「ルカ、やっほー」
「セノか」
翌日起きたらセノが来ていた。
「どうした」
「いや……さすがに主人公がここまで出番ないのはまずいかなって……ううんちょっと手が空いたから様子を見にきたんだ!」
前半がうまく聞き取れなかったが、どうやらそれどころではなさそうだ。
話を聞けば、ギジムの妹分のロウエンと、グスタフの娘であるリリーがネクロードに攫われたらしい。
「あー、ネクロードってロリコンだもんね」
「お、俺の娘がぁぁぁぁぁぁ!!」
シグールの不安を煽る一言に、グスタフが頭を抱えて叫んでいる。
「前回はテンガアールだったし、自分の年齢考えようよって話だよね」
「小童、それはわらわに喧嘩を売っておるのかえ?」
「いえいえシエラ様はいつまでもお若くていらっしゃいますともー」
はははは、と笑いながら退くシグールは珍しい。
「それにしても、今回も自分でオルガン弾きながら結婚式とかするのかなぁ……」
「さぁな……」
前回を見ていないので何とも言えないが、そんな事をしていたのか前回は。
とりあえずメンバーを選定し直しティントでネクロードを潰す事に違いはなさそうだ。
ネクロードを封じるためのビクトール、シエラ、カーンは必須。
さらにナッシュはシエラ担当、シグールはどきそうにない……これはただの強制メンバーじゃないのか?
セノが寂しそうにぽつりと呟いた。
「僕、入れる余地なさそうですね……」
「…………」
「カーン、邪魔だから同行者入ってよ」
「わ、私ですか!?」
「僕も行きたい」
「……ビクトール?」
「いやいやちょっと待て! これ俺の敵討ちだからな!?」
色々揉めたが、最終的にカーン同行者でセノを突っ込んで落ち着いた。
ちなみにセノをここまで連れてきたルックは外された。
本人はネクロードで遊べないと不満そうだったが、そもそもそういう意図でティントに行くわけではない。
村の東にある洞窟から坑道へと抜ける。
「まさかこれ、ネクロードがティントに入るのに使ったやつじゃないだろうな……」
「ありえるのう」
「使ったら埋めておけばいいのに……」
詰めが甘いと批評しつつひたすら進み続けると、ぴたりとシエラが足を止めた。
「ビクトール、先に行け」
「なんだよ? 何か出るのか?」
「でも行くんだ……」
言いながらも前に出ていくビクトールの眼前に、ストーンゴーレムが出現した。今回もやや立体映像付きである。
「うっわー、なんでネクロードが出すボスはこんな優遇されてるわけー?」
「知らん」
しかし登場がどれだけ優遇されていようとも、倒される事に変わりはない。
ストーンゴーレムをボコ殴りにして、一行はティントの町中へと出た。
ここからネクロードの潜伏先を探すのだが。
「奴のことです、一番いいところを使ってますよ」
「ていうかもう教会一択でいいんじゃないの」
「……そうなのか」
「過去の経験からネクロードがいるのはステンドグラスかオルガンか祭壇のあるところと決まってるんだよ☆」
「…………」
「ああ、それもそうですね」
「なら礼拝堂に向かうか!」
全員一致するのか。それで。
だが礼拝堂の前まで行ったところでシエラがネクロードの気配を察知し、本当にここにいると判明した。
礼拝堂の裏口から回れるんじゃないかと思ったが、そこは律儀に鍵がかけられていた。
「几帳面だよねこういうところ」
「あやつは昔からこういうところが細かい男だったのう。手先が無駄に器用での」
「当時からオルガン弾いたりしてた?」
「そうじゃの。あと大抵の物は作れたのう」
「日曜大工吸血鬼……!」
だんだん伝説の吸血鬼の像が音を立てて壊れている気がする。カーンが壁に手をついて黄昏ているぞ……。
というわけで、正面から乗り込んでみたのだが。
「ふああん、帰してぇーお父さんのところに帰してぇー」
「この野郎! なにが七十番目の花嫁だぁ! こんな小さい子を捕まえてぇ!」
「わたしには無限の命がありますからね。彼女が大きくなるまで私のもとでレディとしての躾をしてあげますよ」
「……紫の上計画ってのはイケメンがやるから許されるんだよネクー」
「シ、シシシシシシシ」
「ネクロード、頼むから落ち着いてくれ」
シグールの姿を見つけた途端にこの体たらくである。
「オルガンを弾いていないなんて酷い裏切りだ……」
「いや……その……す、すみません……?」
「謝るなよ……」
ビクトールもだんだんどうしていいのか分からなくなってきているのか、言葉に凄みがなくなりつつある。
だがその隙にカーンが術を発動させた。
よく今のやりとりで萎えなかったなと素直に感心する。
「こ、これは」
「マリィ家がこの日のために代々研究を重ねてきた結界です。これで『現し身の秘法』は使えませんよ」
「お……おのれ……だが、私には『月の紋章』の力が」
「人の紋章を盗みおった割に随分と威勢がいい男よの」
「ま、ま、まさか! シエラ長老!」
「四百年前、わらわより盗みとりし紋章を返してもらおうかのぉ」
にっこり、とシエラが浮かべる笑みに、ネクロードはすでに涙目だ。
シグールとシエラのタッグがそこまで恐ろしいか。……恐ろしいな。
くるんと棍を回してシグールが高らかに宣言する。
「さぁネクロード! 最終戦闘だよ!! ここでしか聞けない戦闘BGMが神なんだから、すぐに死なないでね!」
「…………」
「なぶり殺しかえ……ふむ、それもまた一興か」
「ネクロード。まぁ……悪いがゆっくり死んでくれ」
「俺達にこいつらを止める度胸はない」
というわけで戦闘が始まったが、それでも三ターン持てば十分か。
礼拝堂から出ると、外で待機していたらしい一団がすでに中へと入ってきていた。
「お疲れ様です!」
「ばっちりきめてきたよ〜」
駆け寄ってくるセノにシグールがブイサインを作る。
「ルカ……お前はネクロードを倒し、ティントを解放した。なぜだ? おまえがそれをする理由はなんだ?」
「それが俺の意思だからだ。お前は気に食わないようだが、俺は俺のやり方でハイランドを滅ぼすと決めた」
「……わかった。ミューズもデュナン軍に力を貸そう」
こうしてティントと、そしてミューズがデュナン軍に仲間入りとなった。