ビクトールとフリックがある程度精神力を回復させたところで、アナベルに会いに行く事になった。
メンバーはビクトールの他はセノ、ナナミ、そしてなぜかシグールである。

「ビクトールがミューズの市長と知り合いとか、世の中ってほんっと奇縁に満ち溢れてるよねー」
「お前、本当に三年前と変わらないな……」
「そうそう簡単に人間変わるものじゃないよ?」
 もしこの場にルックかテッドがいたら「お前は二百年経っても変わってないだろ」と即座にツッコミが入るのだが、残念ながら一緒にいるのはセノだったので、ただほわほわと笑っているだけだった。
「それにしても、なんでお前が一緒にくるんだよ……」
「いいじゃん。素性が割れると話がややこしくなりそうだから、一般人Aってことにしといてー」
「……一般人Aねぇ」
雑談をしながら市庁舎の奥の部屋へと入ると、張りのある女性の声が部屋に響いていた。

きびきびと指示を飛ばしていたアナベルは、ビクトールを見つけて表情を少し緩める。
「砦をおとされたんだって?」
「まったく、面目ない……」
「しかし……休戦協定をこうもあっさり破るとはね……しかも、今ルカ=ブライトは行方知れずで、軍の指揮を取っているのはぽっと出の若い男だっていうじゃないか。そんな奴にやられたのかい?」
「ああ。俺達も遠目でしか見てないが、かなり若かったぜ。こいつらと同じくらいじゃないか。けど、頭は恐ろしく切れるな」
「そいつは末恐ろしいね……」
実際は見た目は子供中身はジジイなのだが。

「ところで……今日はなんの用だい? いつものバンダナ男じゃなくて、子供をこんなに連れてきて……」
「バ、バンダナ男……! 新しいっ……これは新しいよフリック……!!」
「ウけすぎだ。あぁ……まぁ、こいつはちょっとおいといてだな。こっちがセノで、その隣のおてんばがナナミだ」
「あとここには来てないが、二人の兄がいる。この三人をお前のところで引き取ってくれないか? これから戦いが始まるのに戦場には連れていけないからな」
「ん? 三人? そっちの爆笑してる子はいいのかい?」
「ああ、こいつは別に預けるところがあるからな」
「そうか。確かに子供を戦いに連れていくわけにいかないだろう……しかし……セノ……ナナミ……」
アナベルが考え込むように二人の名前を呟き、何度も顔を見比べる。

「セノ……お前の育ての親は、ゲンカクという名ではなかったかい?」
「えー? どうして? どうしてゲンカクじいちゃんを知ってるの?」
「ゲンカク老師が二人の養子をとったと聞いている……その名がセノとナナミだったはず……」
驚くナナミに、アナベルが記憶を辿るように顎に手を当てる。
ビクトールが疑問の声をあげた。
「二人? 三人じゃないのか?」
「あ、ええと、お兄ちゃんがお兄ちゃんになったのは、最近なんだ。だから……」
「そうなのか? 結構ややこしいなお前のところも」
「あはは……」
これはだいぶ苦しい気もしたが、元々のセノの気質も影響したのか、それ以上の追及は飛んでこなかった。
シグールがいつまでも笑っているので、そちらに注目が行きがちだったというのもあるだろう。
いつまでも無駄話をしているわけにもいかないと会話を切り上げ、一足先に酒場へ戻るビクトールを見送って、三人は市庁舎の中を見回る事にした。

途中で見かけたジェスに話しかけると、ジェスはセノとシグールを見比べて、やはりというか案の定というか、ハイランドの駐屯地への潜入を依頼してきた。
それにしても少年兵の服しか用意できなかったというのも、なかなか間抜けな話である。

「えぇぇ? そんなぁ、危ないんじゃないの?」
おろおろするナナミの肩を叩いて、シグールはいい笑顔で言った。
「大丈夫。ちょっと忍び込んで調べるだけだよ。ね、ジェス」
「……あ、ああ。多少は危険かもしれないが……しかし、食料がどれだけあるかわかれば、ミューズにとっては、大きなプラスだよ。王国軍が長期戦を考えているかわかるからね」
「だってさ。どうする、セノ」
「もちろん行きます」
「だよね!」
酷く楽しげに笑うシグールの目的は、たぶん本来の目的とかなりずれている。
 




***





宿屋で寝ていたら、シグールが上機嫌で帰ってきて叩き起こされた。
昨晩普通に寝たシグールやセノと違って、こっちは徹夜明けだというのに容赦がない。

不機嫌オーラ全開のルックにも慣れっこなシグールは一切気にせずに、少年兵の服を着て一回転してみせる。
「よし、こんなもんかなっ」
同じく少年兵の服を試着したセノが、シグールに向けてぱちぱちと拍手を送っている。
「似合ってますよ〜」
「でしょ☆」
「……少年兵の服装に似合うも何もあるか……」
「何か言ったかなあルカ☆」
椅子に腰掛けているルカもかなり不機嫌だ。
彼も寝ていたところを叩き起こされた組だ。

シグールはルカを華麗にざっくり切り捨てると、パシンと手を叩いて宣言した。
「それじゃあ今からプロジェクトNの説明をしまっす!」
「引っ掴んで持ってくるだけなのに何がプロジェクトか。それより敵地からちゃんと戻ってくる算段立てたら?」
ルックの苦言になど、シグールはもちろん一切スルー。
「ルックはルカを連れて一番大きいテントで待機ね☆」
「ちょっと待て!!」
「無事に脱出するのはそれが一番安全だよう」
「あんたシナリオ綺麗に無視する気だね!?」
「ルカがこっちにいたりすでにルックと僕がいたりジョウイがいなかったりテッドが発生してたり、この時点で十分無視してるよね☆」
「……Tはそこまでじゃなかったのに」
主人公じゃないのにこのフリーダムっぷりはなんなのか。
もう止めても無駄なのか。
僕は無駄な努力をしているのか。
あと発生って。せめて存在とか。
なんかイベントみたいな扱いになってるよ君の片割れ。

「じゃあセノ、行こうか」
「はい」
「最初からその格好で行こうとするな!」
始まる前からすでにぐったりしたルックと、「途中までは絶対一緒だからね!」と言ったナナミと、もはや好きにしろと言いたげなルカ、そしてムクムクを加えて、五人と一匹はミューズを旅立った。

森を抜ければ、すぐハイランドの駐屯地だ。そしてここには……。
「シグールさんっ、あるまじろんです!」
「よっしゃあ任せて! こい、七千ポッチ!!」
たくさんのあるまじろんがいる。
レアモンスターであり、その報酬は大きい。主にポッチ的な意味で。

「さあ来い、軍資金達!!」
「先へ進もうよ!? いつまでこんな作業繰り返すのさ!」 
叫んだルックの言葉はもちろん誰も聞いていない。
セノとしてもここで稼いでおかないと鍛冶屋とかで困るので、むしろ率先してノリノリだ。
「ルカ、ちゃんと倒して!」
「後で狩りに来るという選択肢はないのか」
「先に進まなければイベントは進まないから大丈夫だよ」
「…………」

そうして暴れ回ってしばらく。ほくほく笑顔のシグールが稼いだポッチをセノの財布にまとめてから、ようやく作戦実行となった。
「じゃあ、ナナミとムクムクはこの辺りで待っててね」
「シグールさん、セノをよろしくね!」
「任せて。るっくんはテントにルカを連行よろ〜」
「とっとと行け」
ルックの舌打ちはやっぱり聞き流された。
……もう好きにしたらいい。