さて、本来ここでルカを頑張って倒すイベントが入るはずなのだが、ルカはすでにこちらにいるのであのシュウの鬼軍師っぷりが発揮される伝説のイベントは割愛される。
というわけで。
「さぁ英雄イベントだ!」
「いや、普通にカットでしょ。いるでしょ今ここに」
「えー? やーりーたーいー。ほら、コウ君もいるしさぁ」
「これ以上お前にページ数割けるか!」
「主役に裂くページ数ケチったら面白くないよ?」
「今回の主役セノだから。百歩譲ってジョウイかルカだから。間違ってもあんたじゃないから。だいたい完全にトランの英雄って周りにもバレてるからね……当初の一般人A自称どこにいったのさ」
「そういえばあったねそんな設定」
「…………」
シンダル遺跡の最下層に飛ばしてやろうかこいつ。
「とにかく。あんたが序盤から合流してる時点で英雄イベントなんてない」
「ちっ」
「…………」
「まぁそれはさておきさー。あのへんに山賊がいるのは確かなわけだし、ちょっくら山賊退治に行こうよ!」
というわけで山賊退治である。
今回はただの暇潰し……というか遊び半分なので、メンバーもシグール、ルック、セノ、シーナ、ナッシュ、ルカという趣味全開のパーティである。普段と変わらない気もするが。
幸か不幸かシグールとセノとルカの顔を知っていた手下のおかげで、親分は命拾いする事ができた。
後に聞く話では、バルカスのところに駆け込んできた盗賊達は「俺達山賊やってました! 捕まえてください! 助けてください! このままだと俺達殺される……!」と口走っていたらしい。
どういう噂の回り方をしているんだろうか。
そしてワームとの二度目の戦闘だが……むしろよくまた戦う気になったよとワームを労いたくなった。
「ワームってポイズンモスに変体するけどさー、サナギの段階飛ばしてるんだけどどういうこと?」
「僕は裁きの死神が六体な方に突っ込みたいね」
Tの時、レベルが上がる度に死神の数が増えていたが、あれも今思えば何かおかしかった。
「オデッサでしょーテッドでしょーグレミオでしょー父さんでしょーマッシュでしょー……あと誰?」
「バルバロッサかアイン=ジードか……だけど今回全員死んでないよね」
「あ、テッドのおじいちゃんか。えーと……レンタル?」
「どこからレンタルした」
魂のレンタルなんて聞いたことないよ、とルックはげんなりと溜息を吐いた。
そろそろツッコミを誰か代わってくれ。
***
本拠地に戻ったらコウユウの嘆願があったため、ティントに行く事になった。
「ネックロードー♪ ネックロードー♪」
ふんふんふん、と鼻歌を口ずさむシグールは上機嫌だ。
ちなみに今回、セノは欠席である。出発前にいきなりセノが言い出したのだ。
「あの、今回、ルカ達だけで行ってもらっちゃだめ?」
「……構わないが、なぜだ?」
「え、ええと……僕、ほら、ゾンビとかそういうの苦手で!」
ものすごく取ってつけたような理由だったが、普段何事も嫌がらないセノが嫌がるのを、受け入れないほど器が狭くはない。
シグールとビクトール、ビッキー、チャコ、それから道案内としてのコウユウを連れてルカは峠を抜ける。
ティントへ近づいたところでコウユウの兄貴分というギジムとも合流し、ティントでグスタフと目通りする事になった。
いかつい男はルカを見て、太い眉の下にある目を更に細める。
「ほぉ、あんたがデュナン軍のルカ殿か。なるほど、いい目だ。もう一人のリーダー殿は」
「セノは別件で動いている」
「そうですか。さぁて、ルカ殿。ここまでいらした用件ですが……」
頷いて口を開きかけたルカを遮ってビクトールが言った。
「はっきり言おう。俺達と手を組まないか。今までそっちは俺達デュナン軍を無視しっぱなしだったが、そんなことはガタガタいわない。死者の群れがここに迫っているのは知っている。どうだ、手を貸すぜ」
「よくもまぁ、はっきりというもんだ」
グスタフがげらげらと笑い声をあげる。
「確かに俺達がデュナン軍に手を貸さなかったのは確かだ。しかし、王国軍とこれまで渡り合ってきたその力は認めている。そして、俺達は敵を前にして援軍がほしい。虫のいい話と思われるかもしれんが、ルカ殿、われらティントに力を貸してくださらぬか?」
