ルカによる説明を聞いた日の翌日、一行は宿屋の近くにある遺跡に突入した。
わざわざそんなところに突入する必要があるのか尋ねたかったが、アレックスという研究者を全力でおだて脅して遺跡の入口を開かせたシグールとルックの勢いが尋常ではなかったので、何も言えなかった。
後からセノが通行証を得るためだと説明してくれたが。
「うわあ、ルカのステータスやばっ」
「これは……あの苦労を思うと微妙だね……」
遺跡で明かされたルカのステータスを見たシグールとルックは言いたい放題だった。というか、どこでどうやって見ているのか。
「仲間になった途端に弱くなるってお約束だよね」
「にしたってこれ……このレベルでこの数値だったら守備力ランクH……前衛のくせにもろっ!」
「魔守はG……やる気ないね。ほんとないね」
「なぜ貴様らにそこまで否定されねばならんのだ」
思わずルカが低い声を出すと、困ったような顔をしてナナミがおろおろと視線を動かす。
セノは何も考えていなさそうな顔で立っているだけだが。
「あ、あのねっ、でもルカは強かったよ!」
「そりゃあ力は……ん、なんだこれ。A?」
「いや、Aにしたってこの数値は良すぎない? セノ、ルカの力パラメーターっていくつ?」
シグールとルックに同時に顔を向けられて、セノははっと顔を上げる。聞いてなかったな。
「え、えっと、なんですか?」
「ルカ。力のパラメーターどうなってるの?」
「ルカですか……えっと、ルカは……A+みたいですね」
「「A+!?」」
叫んだシグールとルックは同時にルカに詰めよった。
「何それ!? 反則じゃない酷くない!?」
「武器レベルの意味とかなくない?」
言ったシグールの横でルックは拳を握りしめている。
「通りで戦争時バシバシ倒れたわけだよフザけんな!」
「あれ、前の時ルックやられたことあったの?」
「離脱時に一発ね……!! 死にかけたよ!」
「…………」
そう言われても、ルカには覚えがないので反応しかねる。
無視していたら、「ほんとなんなんだよ」と呟きながら、ルックは足元の小石を蹴り、それが当たったのか繁みの中から飛び出してきたモンスターに八つ当たり気味に魔法をぶつけていた。
取り立てて変わった事といえばそれくらいで、遺跡自体はあっさり攻略した。
道にも迷わなかったし、複雑に見えた罠も一度経験したセノがいたおかげでさっくり解除された。
いよいよ最深部に入ってから出てきた、ここの主らしきモンスターにも冷静に対処し……シグールとルックが無駄にえげつなかったというか、強すぎたせいで道中のモンスターもボスも大して変わらなかった印象だ。
セノが何やら手を合わせていたが、おそらくモンスターは大人しく昇天しただろう。
恨んで彼らに襲いかかっても時間の無駄にしかならない。
そして一同は無事に通行証を手に入れ、ミューズの前に来ていた。
「あっさりしすぎていないか……」
「レベルがあがってポッチも手に入った。何か問題でも?」
シグールが笑顔でルカをやりこめている。セノとナナミはどこ吹く風だ。
自由というかフリーダムすぎる一行を見ながら、ルックは少し離れた場所で溜息を吐いていた。
別に疲れたわけではない。加入時レベルの二十七で余裕だ。
この溜息はどちらかといえば心労からだ。
「はぁーい注目! ではアレックスから貰った通行証で中に入りまっす☆」
通行証を振りかざして飛び跳ねているのはシグールだ。
あんたいくつだ。というか今回は主役でもないだろうに、どこまで介入する気だ。
「とりあえずルカがアレックスで、ルックがヒルダで、セノがピートね。あとは同行人ってことで」
「えーっ、わたしがヒルダじゃないのー?」
「ちょっと待て、なんで僕がヒルダだ」
ちょっと目を離すとすぐにとんでもない事を言いだすシグールを睨みつけると、笑顔で首を傾げられた。まったく可愛くない。
「ほら、やっぱり王様から動かないと、部下がついてこないだろう?」
「それはこっちのセリフだ。あと使いどころを間違ってる」
「えー?」
「……もういい」
真っ当に相手をするのが嫌になってきて、ルックは距離を取る事にした。
なんで前回で学んでなかったんだ僕。
「さて、では突入ー♪」
「だから……はぁ」
もうこれは何を言っても聞き入れやしないだろう。どうせこんなばればれの嘘が門番に通じるわけがない。