<在りし日>





「リアト」

呼びかけると、その小さな命は、目を瞬かせる。

「リアト」
「にちゃー」

小さな歯がそろった口を開いて、何が楽しいのか笑う。
「なにしてあそぼーか?」
「つみー」
ぶんぶんと手にした積み木を手に弟は笑う。
ぷにぷにとした頬をつついて、リーズも笑った。
「にちゃー」

「まあまあ、リアトはリーズが大好きね」
後ろで笑って、母親がリアトを抱き上げる。
「おにーちゃんがいっつも一緒にいてくれて、いいわねーリアト」
「まんまー」
母にきゃっきゃと笑いながら声を返す息子に笑い出して、母は子供の額にキスをする。
「それじゃあリーズ、お母さんちょっとだけ出てくるから」
「うん、だいじょうぶ。カギ、しめるから」
「ありがとう、頼りにしてるわお兄ちゃん」

そう言って母は出て行く。
家に残っているのは、リーズとそろそろ三つになる弟の二人きり。
「にちゃー」
「うん、おうち作るの?」
「つみー」
「そうだね、お兄ちゃんも作るよ」

おうちーと言ってリアトは笑う。
どうやら、リーズの言った事がお気に召したらしい。

「わん〜わん〜」
積み上げた塊の上に赤い屋根を置いて、犬の鳴きまねをしながら、茶色の小さな積み木を動かす。
どうやらリアトの頭の中では、家の周りを犬が走っているらしい。
「にちゃ」
「どうした?」
「にゃーにゃー」

白い積み木を渡されて、リーズは微笑むとそれをリアト共に積み木の塊の周りを走らせる。
「ニャーニャー」
「わん〜わん〜」

しばらく犬と猫を走らせていると、興奮したリアトのひじが積み木にあたり、盛大な音を立ててそれは崩れ落ちた。
元々、そう上手に積んでいなかったので仕方がない。

「おうち……」
呟いたリアトの目に、みるみる涙があふれる。
「……おうち」
盛り上がった涙が、ぽたりぽたりと落ちた。
「リアト」
「にちゃ……おうち」
「うん、こわれちゃったね」

困ったような顔でリーズが同意すると、リアトはしゃくりをげながら自分の顔をごしごし擦った。
「ないないのー」
「うん、ないないだね」
「……ないないの」
「そうだね」
さっきまで積み木が積んであった場所をぱんぱん叩いて、リアトは繰り返す。
「ないないの……」
「もう一回作ろうか、ね、リアト」
崩れて山になっている積み木の一つを持ち上げてリーズがそう言うと、リアトはきょとんと兄を見た。
「もーいか?」
「そう、もう一回、作ろうか」
「るー」

こくり頷いて、リアトは積み木を手にする。
「おうちー」
「さっきより、大きくしようね」
「おっきー」

リーズの手を借りて、先ほどよりだいぶ大きくなった積み木の塔に、リアトは笑顔でぱちぱちと拍手をした。
「おっきー」
「上手にできたね、リアト」
「にちゃ、わんわん〜」
「はいはい」


小さな積み木を手にとって、リーズはわんわんと鳴かせながら歩かせた。
弟が疲れて、積み木を片手に眠ってしまうまでずっと。



 


***
<リーズ・リアト兄弟の小さい頃の話。アリエを混ぜても混ぜなくても。>

まだリアトが言葉すらおぼつかないくらいの頃(笑