<親の心子知らず>





その姿を見つけた時、ぱぁ、と顔が輝いた気がした。
もちろんそれは比喩で、本当に輝くはずがないのだが、その笑みを浮かべた瞬間に周りが明るくなったと思う。
「リーヤ!」
「クロス!」
素早い動作で駆け寄って抱き合う二人は似たような髪の色をしているからか、傍から見ていると兄弟のようだ。
実際はクロスがリーヤの育て親だと知っているからジョウイは何も言わずにおく。
まぁ、昔からリーヤに激甘だったから、再会を喜ぶ気持ちは分かる。

ちらりと見れば、ルックは平然とした顔で座っている。
クロスに抱きついてルックの報復を受けないのもリーヤの特権だろう。
「しかし凄い喜びようだね……」
「……七年振りになるのかな、直接会うのは」
そう言ったルックにジョウイは目を剥いた。

七年といえば、リーヤが傭兵になったのが十八の時だから、傭兵になってから一度も会っていなかったということか。
てっきり年に一度くらいは姿を見せに戻っていると思っていた。
ジョウイやセノは城にいる事が多いからリーヤから会いにくる事もできないが、シグールのところには何度か姿を見せていたというし、たまに会うササライからもリーヤの近況を耳にすることもあったから、てっきり二人にもちょくちょく会っていると思っていたのに。
……そういえば、二人からリーヤの話題が出た事なんてほとんどなかった。

ルックはカップを傾けながら淡々と言う。
「手紙とかは時々きたけど、元々あの子筆まめなわけじゃないし」
「里帰りくらいしたらいいのに」
ジョウイの言葉にルックはそれ以上返さずに、黙ってケーキを口に運んだ。



ひとしきり感動の抱擁を堪能したのか、クロスとリーヤがテーブルのところまでやってくる。
それに気付いてジョウイはカップをおいてにっこりと微笑んだ。
「久しぶりだね、リーヤ」
「久しぶりー」
「少し大きくなったかな?」
「へへ」
嬉しそうに笑みを浮かべてリーヤは空いている席に腰かけた。
その隣にクロスも腰掛け、それを見てジョウイは入れ代わるように席を立つ。
「ジョウイ?」
「僕は失礼するよ。家族団欒は久しぶりなんだろ?」
僕は団欒の邪魔をするほど野暮じゃありません、と心の中で付け加えてジョウイは石版の間の出口に向かう。
どうせだから扉に立ち入り禁止とでも札をかけておこうか。
最大の乱入者候補であるシグールは今頃テッドのところにいるだろうから、何も知らない見回りの兵士が入ってきて可哀相な目に遭わないようにとの配慮だ。
平然としていたけどルックも無言で出て行けオーラを出していたし、強制退場はしたくない。

「ま、七年振りだしね」
ゆっくりすればいいよ、とジョウイは静かに部屋を出る。
最後にちらりと振り向いた時、三人はすでに話で盛り上がっていて、その光景が昔とちっとも変わっていないことに懐かしさを覚えた。




















ぱたりと。
扉が閉まった音を聞いて、クロスはもう一度リーヤに微笑む。
そっと両手を顎にかけて正面を向かせ、そして思い切り。

伸ばした。

「いひゃひゃ!?」
「相変わらずよく伸びるねぇ」
「ふひょ、いひゃいっひぇ!!」
「七年間一度も塔に寄りつかなかったおしおき」
離してやると、つねられて赤くなった頬を両手で包んでリーヤはうぅ、と唸る。
少し気が晴れてクロスはいいこいいこと自分によく似た髪を撫でた。
「……やっぱ、怒ってる?」
「少し怒ってた」
七年間一度も顔を見せないで、手紙だって年に二、三通届けばいい方で。
こっちはちっとも顔を見られない子供(成人していようがクロスとルックにとっては子供だ)が、シグール達とは会っていると知った時は本気で探し出してやろうかと思った。
ついでにササライにまで会ってると知った時は、ちょっとササライに八つ当たりしたりもした。

「会いたくないならいいんだけど、他のと会ってるって聞かされるとちょっと寂しいっていうかせめて手紙はもうちょっと頻繁にほしかったなって」
「会いたくなかったわけないじゃん!」
強い口調で遮られてリーヤを見ると、怒ったような泣く寸前のような顔をしていた。
少し言い過ぎたかなとルックを見れば呆れたように息を吐かれる。
七年ぶりに会えたのが嬉しくて、会えなかった分の鬱屈が表に出てしまった。
「うん、そうだね」
せっかく会えたんだから泣いちゃやだよと引き寄せて抱きしめれば、泣いてなんかねーもんと返された。
「会いたかったよリーヤ」
「うん」
「沢山話聞かせてね、リーヤったら手紙の内容簡潔すぎてわからないんだもん」
「……手紙書くの苦手だし」
「だから直接。時間はあるでしょ?」
「うん!」
顔を離して大きく頷くリーヤに満面の笑みを返して、クロスはルックが淹れてくれた紅茶に手を伸ばす。


今しばらくは、久方の家族の団欒を。



 

 

 



***
<Lでのリーヤとクロスの再会話>

七年会わなかった リーヤにも色々あるんです。
一応←