「それではルルノイエ突入メンバーを発表します」
こほん、とわざとらしく咳払いをして、手元の紙を見ながらセノが最終決戦に挑むメンバーの名を読み上げる。

「まず、僕とルカ」
「……それはいちいち言わなくてもわかってるよ」
旗頭二人が最終決戦にいかないとかなんの冗談だとルックからツッコミが入る。
当然そこに異論が入るわけもない。

「えーっと、次にルックとシグールさん」
「……まぁ、妥当か?」
「もう止める気もない……」
フリックとビクトールがややげんなりとした表情で呟くが、シグールが行くと言いだしたら聞かないので止めるのは諦めたらしい。

「あと、シーナ」
「え、俺?」
「シグールさんの推薦です」
「シーナなら遠慮なくぶん殴ってくれるって確信持てるからね☆」
それはいったい何を想定しているんだろうか、と思わなくもない。
とはいえここまでの面子はしょっちゅう集う一軍メンバーなので、大方予想がついていた。
大きなざわめきもあがっていない。

問題は最後の一人だ。


「ええと最後の一人ですがー」
セノが声をあげると、場に緊張が走った。
列の前の方でフリックとビクトールががくがくと首を横に振っている。
大抵こういう場面だとフリックかビクトールかナッシュあたりが生贄のごとく呼ばれるので、大方がその三名の誰かだろうと予想を立てていたのだが。

「シエラ様でお願いします」
「わらわかえ。ふむ、まぁいってやらんでもない」
予想外の人物にルカも驚く。
ネクロードを倒す時に一度行動を共にしたが、あれ以来ほとんど連れて行った事がないんじゃないのか。

「シエラ? なんでだ?」
疑問に思ったのはナッシュも同様だったらしく、セノに疑問を投げかけている。
「ええとシエラ様もリクエストっていうか……たぶん、一番面白いことになるから? です?」
「…………」
セノ、お前のその手元にある紙には何が書いてあるんだ。
疑問系で読んでいる時点で書いたのはお前じゃないだろう。
面白いってどういう基準だ。

矢継ぎ早に思いつくツッコミを口にする場面でもないだろうとギリギリ自制して、ルカはただ明日の最終決戦が穏やかに終わらないであろう事だけは予想していた。
 




ルルノイエ攻略だ。
といえども少し前までここはルカの城でもあった。
前にこの城を出た時は、まさか戻るまでにこんなに期間が空くとも、ましてや対立勢力の頭としてこの城の門をくぐるなど、ルカは考えてもみなかっただろう。

「ルカ、王座ってどこ?」
「……漁らなくていいのか」
入って早々に現れたルシアをあっさり倒したシグールが問うのに、ルカは問い返した。
今までどこに行くでも片っ端から部屋から脇道から制覇して宝箱をゲットしてきたシグールが、目的地まで一直線に進もうというのが不思議で仕方ないらしい。
その疑問ももっともである。

「だって今更防具とか必要ないし……ここでアイテムとか手に入れても三周目に引継ぎできないもんなぁ……」
「…………」
「……こっちだ」
溜息を噛み殺して、ルカが赤絨毯を踏んだ。
 

立ちふさがったハーンを即行で飛ばし、シードとクルガンを適当にあしらって縄でしばりあげた後、いよいよ最終決戦の場となった。

「ちなみに前回だと獣の紋章だったんだよねラスボス」
「今回どうするの。そもそも解放もしてないでしょ」
歩きながら、そういえば一周目の時のラスボスもこんな面子だったとルックは思い出す。

セノ、シグール、ルック、シーナ、ゲオルグ、フリックで特攻して、ゲオルグが即行で死んだ記憶がある。
真の紋章相手にあの魔防はなかった。

ちらりと前方のルカに視線を向ける。
「今回のメンバーだと一番危ないのがルカだけど……」
そもそもラスボスが獣の紋章じゃない時点で気にする必要がないのかと思い直した。
ラスボス予想が定まらないまま、最後の扉が重苦しい音を立ててゆっくりと開く。

回廊奥、獣の紋章が刻まれた床に立っていたのは、仮面を付けた青年だった。
猫のお面の神官将だった。



「はいそこ笑うなー笑うなら後にしろーここは最後だラストだラスボスだきっちり締めろ!」
「むり」
「あはははははははは!!」
爆笑するルックとシグールに神官将が指を突きつけるが、ラスボスが猫面の時点で空気が完全に崩れている。
「なぁ、おい、あれって」
「シーナ、正体わかったら思う存分笑ってあげて。それが彼へのせめてもの手向けだよ」
「待てこら」

「消去法で一人しかいなかったんだよね、わかってる」
「ジョウイは約束の地にいないといけないですもんねー」
「クロスでもよかったんじゃ……ああ、けどさすがに天魁星がラスボスってのは勝てる気がしないよね」
「そこまでわかってんならちゃんとノってこい……」
はぁ、と溜息を吐いて猫面神官将は左手を掲げる。右手はさすがに使う気はないのだろう。

「つーわけで、ハイランドを滅ぼしたいなら俺を倒してみろ。ラスボスだからそれなりに全力で相手するぜ」
「はっ、面白い」
ルカが酷薄な笑みを浮かべて剣を抜く。
ここまでくるとルカもさすがに正体は分かっているんだろうが、それを差し引いても相手にとって不足はないと思っているのか。
ルックもロッドを構えて戦闘態勢を作る。

「ちょっとストップ」
それを制したのはシグールだった。その手にはあのスコップがある。
……ここで出してくるのか伝家の宝刀。

「それでは皆さん、一斉に手持ちの武器を投げつけてください」
「は!?」
「投げる? この距離なら魔法攻撃の方がいいんじゃないのかえ?」
シエラの疑問にシグールが笑顔で手を振った。

「残念なことに彼は魔法使いなので魔防が高いのです! けど直防の紙っぷりは僕が保証する!! 攻略本に書かれるほどだしね! さあ、決着の時だくらえ伝家のスコップ!!」
「お前らやめんか! つーか普通に攻撃しろ――でっ!」
全力で投げたシグールのスコップが、ルックの風で加速して、テッドの顎にヒットした。
……酷い最終決戦の始まり方だ。否定はしない。