「もとよりそのつもりで来た」
「それは頼もしい」
差し出された手をぐっと握る。町包みで力自慢をするだけあって、掌は固い。
「すぐにシュウに知らせて軍を出させよう」
「じゃあ、おいらがひとっぱしりいってきやす。なぁに、このあたりの山はおいらの庭みたいなもんですから」
「ルカ殿にはお部屋を用意しましょう」
コウユウが使いとして本拠地まで走り、しばらくはルカ達はティントで滞在する事が決まった。
これで数日はのんびりできるか、と思ったら、次の日の朝にゾンビが集団で攻めてきた。展開が早い。
その中で一人背筋をただし、身なりのいい男がいる。いわずもがな、ネクロードだ。
「おはよう、ティント市の諸君。おはよう、市長グスタフどの。おはよう、みなさん。今日は天気もうるわしく、私も最高の気分ですよ」
「吸血鬼は太陽が苦手だと思っていたんだがな」
「いえいえ私ほどのものとなれば、これくらいは……」
そこでふと言葉を切り上げて、ネクロードはルカをまじまじと見ると、次いで何かを探すように左右へと忙しなく視線をふり始める。
何を探しているのかは……なんとなく、察せられるが。
そういえばシグールがどこにもいない。
「てめぇなんだって王国軍に力を貸してやがる!」
「力を貸す? 王国軍? いえいえ、そんなものとは関係ありません。ただ私は、こんな山間に素敵な私だけの王国を作れればいいなと考えているだけですよ」
シグールがいないと思ったのか、ネクロードはビクトールの激昂にも冷静に対応している。天敵なんだな本当に。
「というわけで、グスタフどの、市民諸君、あなたたちは出て行ってください。もちろん、死者になれば私の王国には残れますがね」
「わがティント市を死者の王国にするなど許せるものか!」
「話のわからない人ですねぇ。あまり我が死者の王国の人口を増やしたくはないのですが、強情を張るのではしかたありません。正面から戦いにて、攻め取りましょう。はははははははははははははは」
「待ちやがれ!」
痺れを切らしてビクトールが斬りかかると、靄のようにネクロードの姿はその場から消えた。
突然の宣戦布告に騒ぎが治まらぬ間に、更なる騒ぎの種が入り込んできた。ジェスが戻ってきたのだ。
「これは何事ですか、グスタフ殿!」
「おお、戻られたか、ジェス殿にハウザー殿。いかがでしたか? 兵士達は集められましたか?」
「ほぼ五千ほど。しかし、報告のために戻ってみればいつのまにかこの男がここに居座っている。これはどういうことですか?」
「不満か?」
「不満だとも! デュナン軍ですと! 皆、騙されています!」
「ほう?」
完全に喧嘩を売ってくるジェスに、ルカは斜に構える。
この男とはミューズで一度顔を合わせたくらいで、それこそほとんど会話もしていないのだが、よくぞまぁここまで毛嫌いされたものだ。
「こいつは都市同盟の人間じゃない! 我々をこんな目にあわせたハイランドの皇子だ! そんな男がデュナン軍のリーダーだなど、デュナン軍もろくな集団であるものか!」
「てめぇ、ジェス! 何を証拠にそんなこと言ってる!」
ビクトールに剣幕に一瞬怯むものの、ジェスは下がる気は一切なさそうだ。
「何か言い分があるなら言ってみろ!」
「特にない」
「みてみろ、やはりこいつは……」
「相手にするのも面倒だ」
「なっ……!」
「グスタフ、話の続きをするぞ。ネクロードを迎え討つ作戦だが」
完全にジェスを無視して話を続けようとするルカに、ジェスは食ってかかろうとしたが、グスタフの手前さすがにこれ以上はと控えたらしく、苦々しい顔をしながらも去っていった。
「お気を悪くなされるなルカ殿。ジェス殿も……頑張っているのですよ」
「気にはしていない。あの男はあの男でやり方があるのだろう。捨てたとはいえ、元はハイランドの皇子だ。お前も腹に抱えるものはあるだろう」
「……いやいや、最初はともかく、今はありませんな。ルカ殿は冷静だ」
さぁ議論の続きをしましょう、と地形の描かれた紙を引っ張り出してくるグスタフをよそに、シグールがつんつんとルカをつついた。
「ルカ大人だねぇ。僕だったらとっくに埋めてるよぉ?」
「…………」
いや、それもどうなのだ。