<寂しい時には>
「う゛〜……」
「風邪だな」
ベッドの上で奇妙な声をあげているリアトを見るなり断言したケインは、体温計を咥えさせて鞄から道具を取り出して診察の準備をする。
診療する前から分かるのってどうなのだろうと思わなくもないが、見るからに風邪の症状が出ているのだからそう言う以外にないだろう。
「あひゃまいひゃい……」
「最近流行ってるからな。カナメもダウンした」
「らいひょーふ……?」
「一時唸ってたがもうそろそろ復帰できそうだ……正確に測れないから喋るな」
言われてリアトは頭を小さく動かして口を閉ざした。
正直喉が痛くて喋りたくない。
咳をする度に喉と頭に響くのがけっこうきついのだ。
ここ最近本拠地では風邪が流行っていて、結構な数の人が寝込んでいた。
手洗いうがいはきちんとするようにと言われていてきちんとしていたのだけれど、それでもひいてしまう時はひいてしまうのだ。
その看病をする人達は当然風邪菌の近くにいるわけで、それでカナメも寝込んでしまったのだろう。
それでいつもカナメを連れてくるところでアスカがついてきているのかとぼんやりとする頭で納得した。
ケインはリアトの口から体温計を引き抜いて数字を確認すると、アスカに何か持ってくるように頼んだ。
アスカが頷いて出て行く。
その後喉の様子を調べられて、いくつか尋ねられたので首を軽く振る事でそれに答えると、ケインはやっぱり風邪だなと道具を片づけ始めた。
「喉が炎症起こしてるから大声は出すなよ。アスカが後で薬持ってくるから、それ飲んで寝てること」
「……にがい?」
「苦くても飲めよ」
「…………」
にべもなく言われてリアトは顔を顰めながら頷いた。
お大事に、とひらりと手を振ってケインが部屋を出て行く。
次の患者のところに行くのだろう。
一人になった部屋で、リアトは大人しくシーツにくるまって天井を見ていた。
少し荒い自分の息が耳に近い。
遠くから訓練の号令が聞こえているけれど、窓を通しているからかまったくかけ離れたところのような気がする。
……静かだ。
こんな風に寝込むなんていつ以来だろう。
前はリーズや両親がいつも横に付き添ってくれていて、アリエも見舞いにきてくれた。
一人でこうして寝ているなんてなかった気がする。
さみしいなぁ、と口に出さずに呟いてみると、タイミングよくかちゃりとドアが開けられた。
「リアトさーん」
薬の入っている袋を掲げて入ってきたアスカは、リアトの顔を見てくすりと笑った。
「一人でさみしかった?」
声に出していないはずの言葉を聞かれたのかと思ってリアトは目を見張る。
それを非難ととったのか、アスカは少し眉尻をさげて、リアトの傍に座った。
「からかってるんじゃないよ? 寝込んでる時ってさみしくなるよね、あたしもそうだもの」
「……アスカは、風邪だいじょうぶなの?」
出した声は掠れていたけれど、アスカには十分に届いたようで、にこりと笑って片腕を上げてみせる。
「あたしは先にかかってもう治っちゃったから。だから今は雑用係」
薬飲んで寝てればすぐに治るよと袋から薬の入った包みを取り出す。
起き上がってそれを手に取ると、いかにも苦そうな緑色の丸薬だ。
良薬口に苦しっていうもの、と頭の中で三回唱えて思い切って口に入れて、アスカが用意してくれた水で一気に流し込んだ。
……やっぱり苦い。
言われた通りに大人しく横になる。
熱はそれほど高くなかったようで、視界がぐるぐるするとか体がだるいとかそういうのはない。
ぼうっとするのは薬のせいなのか、体調を治そうとする体が眠りを欲しているからか。
「眠いなら寝ていいよ?」
ここにいるから、と言うアスカに忙しくないのかと視線で問うと、気にしなくていいとばかりに頭を撫でられた。
「ここぞとばかりにリーヤさんとかテッドさんとかコキ使われてるし、あたしはここでリアトさん看病してる方がいいな」
「…………」
「一人で寝るのはさみしいもんね」
「……うん」
ふわりと微笑まれて手を握られる。
その温かさにどこか安心して、リアトは目を閉じた。
***
<誰かに甘えるリアトの話。>
甘える……甘やかす……orz
本来はアリエの役目なんでしょうがもういないし。
実際アスカはアリエの役どころの引継ぎとしてはまっとうなところにいると思います。