本拠地に戻ると、すでにグスタフより正式な協力依頼が届いていた。
これで王国軍との兵力差もだいぶ埋まった形になる。
それはシュウも同じ考えだったのか、デュナン軍からしかける事を提案してきた。

「デュナン軍も王国軍とまっとうに戦えるところまできました。これまでは王国軍の動きに合わせるばかりでしたが、これからはこちらから動くことができます」
「こちらから撃って出るということだな」
「まあ、そうだな。アップルの調べによると、王国軍は軍をミューズに集めている。狙いはわからぬが、グリンヒルを取り戻す好機なのは確かだ」
「グリンヒルには王国軍の新手の将軍としてユーバーという男が布陣されています。以前にも数度、戦乱の発生したところに姿を現しています。その正体は不明ですが、魔物ではないかという噂もあります」
アップルの一言に、場の空気がざわっと動いた気がした。

セノがどこか可哀想な顔をして、シグールが目をきらきらさせ、ルックが手をわきわきさせている。
……そうか、ユーバーとやらも犠牲者(予定)なのか。
まだ見ぬ敵軍の将に同情を寄せる日がこようとは、とルカは昔の自分に思いを馳せた。
少なくとも一年くらい前はこんな事思いも寄らなかったに違いない。

人生何が起こるか分からない、と痛感しながら、久しぶりに本拠地での夕食を取るために食堂へ向かうと、料理対決が待っていた。
レストランに入る度に遭遇している気がするのだが気のせいか。
遠征から帰った日くらいゆっくりさせてくれ、と思いたいが、目の前ではイベントがどんどん進んでいく。

「レツオウさん……」
「約束だ、この料理勝負ですべてを決する。さぁ、かまえろセイリュウのハイ=ヨー!」
「レツオウさん……あなたとは戦えないよー」
「ばかめ! 怖気づいたか!」
「あなたの鍋、包丁、それを見てやっとわかったよー。『夢幻輝演』、あなたが、そんな裏の技を使うなんてよー」
最初は単なる料理勝負イベントと思っていたら、なんだか話が変な方向に飛びつつある。

なんでもハイ=ヨーが昔入っていた『黒竜会』なる料理人ギルドから盗み出した『蒼月鳥の涙のレシピ』を取り戻すべく、続々と刺客が送られているらしい……のだが。
「むげんきえん? なんだそりゃ」
「聞いたことがある。鍋のふる音、さいばしの煌き、そして踊るかのごとき動きで術をかけ、人々に「最高の味」と思い込ませる秘術。しかし、そんなものが実在していたとは……」
「…………」
「なぜ知っているそこの青いの。あとルック、お前もなぜ反応している……」
「一部では有名な話さ……ってお前までとうとう俺を青いって言いやがったな……」
「…………」
フリックの苦言を無視してルカは改めて考える。
そんなに有名なのか黒竜会。

「料理人の間では有名なんじゃないかなー? アントニオもレスターも知ってるみたいだったし」
「その二人はお前の時の料理人だったか」
「うん。ちなみにあのレツオウは僕の知り合いが全てを奪還してた時の料理人だった」
「……お前の知り合いも内乱とかしてたのか」
「あ、クロスも元軍主だよ」
「…………」
お前の交友関係はどうなってるんだ、と突っ込みたい。

そんな話をしている間も、料理人同士のシリアスな話は進んでいく。
「あなたなら、ジンカイが何を企んでいるのか知ってるはずよー。それなのになぜよー」
「ああ、知っているとも……『竜命作戦』は私とジンカイが生み出したものだからな……」
「そ、そんな、どうしてよー……」
「夢を見たのだな……」
長かったので省略。最終的にはいつものように料理対決になる。

前回はその『夢幻輝演』とかいうもので負けたが、今回はガチ勝負だったおかげかこちらの圧勝で終わった。
というか、今までの挑戦者のデザートの選択が全体的に間違っている気がしてならない。

デザートにサラダを出すな。
ステーキを出すな。
ナナミアイスは論外だ。

最初に巻き込まれた時に渡されて以来、最早すっかり自分専用となったエプロンをつけ、試合後の一服をしながら料理対決後のイベントを眺めていた。
「……やはり、勝てぬか……裏の技に頼った私では……」
どうやらこの意味不明な料理対決イベントにも終わりが見えてきたらしい。
「……サブイベントに懲りすぎだろう」
「メタ発言どうも。ルカもあいつらに随分毒されてきたよね」
腕組みをして退屈そうに事態を見ているルックが呟く。
「ふん!! ふぬけおって、見損なったぞ、レツオウ」
「お、おまえは!!」
「ジンカイ!!」
「…………」
また何か出てきた。

半目になったルカの前で、突然現れた男がハイ=ヨーに威圧的な言葉を吐き出している。
料理人とはそんなにムキムキである必要があるのか甚だ疑問だ。
そういえばレツオウも、包丁を無駄に回していた。料理人はいつから曲芸人になったのだろうか。
やり取りを聞いていると、ほとんどレシピを巡る戦争だ。

「……あのジンカイとかいう奴を切れば全部丸く収まるんじゃないのか」
「それを言ったらだめだよルカ。これはあくまで料理なんだし。ほら、料理は世界を救うみたいな」
「どこの料理マンガだ」
「まぁまぁ。これで最後だし頑張りなよルカ」
ルカの手からひょいと湯飲みを奪い取ってシグールが示した先では、話し合いではケリがつかないと判断したのか料理勝負の準備を始めているハイ=ヨー達がいた。

「…………」
「がんばれー」
「連戦か……」
「あ、僕中華食べたいなー」
「審査員じゃないだろうが」
なんでお前の食べたいものを作らねばならんのかと溜息を吐いて、ルカは調理台へ向かった。
 








 
ハイ=ヨーの勝利で全てに決着がついた日の次の朝。
早朝訓練のために人気のまばらな敷地内を歩いていたルカは、牧場のはしっこで湖に向かって一人佇んでいるハイ=ヨーを見つけた。
上下黄色の調理服は目立つなやはり。
「シュンミン……約束は守ったよー……、君はもういないけれど……」
「ああー! こんなところにいたんですかハイ=ヨーさん! お客さんがおなかをすかせて待ってますよー!」
「あ、ごめんよー! 今行くよー!」
「お願いしますよー!」
呼びにきたミンミンに返し、湖に向かって大きく伸びをするハイ=ヨー。

「さぁ、今日も頑張るよー!」
「…………」
どこのエンディングだ。
 


***
ここ以外の料理イベント(全3回)についてはオフ本書き下ろしです。
内容は、ルカ様の華麗なる包丁さばき披露とあの人との最終決戦。