「なんですか貴方達は……」
呆れた面持ちのネクロードの相手は、まさかのシグールとオデッサだった。
きっと彼も未来の知識があったなら、泣いて詫びてる相手だろうに。
「さあネクロード、ちょっと僕らと遊んでもらおうか」
「別に構いませんが、あなたたちのような矮小な人間など遊ぶに足りませんよ。ほら、どうですか」
「効かないわ」
ネクロードの一撃をモロに受けたものの、オデッサは彼の腕に矢を放つ。
「こんな攻撃など効きません。あなたの美しさは惜しいですが、次でしとめて――!?」
そこまで自信満々に薄笑いまで浮かべて言ったのに、明らかにネクロードの顔色が変わる。
ネクロードの一撃を受けたオデッサの腕には血が滲んでいたはずだ。
だがその傷は見る見るうちに癒え、血もとっくに止まっている。
「こ、これは……」
「残念だったね、ネクロード♪」
背後に回りこんだシグールが、棍を高く振り上げる。
「君にはどうせ物理攻撃は効かないのはわかってるけど。君も僕らを倒せないよ♪」
「こ、これは……いったい……」
「精々嬲って楽しんであげるわ☆」
オデッサが笑顔で言うのと同時に、シグールの強い一撃でネクロードはぶっとばされる。
幾ら不死の身だとはいえ、物理学をそこまで無視できないという事だろう。
「な……な、な……」
苦し紛れに放たれた攻撃は確かにシグールとオデッサを傷つけたが、すぐに二人はけろっとした顔で体力満タンになっている。
「あ……貴方達はゾンビですか!」
「「お前には言われたくない」」
ゴツンと双方の拳骨を喰らい地面に頭を叩きつけられたネクロードの背後で、くすりと笑みを含めた可愛らしい口調でシグールが言った。
「それに楽しい話もあるんだよねオデッサ」
「そうねシグール。蒼き月の村に入ったとき、周りが美形だらけで落ち込んだとかね」
「!?」
立ち上がろうとしていたネクロードが、驚愕なのかなんなのか。
形容しがたい人相になって、這い蹲ったままフリーズする。
そこへオデッサの矢が突き刺さった。
「そもそも森で行き倒れたのは、なんだっけ」
「嫁に逃げられ娘に嫌われ」
「パパのパンツと一緒に洗濯しないで! と言われ」
「嫁に逃げられた後にアタックした人には「ついていけない」と断わられ」
「ああ可哀相なネクロード」
けらけら笑った二名はその都度攻撃を打ち込んでいる。
本来物理攻撃が効かないはずのネクロードは、だんだんガタガタ震えだした。
当時を思い出したのかもしれない。
一方的な虐めに見えるが、敵の体力は全然減ってないので、「果敢にも吸血鬼に戦いを挑んでいる哀れな人間達」の構図である。
「そのうち嫁さんが再婚して」
「再婚先は幼い頃からの親友」
「娘も「パパよりあの人がいい!」と再婚した家庭に入ってしまい」
「どうせ上手くいかないと思っていたらなぜか非常に上手くいき」
「酒が進みすぎてアル中になり」
「仕事もなくし」
「家もなくし」
「そうこうするうちに娘は金持ちの家に嫁に行き」
「結婚式には呼んでもらえず」
「町ですれ違ってもしらんぷりをされ」
「やめてくれぇえええええええええええええええええ」
さすがですシエラ様、情報提供ありがとうございます。
とはいえ後半はシグール達によるその場の口からでまかせだったりするのだが、頭を抱えて絶叫しているあたり、これは真実のようだ。
事実は小説より奇なりって本当なんだと思いながら、シグール達はさらに続ける。
「もう死にたくなったけれども」
「首吊りに失敗し、毒を煽ったけど毒じゃなくてただの水」
「何とか自殺未遂はできたものの」
「死体になったら引き取るのが面倒だと元嫁に言われ」
「森の奥に分け入って死のうと思ったら」
「うっかり蒼き月の村に迷い込んで行き倒れ」
「死体になったらたまらないからってだけの理由で」
「しょうがないとシエラに吸血鬼にしてもらったものの」
「彼女の趣味で固められた村は美男美女そろいで」
「思いっきり惨めになったと」
「うわぁぁぁぁああああああああああああああああああ」
どうやら人間(じゃもうないけど)痛い忘れたい過去を他人から客観的に語られると、悲鳴しか出ないらしい。
たとえ齢が百歳ほどになっていてもそうなのだから、人とは面白いものだ。
「そんな村に当然居場所などなく」
「死にたくても死ねなくて」
「やめてくれなんでもするからやめてくれぇええええええええ」
「「じゃあ大人しく殴られろ」」
笑顔できっぱりはっきり言い切った二名にバカスカと殴られて、ボッロボロに(精神的に)なったネクロードは、その場に打ち伏してピクピクと震えているだけだった。
「ふう、一仕事ご苦労様オデッサ」
「悪者を成敗した後は気持ちがいいわね」
きらきらと汗を拭いながら、爽やかな会話をしてその場を去っていく二名。
もしそこにユーバーとかがいたら「ドンマイだ」とお互いの心の傷を分かち合えたかもしれないが、残念ながらネクロードは一人だった。
***
もちろんネクロードの過去はデタラメ。