本拠地総出のリタポン大会をやったり、スノウのファッションショーをやったりと日々を過ごしていたある日、とうとう堪えきれなくなってテッドは集合場所(テッドの自室前)に来たクロスに尋ねた。

「……おい、クールークに攻め込むのを忘れてねぇか?」
「……ワスレテナイヨ」
「なぜ片言」
「むー……仕方ないな……もうやることもないしね」
「クロス、今日の予定はどうするの?」
「クールークに殴り込みに行くから皆集めてー」
「ノリ軽っ!?」

何はともあれようやく最終決戦である。
これが終わればもうシグルドとフレアの背筋の寒くなる笑みを向けられる事もなければ、アルドにストーカーされる事も、オベルの遺跡でモンスター狩りに付き合わされる事もなくなる。

今までの辛い日々を思い返すのに忙しくてリノ→クロスの最終演説を聞き流していたテッドは、決戦メンバーまでうっかり聞き流すところだった。
「――というわけで、別働隊にはテッド、キカ、ブランド、ビッキー。その後の本隊は僕、シグルド、フレア、テッドになるんでよろしく」
「……ん?」
あれ、なんか今同じ名前が二回呼ばれた気がする。
あっちに飛ばしていた思考を引き戻して考えている間に解散となってしまった。気付いた時にはもう遅い。

「クロス……今俺二回呼ばれなかったか?」
「呼んだよ?」
耳遠くなった? と逆に不思議そうに聞かれて一瞬ああそうかと納得してしまった。
「……別働隊か本隊かどっちかにしろよ!!」
「だって、別働隊にエレノアがついてくるって言うから」
「…………」

ああ、そういえばそうだった。
止めなかったのかとも思ったが、止めてもあのバアさんはクロスを部屋に閉じ込めてでも無理矢理別働隊に入ってくるだろう。
だったら行動を把握しておけというわけか。
「テッド、どんな手を使ってでも構わないから、持って帰ってきてね」
「……そこはいい。別働隊はいいんだ」

テッドとしても前回のエレノアの末路は気に喰わないので異論はない。
あの頑固バアさんを連れ帰るのはすさまじく骨が折れる仕事だが、やれる面子は限られているし、一番事情を分かっているテッドが最適なのも理解できる。
だがしかし。

「俺がなんで本隊にまで入るんだよ!」
「ひどいわテッド、今まで一緒に戦ってきたのに……」
「そうですよ。一緒に最後まで戦いましょう」
「俺はお前達と行くのが一番嫌なんだ……!」
「やっぱり最後は戦い慣れたメンバーが一番いいと思うんだよね。皆も快諾してくれたし」
「いや、だから」
「ビッキーを別働隊に入れたげたから、テレポートでさっくり戻ってきてね」
「…………」
誰か俺の話を聞いてください。
テッドはその直後懺悔室に駆け込んだ。

  



「どうしたんだテッド、外、雨でも降ってるのか?」
「…………」
肩より上をしっかり濡らしたテッドを見て、騎士団面子でリタポンをしていたケネスが手を休めて尋ねてきた。
その隙を逃さず紋章牌の連続技でポーラがあがり、ケネスは「しまった」と苦笑しながらタルと交代した。

「不機嫌だね。最終メンバーに選ばれてるのに、何がそんなに不満なの?」
ちょっとだけ不満そうに唇を尖らせているジュエルに、テッドはルイーズから渡されたタオルで髪を拭きつつ逆に尋ねた。
「俺からしてみれば、あのメンバーに異論を唱えねぇお前らのが不思議だよ」
「そうか? 申し分ないと思うが」
「そうですね、別働隊も十分だと思います。キカさんやブランドさんは甲板待機組でもトップクラスの実力ですし、ビッキーさんのあの魔法は心強いです」
「いや、だから俺が二回入ってることについて、文句とか」
「「だってクロスの決めたことだし」」
「…………」
あいつどんだけ信頼されてんだ。
「「それにテッドだし」」
「それは待て」

「……僕、クロスに聞いたんだ。どうしてテッドが両方に入っているのかって。いくらなんでも大変じゃないかと思って」
 スノウが控えめに言う。さすがスノウ、俺を労わる心がまだ残っていた。
「テッドなら大丈夫だってクロスは言ってたよ」
「で?」
「え?」
「クロスにそこまで信頼されているテッドは凄いよね」
「そこで納得するなよ! 食い下がってくれよ!?」
 テッドに噛みつかれてスノウはびくりと肩を震わせる。

困ったように眉尻を下げて、でも、と続けた。
「どうしても片方だけならテッドは別働隊に入れるけど、その場合本隊に入れる人は誰がいいかなって聞かれたから、皆に相談したんだ。僕じゃまだわからないから」
「誰かいい人いないかって言われて、皆でテッドを推薦したの」
「なんでだ!?」

「正直な話をしていいか」
「……今更だ」
「あの三人と一緒に戦うのはテッド以外無理だと思う」
「…………」
「ツッコミしながら戦闘する高等技術は俺達には無理だ」
「…………」
「騎士団の皆以外にも聞いたけど、返ってきた答えは一緒だったから、いいのかなって」
「…………」
つまりこの船に乗る全員が全員、あの三人と一緒に戦うのを回避するためにテッドの身を売ったと。

この船に俺の味方はいなかった、と最終決戦前夜に改めて現実を見たテッドだった。