戦いを終えたセノは、本拠地へと戻ってきた。
「お待ちしておりました、セノ殿、ルカ殿」
「おめでとうございます。これで、長い長い争いの歴史から逃れることができたのですね」
口々に述べられる言葉にセノはいつもの笑顔で返す。
その様子は真底嬉しそうなものだった。
彼にとってこの結末は二度目でも、一度目より満足いく結果になったという事だろうか。
「まぁ、これで都市同盟の土地を脅かす相手がひとつ少なくなったってことだ」
「しかし、まだこの地に確かな平穏が訪れたわけではありません」
テレーズが勝利の喜びに沸き立つ一同を諌めるように言って、一歩前に出た。
しかし彼女が何か言う前に、セノは片手をあげてそれを制した。
「待って。テレーズ」
「……はい」
何かを察したのか、テレーズは大人しく一歩引いた。
セノはそれに頷いて、隣に立っていたルカを見上げてきた。
「北にはハルモニア神聖国、南にはトラン共和国と、二つの強力な国家がある。この土地は都市同盟として手を結んだはずなのに、お互いを信用する事ができずに戦いが起きた。これからもきっと、諍いは続いていくと思う」
「…………」
「この土地には同盟ではなく『国』が必要だと僕は思う。この土地に住む人々を守り、導いていくために。……だからね、ルカ」
セノはその場に膝をつき、礼をとった。
「この土地をあなたに託します。新しい『デュナン国』を」
「セノ様!?」
「皆、聞いて」
場がどよめく中、セノは姿勢を崩さずに、背後にいる仲間達に語りかける。
「ルカはこの長い戦いの日々を、ずっと僕と一緒に戦ってくれた。僕達は二人で軍主だし、皆も異論はないと思う」
「この俺に、雑多で協調性のない都市の集まりと、戦で疲弊しきったハイランドを導けと?」
「誰でもなく、ルカ、君に託すよ。僕は誰より近くで君を見てきた。今のルカになら、この国を託せる」
前回、セノはルカを殺した。ルカに国を導かせる事を許容できなかったからだ。
今度は、導かせてもいいと思ったのか。
セノが唇の形だけでルカに囁く。
ルカ、お願い。これが僕の――
「…………」
息を深く吸い込んで、ルカは厳かに返した。
「ありがたく、申し出を受けよう、セノ。俺は――」
国を守る、とか。そんな陳腐な言葉も出てこなかった。
「じゃあね。皆喧嘩しないでね」
最後に手を振って、最後の最後まで彼らしいセリフを言って、セノはルックと共にその場から消えた。
「…………」
「セノ殿は、なんとおっしゃっていた?」
こちらを見ずに聞いてきたシュウに、ルカは最後のセノの言葉を伝えた。
あの時、声にならない声でセノは言った。
――これが僕の、贖罪だ
「……馬鹿な奴だ」
セノは前回ルカの命を奪った事を、それほどに悔いていたのだろうか。
二百年後、彼は王座に就いているという。
きっと皆を幸せにするなどと馬鹿みたいな理想を掲げて、毎日走り回っているのだろう。
「仕事を始めるぞ。俺様の時間は有限だ」
「生憎こちらもそうですね。まずは政治形態の改革から始めましょうか」
まだ白紙ですがね、とシュウが真っ白の紙を見せる。
国を造り上げるのは、この白紙に細かく図を書き込んでいくような、困難で気の遠くなる仕事だ。
ルカの一生をかけても終わらないかもしれない。
「……ああ、取りかかろう」
だがそれは、あの少年がルカにくれた『未来』なのだ。
***
そして二人は、対峙する。
長い年月を戦ってきた。
幼馴染。親友。誰より信頼し頼ってきた互いに、刃を向けた。
自分の信じるもののため、信じてくれる人のために。
そして今――
「な ん で こ う な っ た」
最終決戦(もどき)から待つ事しばらく。
ハイランド王国最後の皇王でありこの戦いの首謀者でもあったジョウイは、頬をひくつかせながらそう言うのが精一杯だった。
ここはジョウイとセノの約束の地だった。
ここから始まり……そして、終わった。
その象徴ともいえるその場所に、彼は……というか。
