<隠れた興味>





一日の訓練が終わってへとへとになりながら、ペリアは訓練場から本棟へと続く渡り廊下を歩いていた。
早朝からの練習に加えてテッドに散々しごかれたのでこのまま休みたいくらいに疲れていた。
スパルタなんだよあいつは。
そもそもなんでテッドに弓を教えてもらっているのかがさっぱりだ、しかも最近では体術まで頼んでもないのに教えられるし。
それでも実力がついているのは自分でも分かっていたし、テッドが忙しい中時間を使ってくれているのも分かっていたので大人しく教えられているわけだが。


午前中から寝るだなんてメルディにどやされそうだなぁと肩を落としながら歩いていると、明るい笑い声が聞こえてペリアは足を止めた。
渡り廊下から見える、本棟の周辺を囲うようにできた芝生の上で、ベアンと数人の小さな子ども達が遊んでいる。
大人よりもずっと大きいベアンの毛むくじゃらの腕にぶらさがって、女の子がきゃっきゃと可愛らしい声をあげた。
やんちゃな男の子がベアンの肩に乗って毛をひっぱっても、ベアンは痛そうな顔もせずに笑っている。
そのほかにも数人の小さな子どもがその周辺で遊んでいて、洗濯物を干し終えて談笑している母親達が微笑ましそうにその様子を見守っていた。

その光景を眩しそうに目を細めて見ていたペリアは、後ろからぽん、と肩を叩かれて我に返った。
「何ぼーっと突っ立ってんの?」
「メ、メルディ」
「楽しそうに遊んでるわよねー」
口元に手を当ててによによと笑っている。
何が言いたいんだと睨みつけると、更に楽しそうに笑う。
「一緒に遊びたいんじゃないの〜」
「っなわけないだろ!!」
いくつだと思ってるんだよと叫んで、振り切るようにその場から歩き出す。
メルディは相変わらず笑っているようだったけれど、追ってはこなかった。
汗臭いからお風呂入るのよー、と間延びした声がかかったけれど。










メルディに言われたからではないが、自分でもべたつくと思ってはいたのでざっと風呂に入ってから、ペリアは建物の影になっているところでごろりと横になっていた。
部屋に戻ってメルディと顔を合わせたらまたからかわれそうだったからだ。
こういう時に同じ部屋は面倒だと思う。

腕や首筋に触れる柔らかな草の感触が気持ちいい。
少し前まではこんな緑の中で暮らす生活が当たり前で、大勢の、ましてや人間や他種族が入り乱れた中で生活するなんて夢にも思っていなかった。
たまにはこんな風に草の上でのんびりするのもいいなぁと、大きな欠伸をひとつして、このまま少し寝ようかなんて思っていたら、こつんと何かが腹の辺りに当たる感触と、人の気配がした。

人、じゃなくてコボルトだった。
まるっとした小柄な体にだぶだぶの茶色のフードをかぶっている。
白い長めの毛の間から、青色のつぶらな瞳がペリアを見下ろしていた。
コボルトはペリアと目が合うと、今にも逃げ出しそうな様子を見せたが、それでも逃げずにちらちらとペリアの腹の辺りを見ている。
何だろうと視線を向けると、木の実でできた小さなコマが芝生の上に転がっていた。
当たったと思ったものの正体はこれだったのか。

上半身を起こしてそれを摘み上げる。
小さいものは器用に作られていて、昔自分もよく作ったなぁなどと思っていると、あの、と小さな声がかかった。
「あの、ごめんなさい、それ」
「……ああ」
返してやろうと手招きすると、おずおずと少しずつ近寄ってくる。
怖がられているのだろうかとペリアは少しだけ寂しくなった。
別に威嚇しているつもりはないのだけれど。

正直なところ、ペリアはこういったもふもふしたものが好きだったりする。
好きではあるけれど、昔それで散々姉にからかわれてからは表立ってその主張をしないようにしているのだ。
本当はベアンや、今目の前にいるコボルトの子どものようにふわふわもこもこしたものを思いっきり撫でてみたいのだけれど。
「ほら」
「……あ、ありがとう」
差し出された掌の上においてやると、コボルトは少し表情を和らげた。
「それ自分で作ったのか?」
「う、うん、ピンズにいちゃんといっしょに作ったんだ」
「うまくできてるな」
そう言うと、コボルトはぱぁ、と顔を輝かせた。
誉められたのが嬉しかったのか服の裾からのぞく尻尾がぱたぱたと揺れている。
「このコマがいちばんよく回るんだよ」
「僕も昔はよく作ったな……懐かしいな」
「これ、あげる」
「え、でもこれ一番うまくできたんだろ?」
「ほめてくれたから」
まだきのみたくさんもってるからまたつくればいーもん、と言ったコボルトに、ペリアは頬が緩むのを押さえられなかった。
片手で差し出されたそれを受け取って、反対側の手でぽふっと柔らかな頭を撫でる。
「ありがとな。今度一緒につくってもいいか?」
「うんっ……あ、はなかんむりって作れる? おいら、このあいだおしえてもらったんだ!」
「へえ……じゃあ教えてもらおうかな」
本当は作り方を知っていたけれど、コボルトの嬉しそうな顔が可愛くて、ペリアはそう言って笑った。










昼食の時間どころかおやつの時間になっても戻ってこないペリアに、どこに行ったのだろうと探していたメルディは、建物の影にしゃがみこんでいる姿を見つけて歩み寄った。
彼なら居場所を知っているかもしれないと思ったのだけれど。
「リーヤ」
「よー、メルディ」
人差し指を口に当てて、リーヤは含み笑いをしながら下を指差す。
さっきはリーヤの影になっていて見えなかったのだが、近寄ってみるとペリアが芝生の上に転がってぐーすか寝ていた。
その傍らに寄り添うようにラックが丸まって眠っている。

「暇になったからぶらついてたらみっけてさ。熟睡してんの」
「平和ねー」
ふに、とペリアの頬をつついて見ても一向に起きる気配はない。
むずがるように眉を顰めて、コロの毛皮に顔を埋める姿は小さい頃とちっとも変わっていなかった。
「ペリア、こういうふわふわもこもこが大好きなのよ」
「あー……たまにベアンとかラック見てたのはそういうことか」
「昔散々からかったら拗ねちゃって。それ以来我慢してるのよ」
子どもよねー、と声を忍ばせて笑うメルディにリーヤも笑う。

この後起きてメルディとリーヤにこの事でからかわれる羽目になるのだけれど、今はエルフとコボルトの子どもはお互い幸せそうに眠っていた。


 





***
<子供たちにたかられるベアンと、それを羨ましそうに見るペリア。そしてメルディとリーヤにからかわれる。影でコロあたりを触って思わずニコーッてしていればいい。それをやっぱり上二人に見られて、更に必死に否定するペリアの前でコロが「ペリア、楽しいならもっと触ってもいーんだぞ」とか言えばいい>

ベアン書けなくてごめんなさい。コロでもなくてごめんなさい。
私どんだけペリア好きなんでしょうね。
コロにできなかったのは ペリア<アリエ<コロ のせいです(身長