「…………」
昨日にも増してぐったりとソファで潰れているテッドに、部屋に入ってきたジョウイはぎょっとした。
「どうしたんだ、テッド」

返事がない。ただの屍のようだ。



まだTにぶっ飛んだ時の疲れが残っているのだろうか。
しかしテッドより体力のないルックはすでに平然と紅茶を飲んでいるし、シグールは新聞を広げている。
この二人より精神的ダメージが大きかった分回復は遅いのかもしれないが、むしろ昨日より悪化してないか。
昨日はこんなゾンビみたいな空気は出していなかった。

ジョウイの後から部屋に入ってきたセノが、同じようにソファで死んでいるテッドを見つけて首を傾げる。
「テッドさん、どうしたんですか?」
「ただのツッコミ疲れだよ」
「まだお疲れなんですねー」
「違う違う」
「今度は僕の時代に行ってきたんだよー」
ジョウイとセノの到着を見計らってタイミングよく全員分の朝食を運んできたクロスが笑いながら言った。

ぐるりとジョウイは首を回してテッドを二度見した。
「え、てことは」
「ふつかれんぞくだ……つかれなんざとれやしねぇ……」
ずるりとゾンビのように起き上がったテッドは心底疲れ果てている。
なるほど。まさかの二晩連続でテッドはあの怒涛の日々をリプレイしてきたわけか、とジョウイは今のテッドの様子に納得した。

自分達には一晩でも、飛ばされた彼らにとっては戦争終結までの長い時間を過ごした事になる。
そしてツッコミに磨きがかかってしまっているテッドは、また盛大に突っ込んできたんだろう。
T同様。加減もできずに。
性懲りもなく。最初から最後まで。

「君、全力でツッコミするの止めた方がいいと思うな」
「したくてしてるわけじゃねぇ……」
「本能だもんね」
「遺伝子に刷り込まれてるんじゃない」
シグールとルックに言われている。
いや、そうさせている元凶が言ってどうする。

「でも、楽しかったよねー」
全員の前に朝食の皿を置いたクロスはきらきらした笑顔を浮かべている。
テッドと一緒に飛んだはずなのに元気だなこの人。……ああ、好き勝手した側だからか。

「どんな感じだったんですか?」
「お宝掘り尽くして、交易で真珠転がして、光るもさもさ倒して、キノコミント戦争やって、楽しかったよー」
「シナリオについて語ってください」
「リノさんの一張羅をタンスから抜くの忘れちゃったのが心残りだなぁ……」
「本筋に触れろ!! つかあの一張羅、あってもなくても一緒だわ!」
「なかったら普段の格好のまま演説するらしいよ?」
「半裸なことに変わりねぇからもういいだろ……」
ぼふ、とクッションに頭を落としたテッドのツッコミが後半諦めに変わっている。

かなりダメージが蓄積されているらしい。
まあ、二晩続けて(テッドにとってはその何十倍もの期間)ツッコミし続けたらこうもなるか。
というか、ここまで疲れていてまだ突っ込むとは本当に遺伝子に組み込まれているんじゃないだろうか。

「でも、今回クロスだったってことは、残るはセノだよね」
さすがにテッドが疲れきっている事を不憫に思ったのか、シグールは矛先をジョウイに向けてきた。
優しさがいつも局地的にしか発動しないなこの人。

「シグールさんの次はてっきり僕の番だと思ってたんですけど、クロスさんに先越されちゃいましたね」
「……僕はこのまま何も起こらないといいなって心の底から思ってるんだけど、だめなのかなセノ」
「僕としても二度目は嫌だ」
「俺は二度やったんだ……お前も二度目行ってこい……」
「自分は出ないからって気楽に言うけど、Uはシグールもいるんだからね……」
「記憶持ったシグールと敵対……セノとまで敵対……絶対嫌だ……!!」
「精々頑張れや!」

はははは、と笑いをあげるテッドは、もう自分はないと分かっているからこその余裕の態度だ。
Uの時は、テッドは死んでいる最中だから、出演もありえない。
「いいなー。僕も出られないかな、ゲストとかで」
「「トリプル天魁星はいらないから」」
羨ましそうに言ったクロスに、ジョウイとルックの声がハモった。





***
というわけでWはここまでで終了。
そして戦いは新たなるステージへと……。
俺達の戦いはまだまだ終わらないぜ! みたいな。