<おにごっこ2>





【ルール説明】

三人一組。
チームは一緒に行動しても別行動してもいい。
夕暮れの鐘がなった時点で最も残った人数の多いチームが勝ち。
紋章や武器の使用も許可。
オニにバンダナを取られたら、赤いバンダナをもらいオニになる増殖ルール。
ただしオニに捕まる以外にバンダナを取られた場合、また非戦闘要員メンバーへの攻撃をした場合はオニ・逃走班に関係なく失格とする。



「…………」
「ルック、どっちに行ってみようか」
「どっちでもいいからとっとと終わらせようよ」
「…………」
ざくざくと歩く前二人は、やや離れたところを一人でついて歩くユーバーを振り返った。
「…………」
「…………」
「……俺は、別に動く」
「じゃあ湯葉、こっから別行動ってことで☆」
「捕まったら殺すから」
「…………」
明らかに別行動しろと視線で仕向けてきたくせに、と口には出せずにユーバーは二人と離れて本拠地の暗がり部分へと向かった。

正直どうしてこの二人と同じチームになってしまったのかさっぱりだが(チームわけはシグールが行った)、たぶんおそらく遊び半分で組まれたに違いない。
そもそも無理矢理引きずり込まれたユーバーに、やる気など一切ない。
ルックの言葉通り足を引っ張ればどうなるかも考えたくないので、このまま時間切れになるまでどこか静かな暗いところで眠ろう。
そう思って、ユーバーはふらふらと本拠地の中へと入っていった。



「それにしてもユーバーさんは残念でしたね」
三人並んで歩きながらバロックが言う。
まだオニが放たれてはいないからこうしてのんびり歩いていられる。
「まさかユーバーさんが参加するとは思ってなかったですけどね」
「あまり騒がしいのは好きじゃないって言ってたから、参加しないのかしらと思っていたのだけれど。でも皆でこうやって楽しめるのはいいことよね」
にこにことライとダナイも言葉をかわす。
戦闘要員二名と非戦闘要員一名の和やかパーティである。

「セセナちゃんだいぶ拗ねてたけど大丈夫なの?」
「ええ、まぁ……きっと終わる頃には機嫌を直してくださっていると……いいのですけれど」
絶対参加するのと息巻いていたセセナは、さすがに参加はさせられなかった。
特に年齢制限は設けられていなかったが、本気で優勝を狙っていくのであれば、子供はあまり入れられない。
というか武器紋章なんでもありなおにごっこに参加は絶対させられないとライが突っぱねたのだ。
バロックはひとえに日頃からウリュウとの追いかけっこで足腰が鍛えられているからである。

「でも、ライ殿がこうして参加しているのは、セセナさんのためでしょう?」
「こうして参加しなくっても、ライならセセナちゃんのお願い事なら叶えてあげられそうなのにねー」
くすくすと二人にお見通しだといわんばかりに笑われて、ライは軽く頬を染めて頭を掻いた。



「目指すぞ優勝!」
「勝ち取れ休暇!」
「…………」
「おい、ノリが悪いぞイック」
「お前はほしくないのか休暇」
「そうだぞ、これを機会にかわいこちゃんと仲良くなるチャンスをだなぁ」
「俺は特にそういうことに興味はないです」
「お前……それでも男か!?」
「相変わらずストイックだな」
ウリュウとアレストのノリにはついていけない、とばかりに首を振ってイックは歩く。
特に叶えてほしい望みがあるわけでもなくいい息抜きにもなるし鍛錬にもなりそうだと思って参加したのだが、同じチームの二人についていくのはなかなか疲れそうだと口にはしないがぼんやりとこれからの数時間のことを考えて溜息を吐いた。

そろそろオニがスタートした頃だろう。
今回の逃走範囲は本拠地の中と周辺の数キロだから、逃げ続けるよりもどこかに隠れてやりすごした方がいいのだが。
「まずはFチームを潰すんだ!」
「…………」
「あんまり気乗りはしねぇんだけどなぁ」
「あそこが生き残ったら俺は死ぬ」
真顔で言うウリュウに、二人は仕方がないと行動を開始した。
狙いはFチーム。



「なあなあ、どっから潰す?」
「いや、しばらくは様子を見る。おそらくCチームのウリュウ達はFチームを潰しに行くだろう。同士討ちが終わるまでは俺達は隠れてやりすごすぞ」
「よく断言できるな」
「Fチームにはギラムがいるからな」
あ、なるほど。
ヒーアスは納得だとばかりに頷いた。

ギラムの望みはウリュウ関係で間違いないだろうし、それはウリュウも勘付いているだろう。
となれば全力で阻止しにかかるに違いない。

「できればGやHとは当たりたくないんだが……」
「向こうから攻めてこられると勝ち目ねーぞ」
「できればそこで相打ちしてほしい」
「……するかね」
「リーヤとラウロが同士討ちしてくれるといいんだが」
「えー! 俺、いっぺんラウロと戦ってみてー!!」
「手合わせじゃないんだ」
あと叫ぶな、とクロードの蹴りがキルベスの鳩尾に入る。
うめき声と共に腹を押さえて静かになったキルベスに、ヒーアスは冷や汗を流しながら静かにしておこう、と決めた。