彼らが立っていた。
「帰れ今すぐ」
「えー、つれないなあジョウイ。仲良くしようよ、僕ら友達でしょ?」
笑顔で言ったシグールをとりあえずぶん殴りたいんですけどいいですか神様。
「いいじゃない、一応天魁星だし」
「僕にとっては雲泥の差だよ!!」
怒鳴ってジョウイは頭を抱えた。もう嫌だ。
目の前にいるのはシグールとクロスだった。
この二人がここに来るのはもちろん予想していましたともさ。
だがしかし。
「セノはどうしたのさ」
「それを今から説明しよう」
こほん、とシグールが咳払いをしてくれる。どうにも嫌な予感しかしない。
「セノは『ラスボス』と戦いに行きました」
「……だから僕だよね?」
「何言ってるの、ジョウイ」
クロスが首を傾げる。あれ、話が噛み合わない。
「セノは『ラスボス』と決着をつけに行ったんだよ」
話が分かっていないジョウイにやれやれと肩を竦めて、シグールはゆっくり丁寧に教えてくれた。
ありがたくもなんともないわけですが。
「そもそもの前提として、今回ジョウイとセノはここで「約束」をしていないわけです。その時点でジョウイはセノとここで戦う必然性がなくなってるんだよ」
「…………」
言われて気付いた。
そういえばそうだった。
してない。
「だからぶっちゃけここで最後の対決する必要もないんだよねー。ただそうするとエンディングがどのフラグで立つかわかんなくって。で、僕らで一応いくつか仮説を立てて、片っ端から当たっていくことにしたわけです。セノは現在『あの時あそこにいた人と戦う』フラグのもう一方を片付けにいってるよん」
「…………」
言われてジョウイは考える。
あの時滝上にいたのはセノとジョウイとルカとテッドだ。
ルカはセノと穏便に和解して、国を押し付けられたという。
とすれば、セノが「戦いに行った」というのは……
「 テ ッ ド か 」
「ご明察ぅ★」
「まぁ最初の時にあの時あそこにいた面子で残ってるのはテッドしかいないしね」
「あそこにいた四人それぞれにシステム的な役割を割り振ったらそうなったって感じだよね」
「あんの猫仮面! 最後までおいしいところ持っていきやがって!!」
「そしてジョウイ君にお知らせがあるんだ」
言いながら、シグールは棍を取り出した。
セノの方は今テッドとのフラグを回収しにいっている。
「一応フラグのひとつとして、「約束の地で友人同士が戦う」があると思うんだ」
「……今回約束してないけどね?」
シグールが何を言いたいのか分かってきて血の気が引いてきた頭を必死に働かせ、ジョウイはせめてもの抵抗を試みる。
だがしかし、シグールの笑顔の前に一瞬で叩きのめされた。
「というわけで、僕に大人しくボコされて、皆でエンディングを迎えようじゃないか!」
「ちょっと待て! 違う! 攻撃するのは僕で君がボコされる方じゃないのか!?」
持ってきた武器である棍をなんとか引っ掴むが、シグールの鋭い一撃への防御が間に合わず、なんとか一歩分体を横にずらした。
その直後、一瞬前に体があった場所の真後ろの岩が真っ二つになった。
……容赦ないにもほどがありませんか。
「本当にこんなのがエンディング条件なのか!?」
「違ったらそれはその時また考えればいいよね!」
「いやいやいや、っていうかエンディング迎えるなら僕を倒しちゃだめなんじゃないの!?」
必死に防御を続けるジョウイに、シグールはにこりと笑う。
その笑顔が怖い。
「ジョウイをここで倒してもIIは終了するんでしょ?」
「!?」
「誰が君の両手に花エンドをやってやると約束した?」
ベストエンドでなくとも終了する。
セノとジョウイの紋章が互いの命を蝕まない以上、誰も死なないエンディングにかわりはないのである。
「目指すは王様エンド!」
「り……理不尽だ!!」
叫んだジョウイのみぞおち目掛けて、シグールの一撃が飛んできた。
***
色々考えたけど一番面白い事にしたくて捻じ曲げた結果がこれだよ!