威勢よく宣言して勢い指まで突きつけたテッドに、ウィンディはわけが分からないという顔をしていたが、先制攻撃でテッドは詠唱破棄で裁きを出した。
死神の鎌を突き立てられたウィンディが驚愕に目を見開くのと同時に、ルックの風魔法が彼女を襲う。
「っ……」
少し掠ったのだろう、顔を顰めて肩を押さえたウィンディは、忌々しげな顔でテッドを睨む。
「あんた……その紋章は!」
「生と死の紋章、お前がほしがってるソウルイーターだ!」
「じゃああんたに言うわ。それをお渡し」
「もちろん断わる」
笑顔でテッドは言い放つと、ステップを踏んでウィンディの顔面めがけて蹴りを放つ。
「クッ」
「俺はお前を! お前に!」
叫んだテッドの拳が彼女の脇腹に突き刺さり、呻き声をあげたウィンディは倒れる。
彼女の上げた手をルックの足が踏みにじった。
「召還はナシ、卑怯でしょ」
「くっ……」
倒れたウィンディが小声で何かを呟くと、二人の体に雷が落ちる。
「効かないね」
「同じく」
にやりと笑った二人の目減りした体力はすぐに回復し、ウィンディはまたも驚愕に彩られた表情になった。
「俺はお前に、言いたいことがあったんだ」
低い声でテッドは呟くと、ウィンディの頤に指を当てて、彼女の顔を上向かせる。
「俺の村を焼いて、俺の祖父を奪って。その後も俺の生活を見つけるたびに奪っていったお前に、言いたいことがあったんだ」
「……あんた……何者……?」
眇めたテッドの目を見ながら、ルックはシグールに言われた事を思い出す。
作戦が決まってから、はたしてテッドを対ウィンディのカードとして使っていいのか、というルックの質問に、シグールは笑って答えた。
「嫌だなあルック、ここにおいて、僕らは三百年……僕達三人にいたっては実質五百年先の人間だよ?」
だからなんだ、とルックが聞くと、シグールは続きを教えてくれたのだけど。
「あったんだが…………忘れた」
「はあ?」
「…………シグール、あんたホントに自分の相棒のコトわかってるよ……」
脱力して呟いたルックの声は聞こえなかったようで、テッドはウィンディから手を離すと、なんだったかねーと肩を竦める。
「俺、あんまり嫌なこと覚えてない性分なんだ。この二百年は楽しいことしかなかったし」
「僕は欝になることもあったけどね」
「だから、何百年もハルモニアを恨んで生きるお前を、ちょっとは可哀相に思う」
「妹の方はトップとお茶飲んでるしね」
「……な、なにを……」
口をはくはくさせていたウィンディににやりと笑って、テッドは拳を構えなおす。
「んじゃあもうちょっと戦ろうぜ?」
「今度は僕も協力するよ」
ルックは口の中で詠唱し、方向性を持たせて発した竜巻がウィンディの体を切裂く。
もちろんその殆どは彼女の防壁に阻まれたが、間髪いれずにテッドの拳が彼女の真横の空間を抉る。
「っ!」
「おらおらぁっ! 術使いも体鍛えろよな!」
「あんたは反則だけどね……」
ルックのツッコミが入ったが、たぶんテッドには聞こえていない。
「テッド! 加勢に来たぜ!!」
ビクトールの一言と同時に、シーナの一閃がウィンディの足元をすくおうとする。
「キャッ……」
「私達も来たわよ!!」
その声と同時にテッドは撤退し、突っ込もうとしていたビクトールの襟首をルックが引っ掴んで無理矢理下げた。
「喰らえウィンディ、――裁き!!」
「ええ!?」
悲鳴を上げたウィンディの体は、またも死神の鎌がさっくりと刺さった。
「な……な……な!?」
「こんにちはー」
ひらひらと片手を振ったシグールは、テッドの横に降り立って、くるくると棍を回す。
「俺ら」
「ソウルイーターs!」
「……やっぱハズくねぇかこのネーミングは」
「いいじゃん、ウィンディのビックリした顔見れたし……あの女に裁きを叩きつけるのが僕の夢だったのさ……ふふふふ」
にたぁりと笑ったシグールの前で、オデッサやシーナやビクトールやルックは追加攻撃をしている。
明らかに消耗してきたのだろう、終に膝をついたウィンディにオデッサの矢が突き刺さる。
「あ……ぐっ」
「俺は村を出るが――また会おうぜウィンディ♪」
テッドがにやりと笑って、シグールと共にソウルーターに魔力を練りだすと、真っ青になった彼女はその場から消えた。
「ふう……撤退したか」
「みたいだね」
あれだけ痛めつけられいれば回復に時間は要するだろうし、しばらく手を出そうとは思わないだろう。
「結局テッドが追われる未来は一緒だけどね」
「そりゃしゃーねぇよ。村が全滅しなくてよかった」
うーんと背伸びして、ぼきぼきと背骨を鳴らすテッドの横で、でもねぇーとシグールはちょっぴり不満そうに呟いた。
「実は家とかが焼けて住民がいなくならないと手に入らないアイテムがあったりするんだよねー……」
「大人しく頼んだらくれるから!!」
余計なこと考えないでくれ! とテッドはシグールの肩をがしがし揺さぶって。
そんなわけで一件は落着した。
たぶん。
***
テッドはシグールと会えたからウィンディと再会してもこう言えるわけで。
たぶん、会えないままだったら、ウィンディと近い状態になっていてもおかしくなかったと思うのです。