次の日から、リノの言葉に従って仲間集めに本腰を入れる事になった。
当分他にする事はないのでそれに異論はないのだが。

「これって当然だけど戦闘参加人数で経験値って山分けになるわけ」
「ふんふん」
「僕らのレベルにもなると、そうそうレベルアップもしないんだよね」
「だな」
「というわけで二人で行こう」
「なにがどうしてそうなった!?」
「おくすりと特効薬は一応買ったから、当面はオベルに戻ってこなくても大丈夫」
「そういう問題じゃねえ!」
「じゃあ念のため水の紋章つけてく? ちょうど余ってるんだよね」
「人の話を」
「あ、でも別にテッド、モンスターから吸収できるのか」
「俺の紋章は人に見られたら」
「バレてるんだから今更だって」
「言ったのはお前だ! それに俺の紋章はタチ悪いって」
「だから一応二人で行くんでしょ?」
「……もういいです」
最初から反論の余地などなかった。
無駄な労力を使ったテッドに労いの言葉などかかるわけもなく、クロスとテッドは意気揚々と海へ出た。

出会うモンスター全てを薙ぎ払い船は行く。
最初に辿り着いたナ・ナル島で、モンスターの出るデンジャラスな砂浜を横断して町へ入ると、クロスは一直線に宿屋へと向かった。
いくら一撃でほとんどの敵を屠れるとはいえど、体力も精神力も有限だ。
さしものクロスも疲れたに違いない。

これで少しはゆっくり休める……と安堵しつつクロスについて宿屋へと入ると、クロスは宿屋の主人ではなく、ロビーに立っている少女へと一直線に歩いていく。
「おい、宿屋に来たら休むんだろ?」
「え、ここに来たのはあの子に会うためだけど?」
「……お前、ロリコンの気なんてあったっけか」
「ふざけろテッド」
ぐり、と踵でにじられた。痛い。こいつ陰湿なツッコミが多くないか。
テッドの一瞬の隙を突いて、クロスはさっさか少女に声をかけてしまった。
手持ち無沙汰そうだった少女の表情が一気に明るくなる。
「こんにちは」
「なぁに、おにいさん。私と遊んでくれるの?」
「いいよ」
なんだかいかがわしげな対話をしつつ、少女はリタと名乗った。そこでようやくテッドも思い出す。

「ああ、リタ……」
思い出した時にはすでに牌を前に二人の真剣勝負が始まっていたが、思い返せば本拠地でもしょっちゅうクロスはリタポンをやっていた。
テッドが巻き込まれた事も一度や二度ではない。
何回かリタポン大会も開催されていた気もする。
どれだけ負けてもクロスに食い下がるリタの根性もさる事ながら、あの資金はいったいどこから出てきていたのか。
軍資金の何割かは確実にリタポンが財源だ。

「……つまり、財源確保か」
テッドが仲間になった時にはすでに宿星の大半が船にいたので、彼らが仲間になる順番など知らないのだが、リタはこんな序盤からいたのか。
そして軍資金を提供し続けていたのか。

「よっし! 僕の勝ちだね♪」
「あーん、負けちゃったー……」
回想に浸っている間に、勝負はついたようだった。
リタを仲間にし、ミツバを倒し、エルフの長老にちょっかいをかけ(クロスの笑みに長老が引いていた気がするが気のせいだ)、ようやくナ・ナル島を出たと思えばモルド島で温泉に入り交易品を買い占め、海上でモンスター相手にレベル上げを……ほとんど上がらないが。

「おい、もう帰ろうぜ」
「うーん……なんかもう一声……あ」
隙を突かれてモンスターに船に乗り上げられた。気を抜いていたのでまずいと二人して武器を構える。
構えて、止まった。
「ギャピー」
「…………」
「やっぱりこのへんで出るんだねぇ」
あははは、と笑うクロスの声もどこか乾いている。
二人の前でギャピギャピ言っているモンスターは、いわゆるキラーフィッシュだった。

そういえば出るんだった。
真実を知ってしまっているが故の複雑な思いが胸をよぎる。
剣やスコップを奮う腕は鈍らないが、さすがに気力が萎えてくる。
「なんかこう……微妙な思いが」
「だねぇ……」
そろそろ帰ろうか、とクロスも萎えたようで、ようやくオベルへの帰還となった。

