<とある雨の一日>
ふあ、とリアトは欠伸をしながら布団から這い出た。
くしくしと目を擦りながら外を見ると、外はまだ暗い。
窓に水滴がついているから、時刻が早いわけではなくて、天候が悪いせいらしい。
軽いノックとともに扉を開けたヒーアスは、寝ぼけ眼な体のリアトを見て笑いながら中に入ってきた。
リアトが時間通りに起きてこない場合は、こうして誰かしらが起こしにきてくれる。
もっぱら朝が強いヒーアスが起こしに来てくれるが、リナだったりリーヤだったりもする。
「起きたか? 最近は時間通りに起きれるようになったのになあ」
「おはよー……だって最近は」
外が明るくなるの早いから、ともそもそと呟く。
最近は日が長くなって、窓から光が入ってくるからなんとか起きられるのだ。
……日の短い時や雨の日は相変わらず、なかなか起きられない。
「ま、飯食べに行こうぜ。そういやセセナが用があるらしい」
「セセナが?」
「いつでもいいから来てくれってさ」
「わかった」
ヒーアスと会話しながら支度を調えて階下におりた。
食堂ではパティがすでに準備をしてくれていて、リアトとヒーアスの前にぱっと朝食が用意される。
「いただきまーす」
今日の朝食は、パンとスープ、野菜とか色々入ったものをひとつにまとめて焼いたものだった。
密かにリアトの嫌いなものを入ってたりするのよとパティに言われた事があるが、気付かなければ平気だ。
料理する人って凄いなぁ。
デザートにフルーツのヨーグルトかけを食べていると、クロードとキルベスが連れ立って入ってきた。
朝食にしては遅い時間だけれど、二人は席につくでもなしに、誰かを探すように視線を彷徨わせる。
「あ、ヒーアスみっけ!」
「リアトもいたなら丁度いい」
「なんだぁ?」
フォークを銜えたヒーアスが心当たりがないように首を傾げる。
二人がすたすたと歩いてきて、キルベスがヒーアスの首に腕を回して意気込んで言った。
「練習しようぜ、美青年攻撃!」
「ぜってーやだ」
「俺もごめんだ」
すっぱりと即答した。
クロードも否定したから、美青年攻撃はキルベスの希望だったらしい。
「まぁそれはやらないとしても、残念な事に三人で一緒に組まされる事も多いからな。一緒に訓練した方が息が合わせやすいだろう」
「そうだけどさ、今日雨だろ? 中そんなに空いてるか?」
「リーヤとイックが相手してくれるって」
「……ツツシンデ辞退していいですか」
「この際だから道連れだ」
「楽しみだよなー」
微妙に引き攣った顔をしたクロードと、嬉々としているキルベスに引きずられてヒーアスは食堂から連行されていく。
それを見送っていたリアトに、クロードが思い出したように振り向いた。
「軍師殿が呼んでたぞ。早く行った方がいいかもな」
「そ、そうする」
慌てて残りのヨーグルトをかきこんで、リアトは食堂を出た。
ちなみにその時にはヒーアス達はもういなかった。
ラウロの部屋に入ると、なにやらレンシィとウリュウと話していたラウロが気付いて軽く会釈をした。
「おはようございます、リアト殿」
「おはようラウロ」
「ようリアト」
「おはようございます」
レンシイとウリュウにも会釈される。
二人の隣まで近付くと、あら、と何かに気付いたレンシィに布で口許を拭われた。
「今朝はヨーグルトだったのですね」
う、と慌てて口元を手で押さえた。
「つ、ついてた?」
「……朝食くらいゆっくり召し上がっていただいてもかまいませんから」
「軍師が呼んでるって聞いたら走ってくるよなあ」
豪快に笑ったウリュウは、ラウロの一睨みで沈黙した。
「それで、どうしたの?」
「ソーレナで少しいざこざがあったようで、明日にでも一度行っていただけますか」
ラウロの言に素直に頷く。
レンシイが胸に軽く手を当てて微笑んだ。
「私も一緒に行かせていただきます。よろしくお願いしますね」
「明日だね」
「他の同行する者にも声をかけておいてください」
「わかった」
「それではササライが待っていますので、彼の部屋まで」
「……はい」
さりげに書類を渡された。
仕方がないのでこのまま仕事部屋になっているササライの部屋に足を向けた。
きっとたぶん、そこにも紙が沢山あるのだろう。
仕事は昼食を挟んで夕方までかかった。
まだ残ってたりするのだが、急ぎのものは終わったのと、リアトがへろへろになってしまったため、残りは明日帰ってきてからになった。
……明日もやるのか。
明日の事を思うとちょっとどんよりとした気分になりながら、セセナを探しに行く。
自室にはライだけがいて、セセナはクロスのところにいると教えられた。
「セセナ、遅くなってごめん」
「……なんだかリアト疲れている? 今日じゃなくてもよかったのに」
席を勧められて座ると、クロスがさっとお茶の入ったカップを出してくれる。
お茶受けは型抜きクッキーだ。
「今日は雨で洗濯ができなかったから、クロスとクッキーを作ったのよ」
「セセナ、なかなかに筋がいいよ」
褒められてセセナは顔を綻ばす。
「今、クロスにお裁縫を習ってるの」
それで良かったら使ってもらおうと思って。
そういって差し出されたのは小さなポーチだった。
大きさとしてはおくすりを入れるくらいの。
「丁度穴が開きそうだったんだ。ありがとう」
「たくさん練習したもんね」
にこにことクロスが補足したのを、セセナは顔を赤くしてそれは言わないのと慌てた。
別に恥ずかしがらなくてもいいのにと思いながら、早速おくすり入れを取り出して中身を入れかえた。
セセナにお礼を改めて言って、本拠地を歩き回りながら明日の人選について考える。
ちゃっかりライにはお願いしたんだけれど、あと二三人ほしいなあ。
「リアト? 誰か人を探してるの?」
「あ、ミスティア」
「ちゃんと前向いて歩かないと危ないわよ」
少し前にあった柱を指差して笑うミスティアに、そこまで意識を飛ばしてはいないと反論する。
「明日ソーレナに行くんだけど、一緒に行ってくれないかな」
「いいわよ。他には誰が行くの?」
「レンシイさんが一緒に行くよ。ライには声かけたんだけど」
「じゃあボロコ達にも声をかけてみましょうか。最近暇そうにしてるから」
「うん、お願い」
それじゃあ明日の朝に鏡の前でね、と約束をして離れる。
その後夕食の席で一緒になったメルディにお願いして、これで明日の人選も終了だ。
「あ、雨あがった」
風呂から出て廊下を歩いていた時に何気なく外を見ると、雲の隙間からちらほらと星が見えるようになったきていた。
これなら明日は晴れそうだ。
「出かけるなら雨より晴れの方がいいもんね」
一人そう頷いて、リアトはごそごそとベッドにもぐりこんだ。
***
<リアト視点での本拠地の一日>
まだ付け足すかもしれないけどこんな感じ。