こうして固定パーティにシグルドが加わりました。

「ちくしょうあの時の俺が思い止まっていれば……!!」
「テッド、何を一人でぶつぶつ言ってるんです?」
「あのままほっとけば俺は今こんな胃を痛めてユウの世話にならずに済んだのにと思ってな!」
「はぁ、大変そうですね」
「誰のせいだ誰の!」

ぎゃいぎゃいと騒ぎながらも、シグルドを加えた戦闘はさくさくと進んでいく。
快勝した後も言い合う(というよりテッドが一方的に言いがかりをつけている)二人を見ながら、クロスがしみじみと呟いた。

「ああ、これが落ち着くよね……」
「……よくわからんが落ちついてはいけない気がするぞ」
ブランドのツッコミはスルーである。
「あとはフレアがいれば完璧だよね」
「これ以上悪化するのか」
「僕とシグルドとフレアでテッドをいじる。これが醍醐味だと思うんだ」
「……そうか」
「フレアにはまだ会ったことないよね。ブランドにも紹介するからね! 楽しみにしててね!」
「あ、ああ……」
「ブランド騙されるな! あれは魔女だ!!」
「…………」
フレアとはオベル王国の王女ではなかったか。
魔女呼ばわりされ、そこまで必死になられる王女は一体なんなんだ。

得体の知れない王女像に一抹の不安を感じたブランドには、将来自分がフレアにぶちのめされる紙芝居が世界のどこかで公開される未来が待っている。















ミドルポートの次に、ナ・ナルを取り込む事になった。
上陸直前、作戦室を出たところで、リノに声をかけられる。
「おう、クロス。俺も行こう。ここの島長は気の荒い奴だからな」
「…………」
「い、いいじゃねぇかたまには! そんな嫌そうな顔するなよ!」
金印渡してからお前冷たいぞ、といじけだしたリノに、クロスはしばし考える。
「クロス、どうします?」
「むぅ……」
ごり押しでシグルドとブランドとテッドを連れて行こうかと思っていたのだが、一度いじけるとリノは根に持つ。
後々まで尾を引くのは避けたい。

「じゃあたまにはメンバー変えようかな……テッド」
「あ?」
「しばらく休暇あげる」
「まじか!」
ぱぁっと顔を輝かせるテッドは、そろそろ学習した方がいいと思う。
「ルネと一緒に宝探しよろしく」
「…………」
「そのスコップでこの世の全ての宝を手に入れてくるように☆」
「また……また名ばかりの休暇……」
「無給休暇ですね」
「言い直さなくてもわかっとるわ!!」
トラウマをざっくり刺されてテッドは涙目でスコップ片手に走り去って行った。
やる気があって結構結構。
「うーん……ブランドも最近連れ回しすぎてキカが機嫌悪そうだし、一緒に甲板待機組に突っ込んどこうかな。シグルドはどうする?」
「俺はクロスと一緒に行きます」
「じゃあ残り一人は……ビッキーにしよっと」
ほら行きますよリノさん、と床に「の」を描いているリノをつついて立たせ、クロスは瞬きの鏡の前で舟を漕いでいるビッキーに話しかけた。

そんなこんなでパーティメンバーを入れ替えて到着したナ・ナルでは、砂浜から町へ上がる入り口にクールーク兵がたむろっていた。
こちらを見つけるといきなり襲いかかってくる。
「聞く耳持たず、ですね」
「久々で腕が鳴るな!」
「ビッキー」
「はーい……へくちっ」
ビッキーのくしゃみと同時に、しゅんっとクールーク兵はどこかへと消えてしまった。
久々の活躍の予感に槍を構えて張り切っていたリノは呆然としている。

「……あ、れ……?」
「ビッキー、次もお願い」
「へくちっ……ぷしゅ」
「…………」
「お見事です」
ビッキーのテレポートで綺麗になった砂浜を前に、リノは泣いていた。

「俺の……俺の活躍の……場が……」
「リノさんいじけてないで行きますよー」
「こんなところにクールーク兵がいるということは、占領下に置かれたということでしょうか?」
「そ、そうだ! まさかクールークに下ったか? ここの連中は簡単に白旗をあげるやつらじゃねぇと思っていたが……」
そんな悠長な事を言っている間にアクセルがやってきて、引きずられるようにして連れて行かれた島長の前で、クロス達はナ・ナルの現状を知ったのだった。

