<おにごっこ1>





ばらばらばらーっと広げられた横断幕に歓声が上がる。
大広間を横断するほどの大きな紙に味のある手書き文字で書かれているのは「本拠地大鬼ごっこ大会」だ。
どの辺が「大」なのかは分からないが、とりあえず「大」らしい。
横断幕を背に負って立ち、タッカ特製拡声器を片手に立っているのはシグールだ。

……発案者が彼でなければ。
リアトが口車に乗って賛成しなければ。
娯楽の少ない本拠地の子供達の耳にはいらなければ。
そしてそれがノリのいいお姉様方が聞きつけなければ。
ラウロは却下していただろう。
シグールの事だからここまで計算していたに違いないが。
お祭り騒ぎに乗り気でない真面目連中も、シグールの「逃げたりおっかけたり、実地訓練にもなるんじゃない?」というの口車で陥落済みである。
どこまでも遊ぶ事に全力かつ根回しのいい御仁である。

賞品は人によって一番ほしいものが、軍の総力をもって提供される。
一般兵の部はすでに終了しており、優勝者には羽毛布団が進呈された。寒がりだったらしい。


というわけでほどよく盛り上がったところで上級者による対決が始まった。
チームは三人一組で、一緒に行動しても別行動してもいいが、チームの番号が刺繍された青いバンダナは腕につけていなければならない。
そして追いかける側となるオニは赤のバンダナを身につけ、オニにバンダナを取られた者はオニとなって赤いバンダナをつける。
つまりはオニはどんどん増えていくことになる。
もちろん逃走交渉力づくなんでもありだ。
逃走班同士で蹴落としあっても構わないし、オニを襲撃して倒してもいい。
オニが赤いバンダナを取られた場合はそのオニは失格となり、逃走班同士の戦いでバンダナを失った者も失格となる。

尚、紋章も武器も使用か許可されているが、非戦闘要員へのハンデとして、戦闘要員は非戦闘要員への攻撃は不可とする。
攻撃をした場合はその者は失格となり、きついお仕置きが待っている。

夕暮れの鐘まで逃げ切った中で、一番生き残りが多かったチームが優勝となる。
逆に夕暮れの鐘までに全員を捕まえれば、オニの勝利である。
――ちなみにオニが誰かは逃走班の面々は知らされていない。




「ルールについての質問はないですねー?」
「「おおー!」」
「それでは――開始!」
高らかなシグールの合図と共に、フライパンのドラが鳴る。
散り散りになっていく逃走チームを見送って、シグールは横断幕で区切ってあった向こう側に声をかけた。
「さて、準備はいい? 」
「うん」
鬼の目印である赤いバンダナをつけたリアトが頷く。
「ちゃんと捕まえられるかしら」
「張り切っていくわよー」
にこにこと笑っているアリエに、ネイネが楽しそうに腕を回している。

ああのんびりしてるなぁとちょっと和んだシグールが隣に目を滑らせると。
「腕が鳴るなあ」
「たまにはこういうのに参加するのも面白いのう」
「じゃんじゃか捕まえるわよー!」
くつくつと。
にやにやと。
わくわくと。
おそらく、今逃げている人の内の何人かが見たら背筋を凍らせるような三人のオニがそこにいた。
テッドとシエラとスピカ。
誰だこの鬼の人選認めたの。

やる気満々で屈伸をしているテッドがシグールに尋ねた。
「そういや誰が審判とか報告すんだ?」
「テッド、一般兵の部見てなかったでしょ」
「ハハハハハ」
「カフスの鳥と忍者の皆さんにご協力いただいてまーす☆」
快く引き受けてくれました、と笑顔で言うシグールに、本職と違う任務をさせられている忍者がちょっとかわいそうになったテッドだった。



***
<シグール主催の、多大な賞金をエサに本拠地城内おにごっこ>

書き出したらきっと長くなるんだろうなぁと思っていましたが、案の定続きます。