たわらせた。
船着場から入り込んだ風が地下の空気で冷やされて、やや肌寒いと感じる者もいるだろうが、ユーバーは暑いも寒いも不快に感じた事はないので問題はない。
むしろ光の差さない室内は落ち着く。
手を腹の上で組み、ゆったりと意識を沈ませて――
「ユーバーつっかまえたー!!!」
「!?!?」
どかっと腹の上に降ってきた衝撃に、ユーバーは箱から転がり落ちた。
「だ、大丈夫リアト、ネイネ」
「いたたた……」
「ユーバーちゃんと受け身とってよー!」
目を白黒させるユーバーの前にはリアトとネイネがいて、アリエが心配そうに三人を見下ろしている。
呆然としているユーバーの腕から中継役のアスカが青のバンダナを取って、赤いバンダナを代わりに巻いた。
「それじゃああたしは報告してくるね〜♪」
「よろしくー」
「さ、行くわよユーバー」
ネイネとリアトに両側から腕を引っ張られて、ユーバーは茫然自失のまま闇から引きずり出された。
こんな近くまで近寄られるまで気配を感じられなかった、というより気取ろうとしなかった自分の気の抜きっぷりに二割。
そして、自分が捕まった事がクロスとルックに知られた時の恐怖が八割。
「…………」
「あっ、逃げた!」
「今更!?」
「ユーバー、どこに行くのー!!」
後ろから声がかかるがユーバーは振り向かずに逃げた。全力で。
★
「あら、こんなところにいたの?」
「こんにちは」
「随分とのんびりしているんですね」
「序盤から動き回ってたらつかれんじゃん?」
「それもそうですが」
いくらなんでものんびりすぎやしませんか、とライはお茶セットを広げているリーヤ達に苦笑する。
たまたま通りがかった石版の間に人の気配があったので何気なしに覗いて見たのだが、まさかこんなところで出くわすとは。
「どうする? 逃亡者同士戦ってみるか?」
「あなた達と正面から戦って勝てるとは思わないからやめておくわ」
苦笑気味にダナイが言って、バロックとライも同意する。
襲うなら、この部屋に入る前に仕掛けなければ。
「それじゃあ私達は行くわね」
「どこにですか?」
「さっきから上で音がしてるでしょう? 様子を見に行こうと思って」
「あわよくば残った方を戦闘不能にしちゃおうって?」
「やだなぁ、そんなことは考えてないですって」
あはは、と和やかな会話を打ち消すように、外からの轟音が響いた。
「なんだぁ!?」
窓に近寄って見ると、見える範囲の端の方に煙があがっている。
どうやら外でも戦闘が始まったらしい。
しかもかなり大規模な。
……遊びの一環にしては明らかにやりすぎな気がする。
「派手にやってんなー」
「誰だよ……」
「たぶんラウロんとことテッド達じゃね?」
「え、なんでわかんの」
「本拠地から離れてねーと、あんだけ本気で戦えねーもん」
「…………」
「たぶん最初からそのつもりで動いてたんだと思うぜー」
「本拠地を壊したくないからでしょうねぇ」
「…………」
あれ、これってそういうものでしたっけ。
バロックとペリアの考えをよそに、リーヤはいきなり窓を開けてササライに指で示す。
頷いて、ササライは窓からばっと外へ飛び降りた。
ここは二階だが、肉体を鍛えていないササライがそんな事をしたら怪我をしかねない。
突然の行動にペリアが声をあげる。
「ササライ!?」
「なんです?」
「へ」
意外に近くから声が聞こえたかと思ったら、窓の外の地面が大きくもりあがって、一階ほどの高さまでの山を作っていた。
「はい行くぞー」
ぽいっとペリアを肩に担いでリーヤも窓の外へと飛び降りる。
リーヤもその山の上に着地すると、ササライが小さくなにかを唱え、地面を元の高さへと戻して行った。
「なるほど……土の紋章を利用して」
「あんな応用もできるのね」
「さすがですね」
「ダナイ、ライ、バロックみっつけたー!!」
「あっ!」
入り口で仁王立ちしていたのはスピカで、どうやらリーヤ達が窓から出て行ったのは、スピカが来た事を察知したからだったのだろう。
「見つかっちゃいましたね」
「俺達も窓から逃げますか?」
「……さすがに窓から私は無理ですので、お二人で逃げてください」
「そう、悪いわね」
「それでは、よろしくお願いします」
「逃がさないわよー!」
スピカが走ってくるが、それよりダナイとライが窓から飛び降りる方が早かった。
逃げられたー! と窓から身を乗り出したスピカの左手はしっかりバロックの服を握っていて、これで逃走Bチームは一人欠ける事となったのだった。
★
「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ジョウイ黙れ」
「これで静かにしていられるかぁぁぁぁぁ!!!」
絶叫するジョウイに舌打ちして、ラウロは目の前の鬼二人を正面から見据える。
テッドがこちらに向かってくるのはほぼ覚悟していたが、シエラとタッグを組んでくるのは五分五分だった。
「……考えてみたらジョウイがいるんだから、こちらにくるのが妥当か」
「なに冷静に分析してんだよ!」
威嚇半分本気で潰す気半分のラウロの震える大地はテッドとシエラにロクにダメージを与えられていなかったようで、二人ともけろりとしている。
「おまえなぁ、いきなり震える大地とかやるなよ。普通のやつなら一発でダウンだぞ?」
「まったくじゃ。こんなかよわい少女相手に酷いではないか」
「手加減できるような相手じゃないだろ」
「ちょ、ラウロ! 非戦闘要員のケインもいるんだぞ、あんまりバカスカやったら……」
「ケインならいないぞ」
「……へ?」
「ケインなら戦闘が始まると同時に逃げた。巻き込まれたくないだろうからな」
テッド達担当の中継役であるヤマトの言葉に、ジョウイは沈黙した。
テッドとシエラVSラウロとジョウイという人外ペアの戦闘になど巻き込まれたくはないだろう。
ヤマトだって、中継としての役目がなければこんなところにいたくない。
「さて、そっちがその気ならこっちも本気でやってやろーか」
「ふふふ……楽しいのう。こんな楽しいのは久々じゃ」
「これおにごっこですよねー!?」
「ジョウイ、ぐだぐだ言ってないで構えろ」
「……こうなったら二人を倒すしかないんだな」
捕まったら喰われる。確実に喰われる。
あれは鬼だ悪魔だと暗い表情で呟きながら、こうして遊びとは思えない戦いが始まった。
***
まだまだ続くよ!