案外あっさり終了したイベントに名残惜しさを覚えつつオベルに戻るや否や、クールークによるオベル襲撃が始まった。
「立て続けだな!」
「本当はこの前にイルヤ壊滅イベントと暗殺者襲撃イベントがあったから、だいぶスキップしてるんだよ」
走って本拠地に戻るクロスが言う。
イルヤが壊滅したという噂はないから、紋章砲の方はトロイがうまく回避してくれたらしい。
「暗殺者の方は」
「だってミズキとアカギだもん」
「……なるほど」
あの二人はラズリルにいる頃に懐柔したと言っていた。
つまり二人の上司であるラマダも引き込み済みか。
そう思うと存外楽なのかもしれない。

戻った本拠地の作戦室でリノの指示を聞き、島民を避難させるためにフレアを含めた三人で町へと引き返す。
下の階層へ降りるところでクロスが言った。

「テッドはあっちお願い。僕らはこっち行くから」
「別行動かよ」
「乗ってくれる人、一人でも取りこぼしたら承知しないからね」
わき、と左手を動かして微笑むクロスが自分の親友にそっくりで、テッドはさめざめと泣きながらクロスと別れて担当にされた区域に向かった。

それにしてもここまでノンストップで動き続けているのに元気すぎないか。
俺はもう色々限界です。

早く一人部屋でひっくり返って酒飲んで寝たい、と自堕落思考に包まれつつも住民を回収していると、知った姿を見つけた。
「テッド!」
「あ、グレン団長」
「住民の避難は進んでいるか」
「今、クロスと手分けしてやってる」
「そうか、私も手伝おう」
よっしゃ俺の仕事減った、と喜びは心の中だけに留めておいて、テッドはグレンと担当を分けて再び走り出した。
 














あちこちで人を拾って、もう島民全員に話しかけたしいいだろうと船へと戻るために走っていると、こちらに向かって駆けてくるフレアと遭遇した。そっちはもう終わってたんか。だったら手伝うとか声かけるとか……ないよな。
「テッド急いで、もう出航するわよ!」
「はぁ!?」
「私はここに残るけど、テッドはクロスと一緒に行くんでしょう?」
フレアの言葉に、戻ってこなかったら放置プレイでオベルに置いていかれたのかとテッドは顔を引き攣らせる。
沈黙とどう捉えたのか、フレアは元気付けるように笑ってみせた。

「大丈夫、私こう見えて強いのよ。誰かは島に残っていないと、残る人たちも不安でしょう」
「そうだな」
「お父さんとクロスのこと、お願いね」
「……俺に言われてもな」
「ふふ、よろしくね。また会いましょう!」

フレアは笑顔でテッドの肩を押す。
その勢いで前に進んだテッドにフレアは手を振って町の方へと走り出した。
後ろ姿を見送って、テッドはなんとなくフレアが国民に慕われる理由が分かった気がした。
テッドの前では常にクロスとシグルドと一緒にテッドをからかい弄り倒しているフレアの姿しか見ていなかったが。
……俺にもその優しさを向けてほしかった。

ぼうっと考えていると、また近くの海に砲弾が落ちた。慌ててテッドは走り出す。
本拠地に足を踏み入れると、大きく足元が揺れて踏鞴を踏んだ。いよいよここもやばくないかと冷や汗を流す。
出航するのだろうか。
しかし、崖の中に埋もれるように作られているこの船をどうやって外へ出すつもりなのか。

揺れる地面に何度も転びそうになりながらテッドが作戦室へ辿り着くと、すでにクロス達はそろっていた。
「遅かったね。テッドが最後だよ」
「さいで……」
「クロス、もういいか?」
「はい」
「よし! 一気に出るぞ。クロス、お前がここの責任者だ。出航の合図もお前が出せ」
頷いたクロスの合図とほぼ同時に、ゴウン、と轟音が先ほどより近くから聞こえた。
続く振動に今度こそ砲撃を受けたのかと思ったが、クロス達が作戦室からサロンの方へ、そしてそこから外へと続く扉を開けると、崖の岸壁ではなくどこまでも広がる青空と大海原があった。

「おお! ……どうやったんだ?」
「紋章砲で崖をぶち破って脱出☆」
「……豪快だな」
「僕も最初の時は面食らったけど、確かに隠すには都合いいよね。リノさんも考えたよねー」
突然現れた帆船にクールーク側は対応が遅れているようで、思った以上にあっけなく振り切る事ができた。
駆け寄ってきたケネスとハイタッチして喜んでいるクロスを見て、テッドは何かが足りない気分に陥る。
なんだろう。何かが引っかかるような。

「…………」
「どうしたの、テッド」
「なーんか奥歯にものが挟まったような……なんか忘れてるような……」
「そう?」
「ま、いっか」
その内思い出すだろう、とテッドは考えを打ち切った。
誰かが声をあげる。
示された方角を見れば、我らが船に追いつかんと、小型ではあるがかなりの速さでこちらへと迫ってくる船があった。
あの船は確かグリシェンデ号だ。

「キカだ」
小声で楽しそうにクロスが言った。ここでキカが来るのは折り込み済みらしい。
「キカ……海賊キカか」
「やる気なのかなぁ」
「キカならそんなことはしねぇと思うが……」
皆が口々に言う中で、近づいてきた船は速度を落としてクロス達の船と並走する。
甲板に堂々と胸を張って立っていたのはやはりキカだった。

「お前達の戦いは見せてもらった」
「逃げただけだがね」
「私達は帰還する。お前達も来るがいい」
それだけ言ってキカは甲板から去っていく。
それと同時にグリシェンデ号は速度をあげて先へ先へと進んでしまう。
それでも見える範囲内にいるから、こちらへの配慮はされているのだろう。

「どうする、クロス」
「行きます」
リノの問いかけに頷いたクロスに、船上は進路を取るべく一気に活気づく。
その中で前を行くグリシェンデ号をずっと見つめたままのクロスに、テッドはにやにや笑いながら言った。
「お前、どうすんだ?」
「何が?」
「シグルド」
「…………」
 名前を告げると複雑そうな表情を作る。なにしろ元彼だ。

「ルックが知ったら浮気だって怒るんじゃね?」
「ルックはそんな心狭くないもん!」
「いや、めっちゃ狭いだろ」
「……実際のところ、シグルドは僕の知ってるシグルドじゃないわけだから」
どうしよう、と頬杖をついて呟くクロスはやっぱりシグルドを吹っ切れているわけではないようだった。
テッドとしては本気で恋愛相談に乗ってやるつもりはないので適当に相槌だけ打っておく。
テッドはシグルドがクロスとタッグを組んでテッドを弄り倒してくるようになるかという切実な問題を回避できればそれでいいのだ。