「そろそろオニがスタートした頃かしらね」
「でもよかったの? 本当に私と一緒に行動していて」
「全然かまいませんよ。ね、ビッキー」
「うんっ」
「二人とも……ありがとうっ!」
瞳を潤ませるギラムに、ビッキーとメルディは楽しそうに笑う。
メルディとビッキーでは、逃走班同士の一騎打ちになった場合、戦闘力に欠けるのだ。
けれどギラムがいればある程度時間が稼げるし、そうしたらビッキーの転移で逃げ切ることもできる。
かわりにウリュウがギラムを叩きに事は分かっているので、迎撃準備は万全だ。

「ギラムさんはやっぱりウリュウさんとのデート?」
「うふふ、どうしようかしらね〜」
「私てっきり、もう決めてると思ってたわ」
「秘密よv ビッキーちゃんとメルディちゃんはどうするの?」
「えーと、私はね、まだ考えてなかった」
小首を傾げて笑うビッキーはビッキーらしい。
くすくすと笑って、メルディは私はねぇ、とちょっと笑みに深みを見せた。
「ちょっと弟で久しぶりに遊ぼうかなって☆」
「あら、メルディちゃんたら怖い顔」
「やーだぁギラムさんってば」

「見つけたぞギラム!!」
きゃっきゃしていたところに野太い声が割って入って、三人は声のした方を振り向いた。
そこには鬼気迫る表情をしたウリュウと、いまいちやる気のなさそうなアレストとイックがいた。

「きたわねウリュウさん」
「待ってたわ、ウリュウ様〜」
「ええい俺の名前を呼ぶな!」
「完全にこちらの行動は読まれてますね」
「まあ、始まる前にも宣戦布告してたしなぁ……」
ウリュウより一歩引いたところでウリュウとギラムのやりとりを眺めているアレストとイックはいまいちやりにくい。
ついでにこれではまるで悪漢が女性を襲っているようだと俯瞰的に見てしまって、更にモチベーションが下がるイックだった。

「ウリュウ様との未来のため……ギラム、行きます!」
「日頃のセクハラ発言の恨み、晴らさせてもらいますから!」
「ええと、ええと……頑張ります!」

「メルディ、酷いな……」
「ウリュウ殿……あんたどんだけ嫌われてんだ……」
「ほっとけ!」



なんでこのメンバーになったんだ。
いたたまれない空気にジョウイは別行動したい衝動に駆られていた。
逃走Gチームはラウロ、ジョウイ、ケインだ。
軍師が逃亡班に入っていいのかはなはだ疑問だが、今回の主格はシグールでつまりこれはアーグレイ軍のイベントというより外部の行事みたいなものだから問題ない。という事にしたらしい。

ぶっちゃけラウロの願いは「一日仕事を肩代わりさせる」なわけで(宣言していた)、それはつまりジョウイかテッドあたりに降りかかってくることが目に見えていた。
だからこうしてジョウイはラウロと同じ班になって、その役目をテッドに押し付けようと思っていたのだが、テッドは自分が鬼になってラウロの願いを阻止する事にしたらしい。

「確実にテッドはこっち狙ってくるんだろうなぁ……」
「わかってるなら足を動かせ。とりあえず本拠地から離れるぞ」
「本拠地で隠れていた方がいいんじゃないのか」
ケインがやる気のなさそうに欠伸をしながら言う。
彼がどうしてこれに参加する気になったか知らなかったので、ジョウイは少しでもこの空気を壊そうと尋ねてみた。
「ケインはどうしてこれに参加する気になったんだ? あまりこういうイベント事に参加するようには見えなかったけど」
「……カナメが勝手に申請したんだよ。決定権は自分に寄越せとぬかしやがった」
「…………」
あ、無理矢理入れられた口ですか、ご苦労様です。

「で、なんで離れるのか聞いてないんだが」
「本拠地にいたら壊れるだろう」
「…………」
なにがだ。本拠地がか。
確かにテッドとラウロが本気で戦ったら、ラウロは土の紋章装備だし、テッドもソウルーター装備で、本拠地の壁や床のどこかが破損するのは目に見えている。
というかそこまで考えているという事は、大技を使う気満々か。
「何もなければ思いきりできるからな」
くくく、と低く笑うラウロは明らかにストレス過剰気味で。
彼がこれに参加した理由の半分くらいはストレス解消じゃないのかとジョウイは口をつぐんだ。



