<人生経験>





「ジョウイだけ受けたことないんだよね」
ぽそりと呟いたシグールの言葉に、その場にいた内の数名は意味が分からず目を瞬かせ、また変な事を言い出したと何名かはスルーし、当の本人はなにが、と問い返した。
毎度の事だがそこで流せば済むだろうに、どうしてそこでわざわざ被害を受けるように話を進めるのか。
学習能力がないのだろうか。

「僕はギャグを言ってるつもりはないぞ」
「その受けるじゃなくて」
こっちの方、と両手で意味を示すジェスチャーをして見せたシグールに、やっぱりワケが分からないと一名だけが首を傾げ、後はそのジェスチャーの意味を正しく理解できる程度に世間ズレしていなかったので、一斉に吹き出した。
「…………」
無言でクロスは机の上の惨状を片づけにかかった。

「な、な、なななななな」
「唐突に凄いことを言い出すなお前は……」
「その突拍子のなさには時々敬服するよ」
「でも、そういえばジョウイだけないのか」
「ないってなんのことですか?」
一人だけ分からないセノは、仲間はずれにされたと勘違いしてか頬を膨らませている。
そうじゃないとジョウイが否定する前に、面白がっているらしいルックがざっくりと意味を教えてしまった。
セノは理解すると、ちょっと頬を赤く染めて、なかったっけ、とジョウイに話を向けてきた。
ありませんから!
「ぼ、僕だけか!?」
「だって僕らは普段から突っ込まれてるしぃ?」
にやにやとシグールは笑う。
ルックもセノも何も言わないが、まあそれは最初から分かっている。
「やだなぁジョウイ。忘れちゃったの?」
にっこり、とクロスは微笑んだ。
ルックの機嫌を損ねないようにか口に出さないものの、彼は今でこそルックに対して攻めに回っているが、そういえば百五十年前は受ける方だったんだった。

慌てて視線を最後の望みに移した。
「テ、テッドは」
「あのなぁ……」
はぁ、と溜息を吐いてテッドは笑った。
「三百年以上生きてて、経験がないと思ったのか?」
「……あれ、人生経験なんですかそれって」
「何百年も放浪生活してると色々あるよねぇ」
「あるよなぁ」
クロスまで同意するものだから、そういうものなのか、とちょっと真面目に思ってしまった。

「ほら、ジョウイだけだ」
「別にそれのなにが悪い!?」
「テッドも人生経験って言ったし」
「……人生経験で片づけるものじゃないだろ!!」
「でもこいつ相手じゃする気も起きないんだけど」
「なんだか地味に貶められた気がするが今はナイスフォローだルック!」
「でもジョウイ、髪の毛下ろすと綺麗だよね」
「そういえば女装も似合ってたしな。顔の造詣は悪くない」
ふむ、とテッドがぐいと顔を寄せてきた。
息が当たって、焦点がぼやけて輪郭が歪む。
「近い近い近い!!」
「いけなくはないな」
「なにが!?」
「で、どうするよ」
「目隠ししちゃったらわからなくなりそうだしいいんじゃない?」
「なにがどういいんだ!?」
「まあ一晩だけの火遊びを思えば許してあげよう」
「随分と寛大なお心だなぁ我が恋人様は」
明らかに遊んでいる言葉のやり取りが続く。
しかしジョウイにとっては冷や汗もので、しかもなんだか話の方向が本格的に笑えなくなってきた。

「セノは?」
「うーん……最初は慣れた人との方がいいって聞きました。僕やったことないし」
よろしくお願いします、なんてテッドにぺこりとお辞儀までしてしまい。
セノに一瞬面食らったテッドは、すぐに笑顔を取り戻して任せておけなんて言っている。
「優しくしてやるよジョウイ」
耳元で囁かれ背筋をぞわりと這い上がるものがある。
もちろん、恐怖からくるものだ。

ひょいと離れたテッドは、にこやかに笑みを浮かべていた。
「じゃあ部屋に行くかジョウイ」
「いやいやいやいやこれはあくまで歓談の一部の戯言であって」
「何言ってる。人生経験は大事だぞ?」
「目隠しと拘束は当然として……最初は口もふさいどく?」
「面白味に欠けねぇ?」
「途中で外せばいいじゃない」
「それもそうか」
「会話が不穏すぎるから!!」
クロスとテッドのやり取りが怖い。
そろそろ本気で由々しき事態だ。

「そ、そろそろ本気で助けろ!」
「僕も手伝っていい?」
「初体験がまさかの4Pかー。大変だねジョウイも」
「ちょっと待て! 止めろ! 止めとけルック! セノも!!」
「夕食の時間までには出てきてよ」
「今日は僕らが準備しますねー」
「逃避するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



三人がかりで引っつかまれれば、ジョウイの全力の抵抗もあっさりと押さえつけられる。
連行されていくジョウイを見送りながら、セノがぽつりと呟いた。
「でも、ジョウイ浣腸されたことまだなかったんだね……便秘がないって羨ましい」
でもそんな拘束しなくてもそこまで痛くないし、怖がらなくてもいいのに。
ね、と首を傾げて見上げられたルックは、果たして本当の事を教えてやるべきかどうか少し悩んだ後、年を取ってからの初めては痛いんだよと適当に答えておいた。
「あ、そうなんだ……でもテッドさんなら大丈夫だよねきっと! クロスさん達も手伝ってくれてるんだし」
「…………」
そうだねと曖昧に濁しつつ、この事は知らないままにさせておこうと、とりあえずはセノを買出しに誘っておいた。
少し寄り道をすれば、帰る頃には終わっているだろう。
夕食は少し遅くなるが致し方ないと己の心の平穏と、セノの今後の人生をちょっぴり考えた。



 

 


***
<ジョウイをいたぶるセノ>and<首謀テッド参加シグールとルックでジョウイで楽しむ話>

ガラスの仮面の目隠しマヤが速水に抱きついて据え膳がどうのって話から最終的に行き着いたのがこれ。
どこをどうするとこうなるのか今となっては分からない。
首謀者とかいたぶるとか以前に色々と問題が山積みな気がする。

猥談でごめんなさい。
裏に続いたりして本当にごめんなさい。