その後ブランドとの直接対決となったが、先輩騎士が泣きを入れても徹底的にぶちのめし、近隣のモンスターを狩りまくってレベルを上げたクロスの敵ではない。
しかも今回、そこにテッドのおまけつき。
そもそも攻撃がクロスとテッドにほとんど当たらないという、海賊側にとって泣ける結果となった。
レベルと回避率は比例するものである。
「…………」
荒い息を吐いて膝をついたブランドに剣を突きつけてクロスは無表情で彼を見下ろす。
「こ……このがき……」
骨と皮だけの人間が、ぎょろりとした目でクロスとテッドを睨みつけてくるが、テッドがスコップの先をつきつけると、悔しそうに奥歯を噛み締める。
「くそ……こんな……こんなスコップなんかに負けるなんて……」
「俺だって好きで使ってるわけじゃねぇよ!」
「ブ、ブランドさまぁ……」
ブランドは無言のまま、じっとクロスを睨み据えている。
その視線を真正面から受けても眉ひとつ動かさないままのクロスに、ブランドは覚悟を決めたのは左手を掲げた。
その甲に描かれているのは罰の紋章だ。
クロス以外の手にあるのを見るのはなんだか新鮮だな。
「ふ……こうなったら道連れだ……!」
「ところがぎっちょん☆」
「!?」
「罰の紋章カモン!」
クロスが叫んで左手を掲げた瞬間、ブランドの左手に宿っていた赤い光がクロスの左手へと移る。
そして光が収束した時には、罰の紋章はきちんとクロスの左手に鎮座していた。
いいんだ。そんな継承の仕方でいいんだ罰の紋章。
「……な、んだと……?」
だらりと力なく垂れる自らの左手の甲に何もないのを見て、ブランドは片方だけの目を見開く。
そして、信じられないものを見る目つきでクロスへと視線を移した。
「もしかしたら左腕は使い物にならないかもしれないけど。全身炭になるよりはよかったよね」
「お前……は……」
「てやっ」
何か言いたげなブランドを一撃で落として、クロスはへたりこんでいる男に視線を向けた。
男は昏倒している主と、その紋章が移った青年に、おろおろと視線を彷徨わせている。
「えーっと君……なんだっけ……パック?」
「いや、そんなかわいそうな名前じゃねぇだろ」
「ならクッパ」
「甲羅しょってるところは似てるけど違うと思う」
「ペックだ……なんでおいらの名前知ってんだ」
残念ながらパックとかクッパとか言っている時点で名前を知っていたとは言い難い。
テッドもドットとかベッドとか言われたらキれるところである。温厚な奴で助かった。
「ああそうだペックだペック。ブランドを海賊島まで持ってってくんない?」
「へ……?」
クロスが出した名前に、ペックは大きな目を更に限界まで広げて、言葉を震わせた。
「お前、キカ様を知ってるのか……!!」
「知ってるというかこれからお知り合いになるというか……ともかく、僕の目的のために、彼にここで死なれると後味悪いんだよね。紋章ももうないし、戻れるよね?」
「……けど、ブランド様はきっとそれを」
「本人の意思なんて知らないなぁ。どうしても死にたいならキカさんに斬られて死ねって言っといて」
「…………」
クロスの有無を言わさぬ笑みに、ペックはよたよたと立ち上がると、ブランドをかかえてかろうじて浮いている自分達の船へと戻っていく。
どうやらここまで見越して
わざと沈めないでおいたらしい。
クロスが達成感に満ち溢れた顔で、額を拭う仕草をする。
「ふぅ。継承イベント終了っと」
「ショートカットにもほどがあるだろ……」
「このままオベルに行っちゃおっか」
「流刑イベントは!?」
「冤罪を好んで被りたくはないなぁ」
「……いや、けどお前、今回は」
「クロス、何をしている!?」
背後から声がかかって、クロスはぎくりと肩を揺らした。
テッドが振り向くと、グレンが数名の騎士団員を連れて駆けつけたところだった。
おそらく小船で漂流してきたスノウを見つけたのだろう。
スノウから聞いたのか状況から判断したのか、ここには応援にきたのだろうが、そしたらクロスとテッドが談笑しながら逃げる海賊の親玉を見逃そうとしている。
問いただしたくもなるだろう。
グレンはとりあえずクロス達を詰問するよりブランドを捕らえる事を優先するようで、団員達に指示を出した。
「逃すな! 行くぞ!!」
「……あー……」
逃げる二人を追おうとするグレン達に、クロスは空を仰ぐと溜息を吐いた。
すっと左手を上げて何気なく呟く。
「永遠なる試練」
「…………」
団長達の目の前に落ちた紋章は、衝撃でグレン達をふっとばし、ついでに船の一部を壊した。
クロスの目的はグレン達を昏倒させる事だったんだろうけれど。
手持ちに風の紋章がなかったから衝撃で気絶させようと思ったのかもしれないけれど。
だが、だがしかし。
「……あーあ、これでまた冤罪……」
「明らかに冤罪じゃねえ! これは現行犯だ!!」
残念そうに首を振るクロスに、テッドは力の限り突っ込んだ。