砦に戻ってから、「やる事がないなら仲間探しでもしてくれ」と言い放ったビクトールのあんまりな適当っぷりにルカが茫然としていると、セノはその場で回れ右をした。
「どこへ行く」
「リューベ」
「何をしに行く?」
「仲間集め」
言ってから、セノは今気付いたかのように手を打った。
「そうか、ルカは知らないよね。あのね、僕の最大の目的は仲間を集めることなの」
「……は?」
「顔グラのある人は基本仲間になる。だから話しかける! それで「仲間になってください」って誘う! これが天魁星の心得だよ!!」
「…………」
得意気に言い放ち胸を張るセノの言っている言語が理解不能だ。
「あ、でもそれは僕の仕事だから、ルカは……うん、頑張って戦ってね! ボナパルトとかボナパルトとかめんどくさいんだよね」
そう言ったセノの言葉はある意味正しく、そしてある意味間違っていた。
なぜなら、そのボナパルトとやらを倒しに入った山道で、マイマイといのししに危うく殺られかけたからである。
武器レベルを上げなきゃとセノはぶつぶつ呟いていたが、その前に防具をそろえるのが先決だと思うのは間違っているのだろうか。
一応ルカから意見はしてみたものの、「だって攻撃は最大の防御だもん!」と押し切られた。
ちなみにその後ボナパルトは無事に退治(捕獲)され、鳥の巣の下にいた犬と少年を仲間にした。
セノとしては犬が本命だったらしいが、犬は仲間にカウントされるのだろうか。
そしてそのまま連れられるがままに西へ移動。
「……おい」
「何?」
フィールド上の敵を滅多打ちにしながら、ルカはとうとう堪えかねて尋ねた。
「貴様は今何をしている」
「お金を貯めてる☆」
笑顔のセノの命令(僕は宿せないから、ルカお願いね☆)により、ルカは現在返し刃の紋章を装着中だ。
コロネで武器レベルも五まで上げている。
そこでようやく防具もある程度そろえたし、資金面でも十分潤っているように見えるのだが、これ以上金がいるのか。
いささか守銭奴っぷりにうんざりしていると、セノが真顔で言った。
「怒りの紋章球……一つ一万二千ポッチなんだ……!! せめて一つ分の代金は余裕で溜めないと……」
「…………」
なんとも言えない気分になりながら、周囲のモンスターを完全に殲滅することしばし。
「怒りの紋章球ー♪」
グリンヒル(これまたコロネから更に西である。徒歩で行くと酷く遠い。馬車とかないのか)の紋章屋のほりだしもので待望のアイテムを手に入れたセノは、嬉しそうにくるっと回ってから、それをルカへ差し出した。
「はい」
「は?」
「これ、つけてきて」
「…………」
「僕、まだ二つ目宿せないから。ルカの唯一の長所の攻撃力を活かさないとね☆」
笑顔で言われ、ルカは無言で差し出された紋章球を受け取った。
怒りの紋章球。常に怒り状態になり、攻撃力一・五倍。
「……疲れそうだな」
素直な感想を呟くと、セノは怒りの紋章球を抱えたまま首を傾げる。
「じゃあやっぱり返し刃のままがいい? ほりだしものの防具で防御力はなんとか強化したし、反撃はそもそも滅多に喰らわないし、使い慣れてる方がいいかもね」
「……好きにしてくれ」
勝手にそう結論付けられ、ルカは結局返し刃の紋章球継続となった。
***
結論から言うと、テッドの作戦は大当たりだった。
さすがだ俺。伊達に今まで二つの巻き戻った戦いをくぐり抜け……いや疲れてくるし深くは考えまい。
「なんでこんなことになった」
「いやあ、大出世だな、頑張れジョウイ隊長☆」
「ふざけろ……」
唸ったジョウイは、すったもんだの挙句、現在小隊を率いる隊長である。
テッドはジョウイの部下として、フードを被って謎の部下というポジションを取っている。
なぜそのような事になったのかは面倒臭いので大ざっぱにしか回想しないが、とりあえずルカとセノと別れた後、ジョウイは王国軍の駐屯地に乗り込んで「僕は実は皇帝の血縁者です」と堂々と詐欺を働いたのである。
実際に詐欺なのか本当なのかは、ジョウイのプライバシーのために伏せておく。
ただ、ルカがいなくなって混乱している現場において、ジョウイがつきつけた「証拠」は偽物と一刀両断できるものではなかったとだけ言っておこう。
指示を仰ごうにも現場の最高司令官であるはずのルカはどこにもおらず、そのためラウドおよびルカの部下は、ジョウイを殺す事も捕える事もできず、アガレスの指示を仰がねばならなくなった。
下手に偽者と決め付けて処断して後から「実は本当でした☆」となった時の責任の所在がどこにもないからだ。
そしてアガレスの前でも、ジョウイは見事な演説をぶちかましてくれた。
内容をさっくり言うと、「僕も皇族だから僕にも相応の権力よこせ」だ。
なんと図々しい。面の皮が余程厚くないと言えないセリフである。言わせたのはテッドだが。
そこで「もっと証拠はないのか」と問われたジョウイに、更にテッドが言わせたセリフがこれである。
もちろん直前にしっかり演技指導もした。
「ならば僕の力があのルカにも劣っていないことを、戦いで証明しましょう」
――というわけで、国境近くの傭兵砦へと攻め込む事になった。
ジャストでセノがいる場所である。
余計な事を、と後からジョウイに呪われたが知った事ではない。
あの状況で「戦ってやる」と言えばターゲットは傭兵砦以外にほぼあり得ないのだから、自分で気付けという話だ。
無抵抗の村人しかいない上に、作戦上さほど意味もないトトの村を焼きたがるのは狂皇子様くらいだ。
そもそもあそこを攻撃して、セノを始めビクトールやフリックを叩き出さないと話が前に進まない。
「……そもそも君のシナリオを聞いてないんだけど、僕に砦を襲わせてどうするのさ」
ジョウイの部下だと偽り、すっぽりフードを被って今回参戦しているテッドは、先を行くジョウイの斜め後ろでにやりと笑った。
出撃するまで話さなかったのには理由がある。
聞いたらこいつ、全部俺に押し付けて絶対逃げる。
「お前は今から砦を襲うだろ」
「そうだね」
「そこには後の英雄になるセノがいる。ついでにルカもいるだろ」
「……そうだね」
「つまりお前は、結果として、皇王になるために正当な皇位継承者のルカを亡き者にしようとした男ってことになるわけだ。国を奪われたルカは、自国と民のために立ち上がりお前に挑むことになる。バラバラの都市同盟をまとめるのは、まぁセノの仕事だな」
「……つまり……」
顔は見えないがジョウイの顔色は真っ青だろう。
ここまで気付かないのが悪い。
もう軍は出発した。後戻りはできない。
「今回の構図はお前VSルカ&セノ。お膳立てからエンディングまできっちり持ってってやるから頑張れ」
「やってくれたなチクショウ!」
叫んだジョウイに向けてテッドは笑顔で親指を立てた。
「もうあいつは敵なんだ! なら戦うしかないじゃないか! ってな♪」
「ばかぁああああ!!」
ジョウイが馬上で絶叫したが、全ては遅かった。
***
こうしてオフ本と合流させてみるのでした。