軍師を力ずくで仲間にするとかかなりアレではあったが、無事に本拠地防衛戦をクリアして、デュナン軍の旗揚げとなった。
「よっしゃ、宴会だ宴会!」
嬉々として宴会の準備を始めるビクトール達を見ながら、シグールは壇上を見た。
「……こないね、レックナート様」
「レックナート様ならさっき石版だけ置きにきたよ」
「え!? 演説は!?」
「僕らの前に出てきてもいいことは何ひとつないと思ったんだろうね」
「……完全に仕事放棄してるねあの人」
その分の時間何しているんだろうか。
まぁ基本的にあの人の日常生活謎なんだけど。

宴会の準備を手伝うでもなく、ぐだぐだとくっちゃべっていたシグールとルックのところに、ルカが近づいてきた。
その手には酒瓶の入った箱がある。……真面目だな。

「そのレックナートとやらは、お前達の仲間なのか?」
「仲間というかルックの扶養家族というか……」
ルカの問いに肯定なのかいまいち分からない返答をして、はたとシグールが首を傾げた。
「そういえば、ルカのことどうしようね?」
「そろそろ身内には公表してもいい頃じゃないの」
「は?」
「これまではフリックとかビクトールとか相手だったからバレなかったけど、これからは気付く人も出てくるだろうし、この間のミューズ戦でもちらっとルカ露出してるわけだしね。面倒なことになる前にルカのこと公表しちゃった方がいいと思うんだよねー。後になって「お前……!」とかになるのも嫌だし」

市長クラスや将軍クラスになればルカの顔を見た事のある者がいそうだし、下手な段階で露見するよりも、旗揚げの段階で公表してしまった方がリスクは少ないだろう。
「少なくともシュウには全部話しておかないといけないだろうし……テッドの指示出る前でも言っちゃっていいんじゃない? セノ」
「そうですね……そうします」
今まで黙って聞いていたセノが頷いたので、とりあえずそういう方針になるようだった。

ナナミに呼ばれて離れるセノの背中を見送るルカに、シグールが薄笑いで尋ねる。
「ルカの身分を公表したら、もう後戻りできないけど異論ないの?」
「何を今更。ハイランドを潰すという目的が達成できるのであれば、他はどうでもいい」
「そう」
にっこぉ、と笑ったシグールに一抹の不安を感じたが、自分の決断を覆す気にはなれずルカは沈黙を通した。

さて盛り上がった宴会後。全員がいい感じに酔い潰れている中、セノがすくっと立ち上がった。
彼は元々酒に弱いので、今日も飲まずに素面である。
「今残ってる人に、ちょっと聞いてほしいんだけど」
セノの言葉に場に残っていたメンバーが視線を向ける。
焦点が覚束ない者が多いのはご愛嬌だ。

「んー? なんだぁ、セノ。演説か?」
「どうせなら宴会の前にやった方が締まったかもなー」
まだグラスを持っている熊と青雷のペアには目もくれず、セノは自分同様素面のままだったルカを引っ張り立ち上がらせた。
ちなみにルカが素面なのは、飲めないわけではなくこの展開を最初から知っていたが故だ。

「えーっと、ルカなんだけど、僕のおにいちゃんって言うのは嘘で、本当はハイランドの皇子です」
「おいおいセノ、いくら酒の席だからっていっても、そのネタは寒いってー」
はははは、とシーナが笑い声をあげる。
「本当なんですよー?」
「…………」
こてり、と首を傾げるセノと、無表情のまま腕を組んで立っているルカに冗談味を感じられなくて、だんだんと室内の空気から酔いが消えていく。

「……マジで?」
やや引き攣った笑みを張り付かせてシーナがルカに向けて尋ねる。
「…………」
「あははー。まぁ、襲撃かけたところを丸太で返り討ちにあって一緒に崖からダイブしましたなんて、とてもじゃないけど自分じゃ説明できないよねー」
「黙れ」
けらけらと一人楽しそうに説明したシグールにルカがぎろりと睨みを利かせる。
「……つまり、俺達は」
「ハイランドの皇子と今まで一緒に行動してたってのか……?」
「よく気付かなかったよね」
「「…………」」
事態を把握し、酒で赤くなっていたはずの顔を青に変えた二人の絶叫が深夜の本拠地に響いた。
 



