拾ったカタリナをなんとか丸め込んで(グレンがいないと分かった時のカタリナはそれはもう恐ろしかった)海賊島から出ようとしたら、スノウと戦闘になった。
しかも騎士団長。
なるほどカタリナが「色々ぼろぼろ」だった意味が分かった。

ブランドに襲われた時のスノウを思い出してテッドは遠い目をする。
あれが団長になったら部下は苦労する。

「団長をどうしたんだ!」
船の上で叫ぶスノウに、クロスとケネスはげんなりと視線を逸らして沈黙を貫いた。
さっきまでカタリナと同じ問答をしていたせいで、答える気力がないらしい。

答えない二人に焦れたスノウが開戦の合図を出し、奇しくも団長がいれば丸く収まったはずのイベントはこうして開始されたのだった。
勝ったけど。



そんなわけでラズリルを追われるスノウを逃がした後、改めてクロス達は本来の目的地へと向かった。
目的地は海賊島の隣にある庵の小島。
ここにいるエレノア=シルバーバーグを仲間にするのが今回の目的だ。

クールークと戦うには軍師が必要だというキカとリノの言葉には賛成ではある。
賛成ではあるが、テッドの記憶にあるエレノアは、酒瓶で人の頭を殴る印象しかない。
……うん。軍師?

「なんで六人パーティじゃないんだろ……」
「俺は四人パーティでよかったと思うけどな」
「テッドが連れていけないじゃないか!」
「たまには俺を休ませろ! いないはずの時から働いてんだぞ!?」
クロスと一緒に行くメンバーはダリオ、ハーヴェイ、ブランドに決定していた。
ブランドはキカたっての推薦だ。
こき使ってくれと笑顔と熨斗付きでくれた。

残りの二人はシグルド、ハーヴェイ、ダリオから選べと言われたのだが、クロスが選んだのがこの二人だった。
テッドとしては非常に突っ込みたい選択である。

海賊の間でのクロスの評判はなかなかいいようだった。
その辺の海賊よりはるかにこの海を(貿易とモンスター狩りという意味で)荒らしまわった彼が海賊を恐れるはずもなく、物怖じせずに接する態度が好感を与えているらしい。
というのに、大抵の者には気さくに声をかけるクロスがシグルドと話をしているのをテッドは一度も見かけていない。
しかも今回の庵行きメンバーでも、キカからはさりげに「シグルドとハーヴェイのコンビでどうだ?」と暗に薦められていたのに(ダリオを外した方がいいんじゃないかと言われていたともいう)あえてクロスはそれを無視している。

避けている。
どう考えても避けている。
避ける理由も分からなくはないのだが、そこまであからさまだと。

「絶対不審に思われるぞ」
「もう思われてると思う……」
どんより呟いたクロスに、テッドは溜息を吐くしかない。
「仕方ないじゃん! 勝手に体が逃げるんだもん!!」
「俺何も言ってねぇし!」
「僕だってどうしたらいいかわかんないんだもん!」
……ああこれは重症だ。

一周目でテッドが船に乗った時にはすでにシグルドとクロスは常に一緒(というよりシグルドがクロスのそばを離れなかった)ので、初対面の頃のクロスとシグルドがどんな距離を取っていたのかは知らない。
知らないが、そうでなくともここまで露骨に避けるのは問題があるんじゃないだろうか。

実は先日キカに「クロスはシグルドを避けているようだがあいつが何かしたのだろうか」とすでに質問を受けている。
その時は笑ってごまかしておいたが、後々同じ疑問を抱く者が他にも出てくるだろう。
それらが全員テッドに聞いてくると非常にめんどい。
シグルドが癖のある奴ならともかく、海賊なのに温和で人当たりがいいと一般人にまで評判なのだ。
その彼をクロスが避ける理由などほいほい捏造できるものでもない。
当然「海賊だから」はダリオ達と平然と酒を飲み交わすクロスには使えない。

「シグルドは好きだよ今だって大好きだよ! でも今の僕にはルックがいるんだもんルックのことも愛してるんだもん!!」
「はぁ」
「例えるならテッドが死んだと思って結婚したシグールの前にテッドが出てきた時のシグールの心境?」
「…………」
例えが悪すぎる。
あとついでにそれはシグールには通用するかもしれないが俺には通用しない例えだよな?

溜息を吐いてテッドはクロスの頭をはたいた。
即座に返ってきた一撃を腕で受け止める。
「とりあえず俺を巻き込むのだけはやめろ」
「巻き込んでないよ!」
「すでに巻き込まれてんだよ! 周りからなんでお前がシグルドを避けるのか聞かれてんだ!」
「僕は聞かれたことないよ?」
「本人に聞くか!」
このままだとストレスで死にそうだ。
とばっちりどころの話じゃねぇとテッドは溜息を深々と吐いた。

せめて普通に会話できるようにはなってほしい。そして心安らかに過ごしたい。
そのために一肌くらいは脱いでやるか、と世話焼き部分を出したテッドは、後々自分が派手に巻き込まれる事をまだ知らない。