その日は朝から浮き立つような沈み込むような不思議な気分だった。
ただひとつ言えるのは、何かが起きる予感がするという事だ。
オベルも奪回し、最近は最終決戦に向けて装備強化や備品の買い付け……をしているのは一般の船員達で、クロス達は取り残していた宝探しに日々を費やしていた。
「まだクールーク突入じゃねぇのか!?」
「せっかく集めた宝の地図を無駄にしろっていうの?」
「そうですよもったいない」
「お前は不満じゃねえのか王女サマ」
「掘り出すまで何が出てくるかわからないなんてロマンじゃない」
「いやまったく」
「それに、テッドは楽しくない? 私は楽しいわ。ようやくテッドと一緒に戦えるんだもの」
にっこりと極上の笑みを向けられる。
大抵の者が自分に好意を向けられていると錯覚しそうなまでの可憐な笑みは、生憎テッドには寒気と恐怖しか与えない。
クロスに加担する二人を敵に回して、テッドが口で勝てるわけがなかった。
実力行使でも勝てる気にならないのはなぜだろう。
そうか、先に精神が折られるからか。
「そういえばテッド、戦闘中にフレア庇わないでよ。テッドの方が防御紙なんだから」
「俺の意思じゃねぇ!!」
「好きな時に使えるアイテムならいいのにね」
「買い足せますからね」
「俺を使い捨てる案はやめてくれ!!」
「そしたら九十九個買い溜めしたいんだけど」
「どうやって使う気だ!?」
「投げる」
「燃やす」
「爆破する」
「お前らの俺に対する扱いほんっとひでぇな!」
巻き戻る前も大概だったが、それでも反論したりやり返したり自分よりヒエラルキーが下の奴がいたりと随分過ごしやすかったんだなぁと恵まれた環境に思いを馳せるテッドだった。
ちなみに現在テッドは発掘作業中。
クロスとシグルドとフレアとルネは、穴の近くでのんびりと持参したお茶を飲んでいる。
「お前ら手伝えよ!」
「テッドの仕事取っちゃ悪いから」
「手伝ったら逆にテッドの邪魔になってしまうかもしれませんし」
「そうね。スコップを武器にしてるテッドだもの。やっぱり私達とは穴掘りの手際が違うわ」
「あ、あの……頑張ってください」
「…………」
やるせなさをスコップに乗せて地面にぶつける。
ガツン、とスコップの先に何かが当たった。きらりと光る何かが土の中に見える。
「これでラストだぁぁぁぁぁぁ!!」
当たったそれを持ち上げて、テッドは叫んだ。
「お疲れ様、テッド」
「あら綺麗」
「珊瑚のコンソールですね」
「…………」
泥のついた頬を袖口で乱暴に拭ってテッドは無言で掘り当てた最後の宝を見る。
珊瑚のコンソールってあれだよな、部屋に飾るやつだよな。
……それにここまで頑張る必要はあったのだろうか。
モルド島の温泉で泥と疲れを落としたテッドは、のんびりと砂浜を歩いていた。
なんだかんだ文句を言っていたが、こうしてやりきってみるとなんだか清々しい気分だ。
達成感を胸に歩いていると、一人の男と行き会った。
なんだか話を聞いてほしそうな素振りを見せるので、テッドは声をかける。
今は気分がいいから少しくらいは聞いてやってもいい。
「聞いてくれよ! お、俺、こないだ人で海みちまった!」
「……?」
「……ああ、そうじゃねえ! 海で、人を、見ちまったんだ! そう、海にプカプカ浮いてるのをよ!」
「…………」
あれ、どこかで聞いた事があるような。
船に戻ってクロスにその話をすると、クロスは目を輝かせて船の進路を西に変えた。
なんだっけか、と首を傾げていると、ニコの慌てた声が響く。
やがて、海の向こうにぷかっと浮かぶ漂流物が肉眼でも確認できた。
その上にくっついている「あるもの」を見て、テッドは全てを思い出す。
「あ」
クロスを見ると、クロスはいい笑顔でシグルドに何か言っていた。
「シグルド、殺しちゃだめだからね」
「だめですか」
「だめだよ、僕の天暗星だもん」
「……わかりました」
俺は何も聞かなかった事にしよう。
視線を海に戻してテッドは徐々に近づいてくるスノウon丸太を眺めた。
何度見ても笑える。
しかしそれ以上に、テッドはスノウが仲間になる事が嬉しくて仕方がなかった。
ヒエラルキーの底辺へようこそ同士。