どこからか聞こえた爆発音に、アリエはきょろきょろと周りを見回す。
「さっそく始まってるみたいね」
「どこかしら」
「ウリュウさんのとこと、ギラムのとこじゃないかなーって思うんだけど」
のんびりと歩くオニ三人は、ゆっくりと歩くだけで、急いでいる様子はない。
鐘が鳴るまで半日ある。最初から飛ばしては最後までもたないし、本気で逃亡班が逃げていれば、リアト達がどれだけ頑張っても捕まえられるとは思えないチームが大半だ。
「ヒーアスのとこは頑張ればなんとかなると思うのー……不意さえつければ」
「戦闘になったら敵わないものね」
「ばらばらに移動してくれれば楽なんだけど」
「そうよねー……あ」
ぴた、と足を止めたネイネが、指を唇に当てて二人を制した。
視線の先にはだるそうに歩く人影がひとつ。
金髪のみつあみを揺らし、地下室へと続く階段を降りていくのはユーバーだ。
「ユーバーだね」
「一人かしら」
「一緒のチームなのって、たしかクロスとルックよね」
「あの二人と別行動……はありえるわね」
こっちに気付いてなかったし、チャンスじゃない?
手合わせなら絶対に勝てないけれど、今は鬼ごっこで、不意をつけば捕まえる事くらいはできるかもしれない。
しかも相手は一人。
チャンスだと三人は顔を見合わせて、ゆっくりと地下室へと足を踏み入れた。



「……なぁ、こんなとこでのんびりしてていいのかよ」
そわそわと落ち着かなさそうなペリアと対照的に、リーヤとササライはのんびりとお茶を飲んでいる。
ちなみにお茶はササライが水筒に入れて持参してきた。

場所は石版の間で、普段ここにいるルック達はおにごっこに参加しているために外へ出ている。
一応窓や入り口から見えない部分にいるものの、こんなところにいたら見つかった時に逃げ場がない。

「大丈夫ですよペリア」
にっこりとササライが窓を指差す。
「ここは二階ですから。誰かに見つかったらあそこから逃げればいいんです」
「なっ!?」
「時間稼ぎはリーヤがしてくれますからね」
「え、俺!?」
「誰か一人でも残ればいいんですから。そしたら後は僕とペリアでなんとでもします」
「……残るなら俺の方がー」
「リーヤだと、ラウロやテッドやジョウイやアレストが手加減してくれないでしょう? それともリーヤは僕とペリアを見捨てて逃げるっていうんですか?」
「え、おにごっこでそんな外道みたいな言われ方すんの……?」
「ていうか、おにごっこってそんな命がけみたいな逃げ方すんの……?」
ちぇー、とリーヤはお茶を啜る。
「そういえば、ペリアのお願いごとは何なのですか?」
「いや、俺は特にはないんだけど……メルディが」
「メルディが?」
「残ったら、おねえちゃんって呼べって」
だから俺はあいつの野望を阻止するんだ、とやけに悲愴な顔をしているので、そんなに嫌なのか、と二人は思った。
「別にいいじゃないですか」
「だって双子なのに!」
「普段どう見てもメルディのが上だけど」
「…………」

リーヤに即答されてペリアが黙って机に突っ伏してしまった。
「僕の願い事がルックに「おにいちゃん」って呼んでもらうことだったんですけど……ペリアがここまで嫌がってるってことは、ルックも同じくらい嫌なんでしょうか?」
「あー……」
「逆に聞きたいんだけど、そんなに呼んでほしいもんなの?」
顔だけ上げて尋ねるペリアに、ササライは笑顔で「だって可愛いじゃないですか」とのたまって、ペリアをもう一度撃沈させた。



「じゃ、そういうことで」
「……ふふふ、牙が疼くのう」
「それじゃあまた後でねー!」
スタートの合図と同時に、テッドとシエラはスピカと別行動をとった。
テッドとシエラの目的地は同じで、この二人と一緒に行動しても一切自分にメリットはないとスピカが判断したためである。
「やっぱりGチームだよなぁ」
「あそこにはジョウイとラウロがおるからのう。ケインとやらも一度味見をしてみたかったのじゃ」
「三人一緒にいると思うか?」
「効率を考えれば、別々に行動するより共に行動しておいた方が抗戦しやすいからのう」
「たしかにな」
「そして、わらわ達が追ってくることをやつらは想定しておるだろうよ」
「となると、本拠地ぶっ壊されるのを嫌うラウロは外に行く……ってな♪」
「向こうもそれくらいはわかっておるじゃろうが」
「わかってようがなんだろーが、ねじ伏せちまえばこっちのもんだ」
「しかたがない、捕まえるまではおんしに協力してやろうぞ」
「よろしく頼むぜシエラ様」
「おんしもわらわのためにしっかり働け?」
「そんかわり、俺の血は吸うなよ」
「わかっておるよ」

くくくくく。
ふふふふふ。

いい笑顔を浮かべて歩く二人の周りの空気がどす黒くて近寄りたくない、と中継役として二人を遠くで見ていたヤマトは、距離を更に離したのだった。
というかおにごっこの主旨完全に違えてないかこの二人。




***
というわけでまずはそれぞれの班の動きでした。
え、ひとつ足りない?
そこはもちろん……です。