さて、テンガアールが(シグールの)予定通り誘拐されたので、(RPGの)お約束通り取戻しに行く事になった。

余談だが戦国時代の日本ではこういうのは「略奪婚」としてアリだったらしいが、ネクロードはどこも和風ではないし戦国でもないし、まあそもそもヒトじゃないのでその辺の権利を主張することはできない。
ネクロードイベントは幻想水滸伝の本筋からはややそれ気味のイベントであり、彼はどう足掻いても精々が「印象的な途中のボス」にしかなれず、彼に許されたのはたくましく悪役を演じて潔く散る事だけである。
可哀相に。

まあ安心しろネクロード、今回は確実にもう一人――可哀相な人がいる。



「そんなわけで、ネクロードに対抗できる武器を取りに行こうと思います」
(本物の)シグールの鶴の一声で、一行はクロン寺へと向かう。
なおネクロードとは会いたくないと散々ボヤいていたルックが、なぜか昼の出発時刻になったら現れていたので、シグールはこれ幸いと一度本拠地に戻ってさくさくっとパーティを微妙に入れ替えている。

クロン寺についた一行はさっさと案内してもらって、過去の洞窟へと足を踏み入れた。
「……シグール、なんだここ」
きょろきょろと左右を見回しているテッドに、ルックが足元注意だよと突っ込む。
「確かに妙な気配の洞窟だよな……なんっつーかこう、ゾワっとするってーか」
最後尾で左右を見回しているシーナの横で、陰気臭いなあとビクトールが鼻を鳴らした。
「洞窟は陰気なものだけど……なにか違う空気を感じるわね」
オデッサの言葉にシグールは曖昧な相槌を打って、一行は奥へ奥へと進んでいく。

今までと比べるとかなり深いダンジョンだったが、所詮化物ステータスをゲットしていた一行の敵ではない(もうシグールとテッドとルックとシーナとオデッサがチート)ので、ぎったばったと敵を薙ぎ倒して、すべての財宝は掘り返して、最深部へと到着した。



「おっ、こいつのことだな」
ビクトールがそう言いながら駆け寄った。
シグールも剣に向かってずんずんと近づいていく。
「シグール!」
シーナの声にかぶさって、重厚な「声」がその場に響いた。

『私の眠りを覚ます者、その呪いを受けるがよい』

星辰剣を中心に闇が広がり――シグールは静かに目を閉じた。
足元まで闇に飲み込まれる前に、一言捨て台詞は忘れなかったけれど。

「自分が誰を飛ばしたかくらいよく見ておきなよ星辰剣」

その瞬間星辰剣のない顔が引き攣ったかどうかは、誰もそこに残っていなかったので分からなかった。
ただ一つ、確定している事がある。



あいつは自力で、動けない。







「っつ〜……」
一行が投げ出されたのは草の上だった。
柔らかい芝が多少は痛みを軽減してくれたらしく、まあ元々丈夫さがウリの連中なのでビクトールに悪態を吐きながら立ち上がる程度で済む。

ビクトールやオデッサ、シーナはキョロキョロしていたが、シグールとルックは来たことがあるのだろう、それほど動揺はしていない。
動揺はせず視線はまっすぐ……なんで俺に向いてるんだ?

テッドは不気味なものを感じて左右を見回し、その場にひっくり返った。
「お、お兄ちゃんだいじょうぶ!?」
物陰から飛び出してきたのは、年の頃は……………………………………もういい。

「なんだここは!!」
絶叫したテッドはある意味もっとも適切な反応だった。
しかしその大声に、駆け寄ってきた子供はびくっと体を震わせて後ずさる。
「ああ、ごめんね驚かせて。君はこの村の子?」
シグールが怯える子供にさっと飴を取り出して、膝を折って視線を合わせる。
子供はしばらくシグールを見ていたが、警戒を解いて飴を受け取った。
「うん。お兄ちゃんたちが、たからものを取りにきたひとなの?」
「違うよ」
「そうかぁ、やっぱりちがうんだね、よかった」
嬉しそうに笑った子供は――



「あぁあああやめてくれ気持ち悪い!」
「テッド、お前気分悪いのか?」
シーナが心配して背中をさすってくれたが、そういう意味じゃない!
なんだここは! なんですかこれは!
「お兄ちゃんもテッドって言うの?」
シグールの飴を舐めながら寄って来た子供を見たくなくて、テッドは目を閉じようとする。
閉じようとするけど、できなくて、膝をついたまま子供を見た。

「ぼくも、テッドっていうの! おなじだね!」
「あ、ああ……」
力なく笑ったテッドと、子供(テッド)を交互に見て。

「え」
「え」
「なに、どゆこと?」
事情がわかっていない三人は目をぱちくりとさせ。

「ダブルテッドv 僕の夢〜♪」
「これがこうなるのか……」
事情を知っている二人はそれぞれ別々の感想を抱き。

「かみも同じ色だね! おそろい!」
「………………強く生きろよ少年……」
無邪気な子供の将来の姿はがくりと項垂れて、子供の肩に手を置いた。


 


***
夢ですか?
夢でした!

ダブルテッド。