「……は? なんですと? この少年がリーダー? オベル王国としてきたのではない? そんな話……何か証拠でもあるんですか?」
「クロス、あの金印を見せてやれ。島長、俺の力を預けた証拠だ」
自信ありげに言ったリノに、クロスはそっと視線を逸らす。
「…………」
「……おい?」
「……そう、あれはこの間……つい先週のことでした」
「ま、まさか……」
「リタポンで負けて……僕には他に道が……」
「まさかお前売ったのか!? あの金印を売ったのか!?」
「大丈夫、質に入れただけです」
「大丈夫じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「ちゃんと取り戻しましたって」
「……お前に預けたのは、失敗だったのかもしれん」
すちゃっと懐から金印を出したクロスに、リノはがくりと項垂れてしみじみ呟く。
さすがに哀れに思ったのか、ナ・ナルの島長が、労わるようにリノの背中を叩いた。

金印の一件でなんとなく空気がなあなあになり、ある「おつかい」をクリアすればクールークの兵士達を倒した事は不問にしてくれる事になった。
ぶっちゃけ正当防衛なのだが、シナリオなので仕方あるまい。

おつかいは、エルフの大木の中にある祭壇からエルフの特効薬を盗んでくるというものだった。
時間まで丘にある牢屋に突っ込まれ、リノはかなり憤慨していた。
「こんなところに突っ込みやがって……それに、盗みなんてやれるかってんだ!」
「まぁまぁリノさん」
「クロス、どうするつもりですか?」
「僕に考えがあるんだ」
とりあえず夜まで待ってね、とクロスはにこりと笑った。
 













 
深夜、エルフの大樹の中に忍び込むと、そこはやけに静かだった。見張り一人いない。
「……やけに静かだな……」
木の枝のようなものから下に置かれた壷に向けて、ぽたぽたと樹液が落ちている。
「これを持っていきゃいいんだな」
「リノさんちょっと待った」
薬を手にかけようとしたリノをクロスが制す。
「どうしたんだ?」
「いえ、僕が持ってあげます。重いでしょ」
「いや、別に」
「よこせ」
「……ハイ」
リノからエルフの特効薬を奪い取り、クロスは懐から別の瓶を取り出す。

「何してんだ?」
「器まで持っていったらばれるから、移し替えるんです」
「あ、なるほど」
「リノさん、出口見張っててくださいね」
「わかった」
背中を向けたリノに気付かれないよう、壷を元の位置に戻す。

シグルドが小声で尋ねた。
「移さないんですか?」
「これ、実はエルフがすり替えた毒薬なんだよね」
「そうなんですか?」
「そうなの。というわけでコレはいらないんだ」
クロス達が取ってきた薬を島長がクールーク兵に渡すのを知っている。
毒薬を渡した結末は前回で見ているので、今回はちょっと別のものを渡す予定だ。
どんな反応をするだろうか、とクロスは小さくほくそ笑んだ。

そして夜が明け、薬を取ってきたクロス達は島から出る事を許された。
帰り道にエルフに監禁されたりもしたが、それもセルマの手により解放される。
エルフの集落から広場へ戻ると、丁度クールーク兵が殴り込みに来たところに出くわした。
「貴様ら……我々にあんなものを献上するとは!」
「はぁ?」
「クロス、いったい何を瓶に入れたんです?」
「青汁。ものすごく苦くて三日くらい口の中に不味さが残る優れもの」
「優れてない!」

効能は便秘肌荒れ。
元々はルックが栄養剤のつもりで作ったのだが、その辺に生えている雑草で作った方が遥かにましだという味のせいで、闇に葬られた一品だ。
そこそこ貴重な薬草とかも入っているのだが。
「いいじゃん毒薬じゃないんだし」
「黙れ! あれを飲んだせいで、何を食べても苦くてまずい! あれはもう毒薬にも等しい!」
「毒じゃないよ薬だよ。良薬口に苦しって言うじゃない」
その辺の毒にはそこそこ耐性があるシグールもテッドもジョウイもぶっ倒れた代物ではあるが。

余程苦いのがお気に召さなかったのか、怒り心頭のクールーク兵達は剣を片手に襲いかかってくる。
それをさっくり退けナ・ナルの島長の協力を取り付けた後、リノが興味深そうに尋ねてきた。
「クールーク兵があそこまで怒る青汁ってどんなのだ?」
「オススメはしませんけど……まぁ、いいか」

どうぞ、と差し出された瓶に鼻を近づけてリノは首を傾げる。
「臭いはしないな。ほのかに甘い香りがする……ような」
そしてぐいっと一気に煽る。途端に顔色がさっと青を通り越して土気色になった。
「……ぐっ……こ、この喉をいつまでも通り過ぎないもったりとした重み……粘つき……そして口の中に広がるほのかな甘みが苦さとえぐみとなぜかある生臭さを更に引きたてて……ま、ずい」

しっかり講評してからその場に崩れ落ちたリノに、クロスはアクセルを振り向いて言った。
「アクセル、この親父を船まで運ぶのが最初の仕事ね」
「……お、おう」