 
次の日、セノに起こされてルカは連れ立って広間へと向かった。
昨晩遅く、宴会がお開きになる頃にこっそりテッドがやってきて、シュウとルカの三人で裏会議なるものが開かれたせいで、あまり寝ていない。
正直あそこにルカがいる必要性があったのか疑問だったのだが。あんな事はシュウとテッドが二人でやればよかったのではなかろうか。

欠伸を噛み殺しながら広間に行くと、そこにはフィッチャーが来ていた。
共にいるシュウがけろりとした顔をしているのが癪に障る。
「セノ殿、ルカ殿ちょうどいいところに」
「え、この少年が?」
ははははは、と軽い笑いを浮かべるフィッチャーは、アナベルのところで一度見た顔だ。
彼はルカの顔を見て、はて、と首を捻る。

「ルカですか……行方不明になっているハイランドの皇子と同じ名前ですね。情報にある背格好ともほぼ同じようですが」
「当然だ。本人だからな」
「ええっ!?」
シュウの一言にフィッチャーが飛び上がらんばかりに驚いた。
というかちょっと浮いた。リアクションが芸人みたいな男である。

「え、ハイランドの……え!?」
「話せば長くなるが、彼はこちら側についたということだ」
「そ、そうなんですか……?」
「部外者に信じてもらう必要もないがな」
ざっくりと切り捨てるルカの態度に、フィッチャーはへらりと笑いながら後頭部を掻いた。
「フィッチャーさん、アナベルさんのところで一度お会いしてますよね」
「そうなんですか? なら話は早いですね。わたくし、以前はアナベル様の下で働いておりましたが、ミューズを離れている間にあのようなことになり、今はトゥーリバー市にお世話になっているのです」
そういえば、アナベルとの会話でトゥーリバーに行くとか言っていた。

フィッチャーが言うには、サウスウィンドゥの様子を見にきた際に、王国軍と戦っている軍勢があると聞いて見にきたのだという。
「なるほど、ハイランドの皇子がいらっしゃるとすれば、あの勝利も納得します」
「俺はほとんど何もしていないがな」
「…………」
黙りこくったフィッチャーを無視してシュウが言うには、彼は独断でトゥーリバーとの協力関係を進言しにきたのだという。
「いかがされますか?」
「もちろん行くよ」
「ではルカ殿も一緒にお願いします。お二人が共に行動しているところは、なるべく多くの者に目撃されておいた方が後々有利でしょう」
「わかった」
「あ! そうそう、それなんですけどね!」
いきなり復活したフィッチャーは、大げさな身振りで伝え始める。

「サウスウィンドゥとトゥーリバーを結んでいる橋は王国軍に全部落とされちまってるんで、ここまで船できたんですがねぇ、戦いが始まった途端、船頭も案内役もみんな逃げちまって……そのぉ、船がですね」
「最初からそれが目的だったな」
「そんな滅相もありません!」
じろりとルカに見られて、フィッチャーは萎縮してすすすと横に離れていく。
「船か……」
「あ、それならいい人知ってるよ!」
「ほう?」
「タイ・ホーさんとヤム・クーさんって、僕らを一度乗せてくれた人がいるんだ」
「なんだ、あいつらこっちにいるのか!」
「知り合いか、ビクトール」
「前に一緒に戦ったことがあるからな」
「それなら話は早い。セノ殿、頼みます」
「はーい」
良い子の返事をして、セノは早速メンバーを集めて船頭を捕獲に行った。

シグール、ルック、シーナの旧縁メンバーでがっつり固められ、タイ・ホー達は抵抗ひとつできずに連行された。
ついでにヨシノを迎えに行き、リッチモンドのイカサマを看破し、順調にトゥーリバー攻略への道は確保された。