本拠地に戻ったシグールの前に、後ろ手に縄で縛られたサンチェスが投げ出される。
「シグール、こいつが……こいつがスパイだった!」
憎々しげに叫んだフリックの横で、オデッサも冷めた目でサンチェスを見下ろしている。
「この私の隙をついて兄さんを殺そうとしたわ」
「マッシュは無事?」
少し乾いた声で呟いたシグールに、フリックは部屋の入口を示す。
そこにはマッシュが立っていて、全くぴんぴんしていた。

「オデッサとフリックのおかげですよ」
「そりゃよかった。皆には知らせてないね?」
「はい。ここまで来て解放軍の士気を落とすわけにもいきませんので」
頷いたシグールは膝をつき、投げ出されたサンチェスと視線を合わせる。
「サンチェス」
「……私は、ずっと悩んでいました」
「知ってるけど今はそれはどうでもいい。もう誰かを手にかけようとしないと誓えるなら、拘束は解こう」
「おいシグール!」
フリックが異論の声を上げ、オデッサも首を横に振った。

「シグール、私はあなたよりよくサンチェスを知っているつもりよ。何年も一緒にいて、なのに私達を裏切ったその男は、本気よ」
言外に自分は怒っているのだと伝えたオデッサを見て、シグールはもう一度サンチェスに視線を戻した。
「仕方がないな……サンチェス、自分のやったことの償いをしてもらうよ」
「……なんでしょう」
何もかもを諦めたようなサンチェスに、シグールはうーんと一つ唸ってから笑顔で提案した。
「とりあえず赤フン一丁になって本拠地の二階から湖に飛び込んでもらおうかな。ええと、「未成年の主張」みたいに「私はメイドさんが大好きです!」って告白してから」
「……………………」

リアクションが返せないサンチェスの代わりに、甘いわよとオデッサが突っ込む。
「それなら頭にキャップをかぶせないと! レースのついたふりふりのやつ!」
「たしかに! じゃあ褌は赤じゃなくて白にするべきだね! それとも黒?」
「メイドは下は黒だもの、黒よ!」
オッケー決まりだね! と作戦を決定させたシグール達に、色をなくしたフリックが口の動きだけで「それはいっそ殺してやった方が……」とか呟いていたが、声に出さなければ聞こえていないという事で、さっくり無視する。

「……そういえば、フリックが引きこもった時に言ってたフンドシダイブもまだだったよね……サンチェスの時に一緒にやろうか」
 いきなり自分に飛び火してきて、フリックは今度は声に出して叫んだ。
「嫌だ!!」
「だめよフリック、約束は守らないと」
「…………」
約束も何もしていません、というフリックの涙ながらの言葉は、軍主と愛しい恋人には届かなかった。

結局「サンチェス公開ダイブ☆with中年の主張」は終戦後の勝利の宴会の余興として行う事を誓わせて、彼への判決は終了した。
同時に「フリック公開ダイブ☆with青雷の主張〜湖の中心で愛を叫べ〜」も開催予定だ。

とはいえ、裏切り者を野放しにする事にフリックが難色を示したため、二人のマッシュへの護衛は続行だ。
他の幹部がサンチェスに後れを取るとはちょっと思えなかったし、いくら彼でもか弱い婦女子(別の名を軍内の絶滅危惧種)は狙わないだろう。

というわけでシグールは心おきなく本拠地を空ける事にして、残ってるアイテムや仲間の回収のために、西へ東へ北へ南へと、走り回った。
正直、一度荒らしまわったダンジョンの最深部にいるペシュメルガとかが面倒この上なかったが、仕方がない。
「えーっと、あとは……ああ、クライブか」
リストに残っている名前を見て、シグールは小さく呻く。
「クライブが面倒なの?」
ルックが首を傾げると、実はねえとシグールはジト目で答える。

クライブはリコンの宿に出現するのだが、出現率があまり高くないのだ。
シグールはきっちり一発で捕まえたからいいものの、後で知って愕然とした覚えがある。
お前、そんな、一〇八星集めないとベストエンドがない幻想水滸伝でそんな意地悪するなと。
せめてフラグとかにしておいてくれと。
一度来ていなかったら、普通再訪しねーぞ、と。

「でもまあ、クライブは強いし頼れるし(伏線にもなってるし次作では専用イベントもあるし)仲間にしておかないとね!」
「なんか小声でアレなことが聞こえたけど、宿星ならしょうがないね」
ルックに少々同情されながらも、シグールはドキドキしながらリコンに足を踏み入れた。





宿には……。
「……いないね」
「そうだね」
さっさかと足早に宿を出ると、外に出て。
もう一度中に入って、宿を覗く。
やっぱり居ないのでもう一度外にでて……。
また戻って……。

それを繰り返して五回目、先に宿に入ったルックが隅の方を指で示した。

「あ、ゴミ袋発見」
「ルック、その第一印象は僕も思わなくもなかったし、世間では微妙に浸透してるっぽいけど訂正してあげて」
宿の隅に全身をすっぽり覆うフード男がいたら、仕方がないのかもしれない。
しかも微妙に真っ黒じゃないし。灰色だし。
「クライブ! やっと見つけた……」
「なんだお前らは……なぜ俺の名前を知っている」
ジャキリを銃を向けられたが、シグールは笑顔で銃口をはたいて鬱憤をぶつけた。
「なんで出現率が八分の一なんだよお前は!」
「は、はあ?」
「これがロード時間の長いVだったらと思うと寒気がするわ!! ロードが短いIでよかったな本当に!」
「な、なにを言って……」
「そりゃあ時間おいて来たらいたってんなら納得するよ! なのに数秒の間に出たり消えたりってどういうこっちゃ! 僕の無駄な四往復に謝れ!!」
「す……すまん」

一応謝らせて溜飲が下がったので、クライブを仲間に引き入れた。















ともあれ、これで宿星は埋まった……はずだ。
なんだか呟いているクライブの首根っこを引っ掴み、シグールは瞬きの鏡を使う。
ビッキーに手を振ってから真っ直ぐ石版の間に行こうとして、はたと立ち止まって振り返った。

「なに」
「ルック、石版教えて♪」
「そんなの見ないとわからな」
「え、だって石版の間から追い出された状態でもちゃんと教えてくれたじゃん」
「……あれは一々確認してたんだよ、一〇八人も覚えてられるか」
「ええー」
ぶーぶーと文句を言うと、うるさいと氷点下の笑顔を向けられたので、諦めて大人しくえれべーたーに乗って石版の間へと急いだ。

上から下まで名前を確かめて、うむと頷く。
「大丈夫、全員クリアした」
「……いつの間にレオンが」
「オデッサが簀巻きにして連れてきてくれた」
「あ、そ。……今回はご褒美ないのに」
「いいの、集めた事に達成感を抱くの」
なんたって僕の時は不親切この上ない奴らばっかりでねーははははは。
笑いながら石版を軽く撫でて、うむうむと頷いた。
灰色なし。空白なし。最高に気分がいい。
「よし、大広間に招集かけるよ」
「もう最終決戦!?」
突っ込まれたが、「早くないよぅ」とシグールは返した。






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クライブの1/8メカニズムはよく分かりません。