グリンヒル解放のためにシュウの立てた作戦は次のとおりだ。
軍を二つにわけて、ハウザー、ビクトール、フリックでミューズとグリンヒルの国境に出陣してミューズからの王国軍を防ぐ。
その間にリドリー、ゲオルグを中心にした編成でグリンヒルを攻め落とす作戦だ。

ルカは今回ハウザー達と共に国境でハイランド戦を、セノはグリンヒル奪回を担当する。
対ハイランドをルカに任せた方が敵対関係を示せるし、向こうの兵の動揺も誘えるからだそうだ。あわよくば引き抜いてこいというシュウの魂胆が透けて見える。
「ぼくもいきたーい!」
「いや……あんた戦争禁止だから」
「ルックは行くくせにー」
「君と僕の立場一緒にしないでもらえるかな」
シグールが出てくると色々と面倒なんだ利権とか利権とか利権とか。分かってるだろうに。
 




グリンヒルへ到着すると、案の定というか、グリンヒルの市門はかたく閉ざされていた。
近づくと弓矢が飛んでくるので不用意に近づく事もできない。
「……切り裂きで全部ふっとばそうか」
「ルック、ちょっとそれは待って!」
面倒、と呟くと、セノが慌てて止めに入ってきた。
まぁ、実際吹き飛ばすのも面倒なので、好きにしてくれと思うが。

「あの市門が厄介ですね……あれがあったからこそ、ハイランド側もあのような手を使ったと考えられますが」
「俺達は悠長に包囲してる暇なんてねぇぞ」
「うん、だから抜け道を使う。テレーズさん、あるよね?」
「はい。以前脱出の際に使ったような抜け道がいくつかあります。グリンヒルには昔の戦いの頃の抜け道が多く残されていますから」
「じゃあそこから中へ入ろう」
「ルカ達を待たなくていい?」
「あっちはあっちで大変そうだしね」
「久々に主人公らしいことするね……」
「えへへ……」
ルックの皮肉に素直に返して、セノはメンバーを決める。

とはいえテレーズは同行者でついてくるし、シンもテレーズが入るなら自動的に入ってくる。
残りはルックとシーナ、ゲオルグ、ニナを選んで、抜け道へと進んだ。
途中にいたルシアをかわし、抜け道を通ってグリンヒルに入ると、突然虚空からユーバーが現れた。

「お前がセノ……真の紋章を受け継ぐもの……呪われし子……わが憎悪の元凶……わが悪夢の元凶……元凶……」
「……なんだかすごく気合入ってない?」
「かなぁ……? 元々ああだったーって言われたらそっかーって思うくらいなんだけど……」
「まぁ……僕も湯葉の元の壊れ方がどれくらいだったかなんて覚えてないからね……」
二百年後にはすっかり腑抜けた(常識を得たとも言う)ユーバーがこの頃どんなだったかはもう忘却の彼方だ。
元はこうだった、と言われればそんな気もする。
……二百年で劇的ビフォーアフターを遂げているな。

「我がしもべ……悪夢よりあらわれし別天地のバケモノによりこの世界から消え去れ!!」
聞いていると、セノをシグールに置き換えると、二百年後の彼の思いそのままになりそうな気がする。
ああ、本拠地で留守番しているシグールの歯噛みする様子が目に浮かぶ、とルックは上機嫌だ。
ユーバーが出してきたボーンドラゴンにちょっと本気を出してあげてもいい。


「空虚なるせか」
「「ルックそれはだめぇぇぇぇぇぇ!!」」


全力で止められた。
「お前! 鬼か!? 今のメンバーには魔守「I」なゲオルグさんがいるんだぞ!?」
「そうよ! 私達はなんとかなるけどゲオルグさんはどうなっちゃうかわからないのよ!? 味方の魔法で死んじゃったなんてとてもじゃないけど後世に残せないわ!」
「……お前達が俺についてどう思ってるかよくわかった」
「とっても心強い存在だけどね? 前衛では」
「…………」
セノはフォローに見せかけて相手にトドメを刺すのがうまい。相変わらず感心する。

ゲオルグの涙目な一撃で、ボーンドラゴンがガラガラと音を立てて崩れていく。
それを見ていたグリンヒルの市民から歓声があがった。
「うん、よかった」
「……で、これからどうなるんだっけ」
「えっとー。たしかこうやって喜んでたら……」
「セノ殿、シュウ殿からの知らせです。すぐに城にお戻りください」
「……って、連絡が入って、マチルダが降伏したって教えてもらうんだ」
「…………」


