協力攻撃には様々な形態がある。
「協力」というのだから、当然お互いの武器や属性の相性が重要になってくるし、できる限りお互いの性格も考えないといけない。
それによっては攻撃の威力などにも関係してくるから難しい反面、うまく決まればかなりの威力アップが期待できるので、大変だけれど使いたい。
しかし、大抵は仲のいい人が自分達で考えてはリアトに見せてくれる場合が多いのでそこまで苦労していなかったりする。
が、今回は少し勝手が違った。





<口は災いの元>





「美少女攻撃?」
「そう。リアトは誰がいいと思う?」
お昼時の酒場でウィナノの特製ランチを食べていたリアトとアリエは、いきなりやってきたネイネに何かの書付をつきつけられた。
真面目な顔でネイネが発したのが冒頭のセリフであり、紙には現在アーグレイ軍にいる人の名前が何人か連ねられている。
「ネイネ、メルディ、ビッキー、シタ、スピカ……私の名前もあるのね」
「そりゃあアリエは外せないわよ」
「美少女攻撃って何?」
「ほら、この間美少年攻撃作ったじゃないの」
その言葉にリアトは少し顔を引き攣らせた。
この間というのは、ヤマトとルックとササライで作ったというアレだろうか。
威力は確かに凄いのだけれど、ヤマトが物凄く可哀想だった気がする。
本人が何も言っていなかったから採用してしまったけど……よかったのかなとたまに思う。

微妙な表情を浮かべているリアトに、ネイネはあんなんじゃないから、と苦笑を浮かべた。
「女の子にあれは色々きついわよ。っていうかあれはあの二人が……ねぇ」
「……そうだね」
「そうよね」
三人してうんうんと頷く。
「で、本題に戻るけど。男があるなら女にもってことで美少女攻撃作ろうと思ってるの。でも誰がやるかってことになって、だったらリアトに選んでもらおうって」
「え」
「大丈夫、誰を選んでも文句言わないから」
そこは全員一致してるの、とネイネは机の上に肘をついて小首を傾げた。

「で、誰がいいと思う?」
「う、うーん……」
「やっぱりアリエは決定?」
「……ネイネ」
そういうこと言わないの、とアリエが眉を寄せてたしなめる。
しかしネイネは悪びれた様子もなく、ぺろりと舌を出すだけだ。

食事の手を止めてリアトは紙に書かれた名前をまじまじと見つめた。
紙には戦闘要員であり、なおかつまだ成人していない人の名前が書かれている。
それほど多いわけではないけれど、ここから三人を選べと言われると困る。
更に攻撃の名前が「美少女攻撃」なのだから。

美少年攻撃を参考にするのなら、魔法要員二人に近距離が一人だ。
けれどそれよりも遠距離の武器に魔法を上乗せした方が安全じゃないかな、とも思う。
その場合は魔法要員はビッキーやメルディ、アリエになるし、遠距離攻撃といったらネイネとスピカが当てはまる。
二人とも遠距離攻撃なうえ、魔法も長けているから協力するにはうってつけじゃないだろうか。
「……うぅ」
「リアト、とりあえずご飯食べてから悩みましょう」
ぷすぷすと頭から煙が出そうなリアトの肩をアリエが叩く。
こんなに悩むとは思わなかった、とネイネが少し申し訳なさそうに笑って席を立った。
「別に急ぎってわけじゃないし。ご飯時に持ってきてごめんね」
とりあえず預かっておいて、あとでもう一度考えてみて、とネイネが言ったところで、ひょいと伸びてきた手がリアトが持っていた紙を奪い取った。
「なんだこれ」
「あ、ウリュウさん」
「美少女攻撃を誰でやるかって、リアトに決めてもらおうと思ってたの」
「へぇ」
なるほどねぇ、と書かれている名前を眺めてウリュウはふんふんと愉しそうに頷く。
目が完全にオヤジになっているがそこはあえてつっこまない。

最後まで目を通して、おやぁ、とウリュウは目を細めて声をあげた。
「肝心なのが足りないんじゃないか?」
「え、誰か抜かしちゃってる!?」
そんなはずはないんだけど、とネイネが立ち上がって紙を覗き込む。
不平等にならないようにと戦闘要員の女の子は全員入れるように気をつけたのに。
顎に手を当ててにやにやと笑いながらウリュウは返した。
「いやいや一人足りないぞ。誰がどう見ても決定だろう」
「……そんな人抜かすなんてありえないはずだけど」
「ルックの名前がないぞ?」
「「「…………」」」
悪ふざけなのか本気なのか分からないウリュウの言葉に、三人は沈黙で返す。

確かにルックは外見上少女に間違えられても仕方がないくらいの容姿だし、見栄えは「美」のつく攻撃要員としては文句のつけようがない。
けれどルックは女の子じゃなくてれっきとした男の子。
先日リアトにお披露目された美少年攻撃にしっかり顔を並べている。
……ウリュウは当初性別を勘違いしていて、ソーレナでルック本人からその事について直々に訂正をうけていたはずなのだけれど。
打撃付きで。

「ウリュウさん、だからルックは男の子だって」
「だけどよ、美少年より美少女の方が呼称としては似合うと思うんだ」
「それは……」
そうだけど、と思わず同意しそうになったリアトは、ウリュウの背後に見えた影に必死で喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
アリエは苦笑いを浮かべて、ネイネはうわぁと顔を顰めてそそくさとウリュウから離れる。


「誰が美少女だって……?」


ゆらりと薄暗いオーラを纏った声がウリュウの背後に響く。
同時にカキンと音を立ててウリュウが固まった。
比喩ではなく本当に凍っている。
手加減をされての氷の息吹は、そうかからずとも溶けるだろうから、せいぜい軽い凍傷の心配をするくらいで済みそうだった。
見事というかなんというか。
「どうやらあんたは言っただけじゃ忘れちゃうみたいだね」
覚えるまで何度でも叩き込んでやるよ、と浮かべた笑みはさながら氷の女王のようで。
……目が笑ってないよルック。

「ジョウイ、こいつ訓練場まで引きずってって」
「なんで僕が」
「運べ」
「……恨みはないんです、ウリュウさん」
ごめんなさいとジョウイは凍ったままのウリュウをずるずると引きずって酒場を出て行く。
その後に続こうとしたルックは、くるっと振り向いてじろりと据わった目でリアト達を見下ろした。
「入れたら殺すから」
何に、などとは聞かずとも分かったので、こくこくこく、と三人は高速で頷く。
その様子に鼻を鳴らして、ルックは姿を消した。

残った三人は今起こった事から目をそらすように机の上に視線を落とした。
「……えーと、とりあえずご飯食べて、それから相談しましょう」
「うん、この中からだよね」
「そう、この中からだけで選んでね」
よろしく、と去っていったネイネを見送って、リアトは食事を再開した。
今日一日訓練場には近づかないようにしようと心に決めて。

 

 



***
<うっかり「美少女攻撃」要員にされそうになってキレるルック。シエラが入ると「美少女(?)攻撃」になったら面白い。>

アリエを入れようと思ったのでシエラは無理でした。