<仲よきことは>
「あら、一緒じゃないの?」
風呂場前でかけられた言葉に、ラウロは足を止めた。
ラウロと同じく湯上りなのだろう、髪をまとめて上に上げ、鎧をつけていないミスティアはふふと楽しそうに笑う。
あいにく言わんとしていることが理解できなかったため、片眉を上げて返すと、あらら? とまたも楽しそうな顔をされた。
理解できない。
「いつも一緒だから、お風呂も当然一緒だと思ってたわ」
「……ああ、あれのことか」
そこでようやく誰の話をされていたか理解した。
しかしそこまでセットにされる覚えはないのだが。
「スフレから聞いたの。昔から仲よしだったんですってね」
「まあな」
「ラウロは見境なくリーヤを大事大事してて見てて面白かったって」
ころころと笑うミスティアはたぶん本気ではないだろう。
「……それは嘘だ」
苦虫を噛むような顔で返答すると、女傭兵はまた笑った。
いったい何をしゃべっているのか彼女は。
確かに学生時代はあれがなかなかべったりだった気がするが……そう、べったりはあっちでこっちがそうだったわけでもない。
そもそも大事大事て、いつの話……。
「……アレか?」
心当たりがあった、というかそれについては口外してないだろうなあの女。
「でも、今のあなた達を見てるとそうだったんだろうなと思うわ」
「あのな、誤解しているようだが別に俺は――」
「いいじゃない、仲がいい友達がいるのはいいことよ?」
「だから――」
「学生生活がずっと一緒だったなんて、いいわね。やっぱり十代に仲がいい人とはずっとの付き合いになるのかしら」
口を挟む隙もなく、にっこにっこと笑いながらミスティアが続けていくせいで、ラウロは押し黙る事にした。
何いっても聞き入れてもらえる気がしない。
かといって背中を向けて逃げるわけにも行かず、仕方なく二人で本拠地の廊下を歩く。
遠くから見回りの兵が「ミスティアさーん」と手を振っていたのにふり返しているミスティアに、せっかくの機会なので聞きたかったことを聞いてみた。
「いつから傭兵砦に?」
「二十四よ」
「ということは……」
「四年前ね」
「……」
時期を突っ込もうと思ったが、それよりまずある事に思いあたった。
そういえば以前ケインに何か言われた気がする。
ええと、たしか……。
「俺と同じ歳か」
「そうなの? もう少し上だと思っていたわ」
「……いくつに見えるんだ俺は」
「三十一」
笑顔でさらりと言われ、ラウロは無言で眉間を押さえた。
「それはどういう根拠だ……?」
「イックより上かなと思って。でもラウロも二十八なら楽しいチームが作れるわね」
一人追加で楽しそうね。
そう言われてラウロは首を傾げた。
「チーム?」
年齢を聞いて言うという事は、年齢に関係があるのか?
「私と、ラウロと、宿屋のウィナノと鍛冶屋のキャナルとヒーアスが二十八歳なの」
「約一名浮いてるな」
真顔ですっぱり突っ込んだラウロに、そうねとミスティアは頷く。
「軍師だものね」
「……いや、俺ではなく……」
ふふふ、と笑ったミスティアは廊下の分岐点で足を止めた。
「じゃあ、私はこっちだから」
「ああ」
「一人置いてけぼりで、リーヤは怒ってないの?」
「だから――」
それは違う、と再度強調するために溜息を吐いてから話し出そうとしたら、いきなり上から声が降ってきた。
「ラウロー! 俺おいて風呂いったー!!」
「…………」
ずっりー! と叫んで階段から飛び降りてきたリーヤは、後ろからのしっとラウロに体重をかける。
荷物を落としそうになって、苛立ち半分で相手を押しのけた。
「お前が遅いからだろう」
「待っててくれるっつったー!」
ぷうと頬を膨らましたリーヤに、ラウロは冷たい目で答える。
「言ってない。それに待った。お前が明らかに遅かった」
「うー……」
不貞腐れたリーヤを見て、ラウロの後ろでミスティアが声を殺して笑っていた。
それに気付いて、どーしたんだ? と不思議そうな顔をしたリーヤと、何も言えなくなったラウロにミスティアは涙を拭って微笑む。
「仲良しね」
「おー!」
「……おい」
双方まったく違う返事だったが、そうなのよね、とミスティアは納得顔になってあとはもめる二人を放置して足取り軽く帰っていった。
***
<ミスティアにリーヤネタでからかわれるラウロ>
別に仲よしでもいいじゃないかラウロ。
散々学生時代にからかわれて嫌気が差しているらしいですヨ。(あのコトはハルモニア編のあの長篇のことですね)
リーヤとラウロだとラウロの方が女顔だけ(ry