帰ったら即座にオベルの遺跡へと行き、番人を倒すついでにリキエとラグジーの話を聞く。
こうして聞くと罰の紋章のえげつなさを認識できるが、実際のところすでに命が削られる心配はなくなっているのでどこかあっさりとした感が否めない。
ちなみに行ったのはクロスとテッドの二人きりだった。
出かける時のグレンとケネスの背中が忘れられない。

「なぁ、さすがにかわいそうなんだが」
「えー」
「どうせ俺達レベル上がんねぇんだし、たまには連れてってやろうぜ」
「まぁ……それもそうか」
ルイーズにケネス達のパーティインを報告しに行ったクロスの後ろで、テッドは小さくガッツポーズを作った。
もうクロスと二人きりでいるのは、内蔵(胃)的に限界だったのだ。















久々の四人フルメンバーで海に出ると、いきなりイベントにぶち当たった。
最初は海面で大きく手を振る姿が見えて、てっきり誰かが溺れているものだと思った。
しかし、よくよく見たら人魚だった。しかも顔見知り。

「リーリン?」
「クロス!」
船に上がったリーリンは、いきなり話し始める。
なんでも人魚狩りのせいで、あの無人島にいた人魚達はバラバラになってしまったらしい。

そんな話を聞けばグレンとケネスが怒り出すのは当然とも言えた。
対策を練るべく一度オベルに戻ろうと船の針路を変えたが否や、人魚狩りの船に捕まった。
しかもリーリンを譲れと言ってくる。
そんな申し出をグレンとケネスが許すはずもなく、なしくずしに海戦となった。
こうなるとこちらに負ける道理がないわけで、人魚売買組織は一瞬で壊滅に追い込まれた。

さてひと段落、と思ったところで今度はダリオがやってくる。あちらさんはどうもこちらが人魚誘拐の犯人だと思い込んでいるらしく、一方的に攻撃をふっかけてきた。
「人を誘拐犯呼ばわりして失礼だよね。僕は清廉潔白だっていうのに」
「……団長誘拐してるからな? 傷害もあるからな?」

テッドのツッコミは届いていない。届いて何が変わる事もないが。
連戦とはいえスペックが違う。
今回も一瞬で終わったが、ダリオは誤解を改める様子を見せなかった。

「よし、野郎共! 一端退却だ!!」
「負けたら一度ちゃんと話を聞くのがセオリーじゃねぇの!?」
「相変わらずダリオは人の話を聞かないなぁ」
「みんな急げ! 戻るぞ! 姉さんに報告……だ……あれ?」
ダリオの捨てゼリフが尻すぼみになる。
場に割り入るように波を切ってやってきたのはグリシェンデ号だ。
その甲板に立っていた人物に、ダリオがぴっと背をのけぞらせる。

「キカ姉!」
「おお、相変わらず格好いいな」
縁に肘をかけてのんびりとテッドが言う。
そして隣のクロスを流し見て、にんまりと笑った。
なにせキカの隣にいるのはハーヴェイとシグルドだ。
さて、クロスはどんな顔をするだろうか。

「おいダリオ、あの人魚が捕まってるように見えるのか? また飲んでるんじゃないだろうな?」
シグルドが肩を竦め、ちらりと視線をクロス達に向ける。
それだけで妙に背筋が伸びたのが楽しくてこっそり笑うと、即座に肘鉄が飛んできた。

「……正義のために戦うと言うのならば、まず、戦う相手を間違えぬことだ、ダリオ」
「あ、う、うぅ……。すんません、キカ姉」
おお、さすが鶴の一声。
感心していると、キカの視線と声がこちらへ飛んできた。
「今回は部下が失礼を。いずれ……また」
「はい、また縁があったら」
「おいクロス」
「別にいいじゃんほんとにあるんだし」
「…………」
 確かにそうですね。

「クロス……? そうか、お前が……」
離れ行く船の上でキカが何か得心したように呟いていた……これだけで終わりか海賊イベント!