辿り着いたロリマーの城塞は何かがおかしかった。
一度シグールの指示で軍は停止し、カスミが中を探りに行く。
「ロリマー地方か、久しぶりだ……」
郷愁に浸っているであろうフリックのセリフに、横から三人連続で容赦ないツッコミが降ってくる。
「それは「何かあったの?」って聞いてほしいの?」
「思わせぶりなコト言うのはやめておけフリック、ケツが青いままじゃかっこ悪ぃ」
「バレてるしね……」
「お、お、お前らなんだ言うに事欠いて!!」
真っ赤になったフリックを知らん振りしながら、三人はこそこそと話し合う。
「この展開……どうせネクロードだろ」
「あ、知ってた? まあ僕は今思い出したけどね!」
「どんだけ印象薄いんだ」
「いやあ、セノの時の方がいろんな意味で印象的でね……」
「僕は行かないよ、あいつとは趣味が合わないんだ」
モンスターも気持ち悪いし、と呟いたルックは前回ここで瀕死になった覚えがあるのだろう。
「シグール様、中はもぬけの空です。帝国兵の姿は見当たりません」
「どういうことだ? 調べてみようぜ」
戻ってきたカスミの報告を聞いて乗り気のビクトールにシグールは肩を竦めて、何人かに声をかけるとマッシュのところへ行く。
「マッシュ、中の様子を見てくる。軍は……要らないと思うから戻しちゃって」
「まあここまで新しく編成した軍の動かし方を見れたというので、十分な収穫ですね。それではご武運を」
「大丈夫、今回は相手がギャグだから」
いくよーとシグールに声をかけられたのは、ビクトールにオデッサ、フリックにもちろんテッド。
元々ヒックスが入るのは予定通りなので、五人パーティで問題ない。
ロリマー城塞の中は――予想通り、墓が暴かれていた。
「ああこれこれ、思い出した。フリックー」
先頭を行くフリックを捕まえて、シグールは笑顔で親指を立てる。
「戦士の村まで案内して♪」
「…………」
黙りこくったフリックの耳に口を寄せて、こそっと囁く。
「剣の名前がオデッサ+なことに関して、僕は守秘義務を持たないと思うんだけど」
「てめっ……」
「あーんなーいv」
んね♪ とお願いするとなんだか額に青白い縦線が入った状態でのろのろと動き出す。
これからフリック「で」たくさん遊ぶ予定なのに、最初からこれではこの先が思いやられるというものだ。
「そういやお前、微妙に荷物多いな」
横に並んだテッド(今回は前衛が多いので後衛に復活)に尋ねられて、そうなんだよねーとにんまり笑う。
「ビクトールとかに持たせてないってことは、悪巧み用だろ?」
「ご明察。まあ半分は必要悪なんだけどネ」
「必要悪?」
首を傾げたテッドに作戦というか何を持ってきたのかを説明すると、思いっきり笑ったのでどうやらウケたようだ。
「あれ、じゃあ俺は?」
「テッドは隠れてて。ネクロードと下手に面識あるでしょ、バレたら面倒」
「確かに」
バレねぇとは思うけどなあと呟いた彼に、紋章の気配を察する可能性もあるからさあと言うと、確かに、と頷かれた。
「でも本番では殴れるんだよな」
「いいよ」
「復活した後はもう完全に退治された後だったからな……」
「まあセノの時にシエラ様が本気出しちゃったからね」
今ここにシエラとカーンが来てくれればその後の悲劇はないだろうが、そうは上手く行かないだろう。
となるとシグール達がやれる事はただ一つだ。
「おい、あそこが戦士の村だぞ」
「フリック、お願いがあるんだけど☆」
ずずいとにじり寄ると、フリックはまた額に青筋を浮かべて後ずさる。
別に取って喰いなんかしないのに、失礼な。
「これ付けて、この上着羽織って」
「は……は!? おいこの服にバンダナは!」
「あっはっは、赤い服に緑のバンダナを取れば僕は一般人Aだからな! ゾラックのおっさんのクソ長い話は任せた! 今から君の偽名は「シグール」だ!」
「待てぇええええええ!!」
絶叫したフリックのフォローはテッドに押し付けて、シグールはうし! と気合を入れると。
「ムースゥうううううううううううううううううううう!! 武器レベル十五キタぁああああああああ!!」
戦士の村に向かって一気にダッシュし、一応敷居を跨いだら即座に瞬きの鏡を使用して本拠地に戻り、マミモースの三人をパーティに加えてさっさと彼を仲間にし。
本拠地にいる仲間の武器を鍛えられるだけ鍛えると、こっそり戦士の村に戻ってオデッサとテッドを本拠地に連れて帰って改めて彼らの武器を鍛え上げ。
一仕事終えた顔で戦士の村に戻ってくると、ゾラックの屋敷の客間にいたビクトールになんだか微妙な表情を向けられた。
「おいシグール……フリックが魂抜けてんぞ」
「むしろ気付かれないことに僕は驚いたけどね」
フリックってここ出身じゃなかったんかい、と突っ込んで緑のバンダナと赤の上着を回収……しない。
むしろ本命イベントはここからだ。
「ビクトール、悪いけどフリックは明日の朝まで僕ね」
「シグールはどうするんだ?」
「僕はテッドとちょいと隠れて陰からネクロードを窺うよ」
「わかった」
俺はアイツを倒せればなんでもいい、と頷いたビクトールの後ろで、オデッサがこっそり尋ねる。
「戦わないの?」
「明日の朝のは強制負けイベントだから戦わなくていいよ。ボコされたくなかったら朝はここから出ないで隠れてて」
「ああ、なるほど。その回復力と防御力じゃあ、ネクロードに倒してもらえないのね?」
「そ。気絶したふりはできないし、ここはおとなしく仕様に従っておかないと」
バンダナと服で僕って認識されるみたいだし、と言いながらシグールはううーんと大きく伸びをする。
「じゃあ、今晩は寝ようか。おやすみ」
「おやすみー」
ちなみに翌日、ネクロードにボコられたのはフリックとビクトールと――ヒックスだった。
素直な彼らに幸あれ。