「皆の者、よく聞け!」
軍旗を背後にはためかせ、ラウロは激励を飛ばす。
「毎日の訓練を思い出せ! きちんとした基礎をお前たちは持っている!」
おおー! と雄たけびが上がる。
そこにいたのは歴戦の猛者も含める大勢の戦士だった。
「敵は強大かもしれない、だが、恐れるな!」
おおー、と野太い声が上がる。
一部そうではないものもあったけど。
「勝利に目をくらませるな、ただし、敗北するな!」
その言葉は全員の心に刻まれた。
<魔法講師再臨>
暴風が荒れ狂っている。
その風になぎ倒されて、そしてまた一人なぎ倒されて。
「……あ、また飛んだ」
「よく飛ぶなあ」
優雅にその光景を眺めながら、二名はのんきに会話をかわす。
「二人とも、仕事はどうしたんですか」
「「これ見るために終わらせた」」
呆れたように溜息を吐いて、ササライはその凄惨な光景を見下ろした。
また一人人間が飛んでいく。
それをしているのは、暴風の中央に立つ一人の華奢な人物だ。
もっともここにいる面子に言わせれば、あれは上手く手加減をしているのだが。
「すっげぇなー、まだ耐えてる奴らいるぜ」
「思いの他しぶといな」
「あはは……」
もはや笑うしかないだろう。
ササライは、中央で面白くなさそうな顔でロッドを振っているルックを見下ろした。
ごうごうと渦巻く風を作り出し、その中央に佇んでいる。
おそらく考えているのは今日の夕飯の事に違いない。
涼しいを通り越して退屈そうな顔で振るっている魔法は、魔法兵でなければとっくに気絶している威力だ。
もっとも魔法兵といえども、這ってやり過ごすのが精一杯で、立ち上がる事すらできない。
そんな魔法兵の中で、立ち上がっている影がひとつ。
「くっ……ま、負けやしないわ!!」
叫んだスピカは小声で詠唱を始める。
「ぐっ」
しかし風の圧力に途中で詠唱が途切れさせられてしまう。
「くっ……う!」
下唇をかんでから、スピカは思い切って右手を挙げる。
左手の土魔法は風と相性が悪いのか、ことごとく効かなかった。
だからこちらの魔法しかない。
「最後の炎!!」
叫んだその言葉に確かに右手の紋章は反応し、燃え上がった炎がルックへ襲いかかった。
「よし、終了」
パンっと手を打ってルックは背を向ける。
その場にへたり込んだスピカをちらと振り返った。
「それが大事」
「あ……あの、え……?」
「後は精度を高めるんだね」
それ以降は何も言わずにすたすたと歩き去ったルックを見送っていたスピカは、うそでしょうと呟く。
「だ、だって、「最後の炎」なのよ……?」
攻撃系ほ火魔法の中でも最高威力を誇る魔法だ。
それを防御するそぶりもなかったのに、涼しい顔でダメージなしって……。
「あんの人外童顔魔法っ子ー!!」
悔しさにじたばたしながらスピカが叫んだ言葉が建物の中に入ったルックの耳には届かなかったのは、せめてもの幸いである。
***
<ルックの魔法訓練リターンズ>
・とりあえず魔法をぶっ倒れるまで受ける
・それから復活する
・また受ける
・苦し紛れの詠唱破棄ができればとりあえず終了