 


「マチルダ騎士団がハイランドに降伏しました」
「まぁ、ほぼ一部隊引き抜かれた状態だったからね……」
降伏するのが妥当ではあると思うが。
「我々がグリンヒルに軍を出している間、王国軍は全軍の三分の二を率いて騎士団領に侵攻したようです」
「ミューズの国境にはジョウイ、クルガン、シードがいた。誰が率いたんだ?」
「軍師、レオン=シルバーバーグ一人が王国軍を率いてマチルダに向かったそうです」
「将は囮か」
ルカが感心したように顎をなでる。
まぁ、通常将を囮にして本軍を動かしたりなんてしないからな。

「セノさん、ルカさん、シュウ兄さん、すぐにもミューズに攻め入りましょう。今ならば、王国軍のほとんどはマチルダにあり、とってかえしても遠征で疲れています」
「…………」
気合を入れて発言するアップルには悪いが、言い出したのがアップルという時点で不安が拭えない。
過去の戦争イベントでアップルにおまかせを選択した後の状態を知っていると、即答で賛同できないというか。
「えーっと……シュウは?」
「……いいのではないでしょうか。賭けとしてはありかと」
「それじゃ行こうか……」
「セノ殿を大将、ハウザー将軍を副将、アップルを正軍師としてグリンヒルに向かうのがいいだろう。そこを拠点にすればミューズに攻め込み易いはずだ。俺とルカ殿はここに残る。万が一、ここが落ちればデュナン軍の戻る場所がなくなってしまうからな」
「異論はないな」
「了解ですー」
「あ、今回は僕もついていくよ☆」
前回ユーバーに会えなかったからね、と言うシグールの笑顔が不気味だった。
 


グリンヒルを拠点として、いよいよミューズへと攻め込む時だ。
こちらが優勢でしばらく進むと、援軍であるカラヤの部隊だけを残して軍が退却していく。
もとより時間稼ぎのつもりなのか、カラヤの動きに迷いはない。
とはいえ一部隊だけでそう長くもつはずもなく、ミューズの奪回はあっけなく済んだ。
「……しかし、派手に壊れていますね」
「住民達はどこへ行ったのでしょう……」
うろうろと町中を歩き回る。
ミューズでソウルイーターと罰のコラボレーションが公開される前に全員退去させているから、人っ子一人いないのは当然なんだが。

「あ!」
ナナミが何かに気付いて足を止める。ナナミが見ていたのは地面だった。
少し先の交差路の地面に、黒い影が映っている。
細い筒を何本も組み合わせたような影は、博物館に展示されている古代生物の模型のようだ。

「……ああ、そうくるんだ」
ゴールドウルフがいなくてここをどうするのかと思ったら、アレをこき使ったらしい。
交差路を曲がってこちらへ向かってくるのは、骨でできた巨大竜だ。

「ボーンドラゴン……」
「あっ! あっちからも!!」
 ナナミが示した方向から、更に一匹。別の方向からも更にまた一匹。
「一匹見つけたら三十匹いると思え……ってやつだよね」
「……同じ三十匹ならこっちのがいいな」
「ていうか大量発生させすぎじゃない?」
「依頼された方のストレスの度合いだと思うよこれは」
軽口を叩いてはいるが、何十匹いるか分からないボーンドラゴンを全て倒すのはさすがに骨が折れる。
とりあえず進路妨害してくる骨だけ折って、外へと出た。

「んー……いちいち倒すの面倒だよね」
「皆で手分けしたらどうでしょう? レベル上げにもなりますし」
「この終盤でレベル上げとかあんまり必要ないような」
「町ごと消すとか」
「やめろ」
「けど全部壊して回るの面倒だよー」
肉はないけど腐ってもボーンドラゴンである。
一般兵には荷が思いから、それなりの力量があるメンバーで挑む必要がある。

「大変です! 王国軍の奴らが戻ってきましたー!」
ボーンドラゴンをどれだけ楽に一掃するか、を議論していたら、フィッチャーが慌ててやってきた。
「…………」
「うん、まぁそうなると思った。アップルだし」
「……すみませんね。聞こえていますよ」
「アップルはそんな気に病む必要もないけどね? ボーンドラゴンがうようよしてるから、王国兵が戻ってきたも町中は入れないだろうしー」

「あ、王国軍にやってもらえばいいんだよ、ボーンドラゴン駆除」
「「なるほど」」
「……撤退します」
告げるアップルは、色々と諦めたらしい。