本拠地に戻ったらまたも慌しく軍儀である。
よーやるわ、と思いながら護衛として来いと言われたテッドは端っこの方で眺めていた。
ビクトールが故郷に報告に行くと行って一時離脱したため、軍議は一名隊長格を欠いているのが不安要素だろうか。
「そうですか、ビクトール殿が。いかがしますか」
「テッドが代理で入るから」
「はい、わかりました」
「うえぇええええええ!?」
腹の底から声を出すと、なるほどとレパントが頷く。
「テッド殿はシグール殿の親友。共に学んでいるならば知識は豊富にあるだろう」
「そうだな、テッド君は様々なことをよく知っていたし」
「待ってテオ様! 俺が詳しいのはサバイバルだけで!」
「確かにそうですね、三百年の生を存えているのならば、見た目通り少年のように扱うのは失礼というもの」
「うむ、私も異論はない」
「私も文句ないわ、テッドの(ツッコミとしての)凄さは知ってるし!」
「私も異論はありません」
「うむ……」
ミルイヒとクワンダもあっさり同意し、オデッサとサンチェスとハンフリーにまで頷かれた。
それにしても実年齢三百歳(本当は五百歳だけど)の話が回るの早いなオイ!
「ぎゃあああ幹部の全員に同意されたぁああああ」
のた打ち回ったテッドを、ただ一人が庇ってくれた。
「待て! 三百歳だろうがこんなガキに任せるわけにはいかない!」
「フリックありがとう!」
「感謝するな!」
だきっと青いマントに抱きつくと顔を真っ赤にして振りほどかれたが、ここはフリックに頑張ってもらわないと!
頼んだフリック! 頼んだ青雷! 頼んだ天暗星! ……あれ、不安になってきた。
「わかった。じゃあちょっと一騎打ちしてよ」
「「ええ!?」」
シグールの「ちょっとお茶にしようか」的な宣言の……いやあいつ今確かに問題台詞の後に繋げて言ったぞ!?
「じゃあ僕らはお茶してるから、君達一騎打ちして決めて。テッドが勝ったらフリックは文句言わないこと。いいね?」
「いいね、って……」
たじろいだフリックがテッドを見下ろし、テッドはぶんぶんぶんと首を横に振る。
無限回復のテッド@真持ちで人間なんて残念ながらとっくにやめました対普通の青い一般人フリックなんて、後者に対するいじめでしかない。
「そ、そんなのやめろよシグール! 勝敗は明らかだろ!?」
「手ぇ抜いたら今から斥侯として潜入任務を課すけど」
「それでいいから!」
思わず売り言葉に買い言葉で返してしまったが、テッドは己の迂闊さに気付いてハッとなる。
シグールの言う「斥侯」が真っ当な斥侯であるはずがあるだろうか、いやない。
しかも「潜入任務」って……なんだそれ。
「じゃあテッドに命令。今からウィンディにとっ捕まってくれない? それでシークの谷で会いましょう♪」
「!?」
予想通りといえば予想通りだが、思ったよりだいぶ斜め上の提案にテッドは開いた口がどうにも塞がらない。
おかしいな、視界が霞んでるよじいちゃん。
「シグール殿、正気ですか?」
クワンダの問いに、シグール真顔で頷く。
「正気。ウィンディの目標は僕の紋章だ。テッドが洗脳されたふりをすれば、テッドを使って僕に勝てると思い込んでのこのこ出てくるだろうね」
「のこのこ出てこさせたいのですか?」
マッシュの質問にシグールは笑顔で答えた。
「やりたいことがあるんだ!」
「わかりました。ではテッド殿、お願いできますか?」
「お前はもうちょっとノーと言え軍師!」
正当にキれたはずのテッドだったが、なんだか逆ギレになった気もしてきて、結局承諾した。
もう突っ込まなくてもいいし、振り回されなくてもいい。
モンスターを狩りに行かなくてもいい。
いい休暇だと思おうじゃないか。
テッドが以前読んだ歴史書や英雄譚が正しいのならば、シグールはこの後竜洞騎士団との協力関係を取り付ける過程でシークの谷にやってくる。
……休暇短っ!!
「わかった、行ってくる」
「ソウルイーターは持ってないことにしてね、めんどくさくなるから」
「りょーかい」
んじゃあなと手を振って、テッドは短い無給休暇へと旅立った。
……やっぱ無給か。
テッドを爽やかに送り出して、軍議は再会される。
まあ実際は、ビクトールの不在については問題ないんだよねとシグールが言い放ったので、フリックの渾身のツッコミ以外は異論もなかった。
いい幹部達だ。
「……と、いうわけで西方にある竜洞騎士団を味方につけたいと思います」
「竜洞騎士団長ヨシュアとは旧知の仲だ。味方につけるつもりなら同行するが……」
「じゃあお願いするよハンフリー。メンバーは……ああ、そういえばあいつがいたな……」
ブツブツと呟いていたシグールは、視線を上げると指を折りながら名前を並べだす。
「ここはあえて固めてみるか。オデッサと父さんとクワンダとミルイヒで」
「わ、私かね」
「異論はないが……なにをする気なんだ、シグール」
「まあ楽しみにしててみんな。それじゃあ行ってくるね、留守中はよろしく。なにかあったらレパント、マッシュ、サンチェス、頼んだよ」
「「はい」」
いざという時に指揮を取れそうなメンバーを指名して、シグールは両手を叩く。
「じゃあ準備に取りかかって……あ、そうだ。サンチェス、ルックとアンジーとシーナ呼んできてくれる? フリックも残って」
「はい」
「……なにをさせるんだ?」
フリックが眉間に皺を寄せて問うと、シグールはにっこりと笑った。
「現場にはフリックもいさせてあげるから安心して」
「……は?」
「楽しみだなあ……僕の長年の夢がとうとう叶うよ……ふふふふふ」
楽しそうに笑ったシグールはぱっとオデッサを振り返って、「もちろんオデッサも一緒に行こうね!」ときらきらした目で言ったのでオデッサも笑顔を返す。
「……最近俺は色々怖いデス」
端っこの方でフリックが虚空に向かって呟いている姿は、やっぱりチャーミングだと思う。
***
しばらくテッドは離脱します。