「それじゃあちょっくら城を落としてくるね☆」
シグール様の綺麗な笑顔の隣には、イイ笑顔のオデッサもいたので、もう止めようとか誰も思わない。
ので解放軍はいつものように雄叫びをあげた。
「今回はリュウカンの調合してくれた薬があるし、ちょちょいのちょいだね」
笑顔で特攻していくシグールの左右を固めるのはテッドとオデッサで、それがもう見慣れた光景になっていたが、今回は珍しくそれがテッドとビクトールだった(まあ結果は同じである)。
あまりに軍主のいる主力陣営が強いので、左右の隊は補佐に専念できる。
その強さは、戦争の風景を見ていると一目瞭然であった。
こんな感じである。
軍主 対 弓 ……軍主の勝ち
軍主 対 魔法……軍主の勝ち
軍主 対 突撃……軍主の勝ち
参考……軍主隊はなぜか複数回行動が可能。
これが帝国最強との噂のある対鉄甲騎馬隊でも結果は変わらないに一万ポッチ賭けてもいい。
仲間達は心底そう思った。
「システムどこ行った!!」
「こんなに戦争をリアルに肌で感じてなにがシステムさ!」
「あぁああああ、Vの戦争より面倒なんじゃねーか!?」
「あっはっはっは、全部の隊を指揮しなくていいんだからはるかに楽でしょ。僕の隊が事実上無敵だし」
軽口をたたきながら、今度は解放軍が圧勝した。
負傷者や捕虜の処置を手早く指示しながら、シグールは五人を呼び集める。
「一緒にきてもらうのは、グレミオ、ビクトール、クレオ……あとテドルク」
「まとめるな!!」
「じゃあルクテド」
「それもイヤだ!!」
「ならツンデレ天間組」
「あんた、僕らをなんだと思ってるの?」
「戦闘力に一抹の不安がある仲間を連れていく時の用心棒」
「…………」
無言になったテッドとルックも引き連れて、シグールはるんたったとスカーレティシア城の中へ入っていく。
城の中はさほど迷うようなものでもなく、カシオスとイワノフはどうせ仲間にできないから素通りする。
かわりに、というわけではないが部屋という部屋を荒しまわり隅々まで調べつくし、窃盗の一歩手前というか窃盗をしつくした一同は――一枚の絵の前に立っていた。
絵はミルイヒの肖像画なのだが、ここに何かがあるのだろうか、と疑問に思った一同の前で、シグールは斧を持って前衛に復帰していたグレミオの肩をぽんと叩いた。
「グレミオ」
「はい、坊ちゃん?」
「この絵を、壊してもらえるかな」
なんて事言うんだこの人は、と一同は視線を送ったが、グレミオは頷いて斧を振りあげ。
メキョ
バリバリバリ
「ほうら。階段発見! やっぱりミルイヒの肖像画とか褒めたくなかったんだよね!!」
喜々とした声を上げ、シグールは階段をかけあがっていく。
二百年も経てば流行が追いつくかと思ったが、ミルイヒの前衛的すぎる絵は今でも褒める事などできなかった。
おそるべしナルシー達。彼らのセンスに流行が追いつくのにあと何百年かかることやら。
結果として、ミルイヒはシグールの指示で見事な簀巻きにされ、一同の足下に転がされていた。
一応五将軍の一人なのだが、そこを誰かが突っ込める空気でもない。
ブラックルーンを焙って取り外してからミルイヒを仲間に引き入れ、シグール達が本拠地へと引き返すと、たった一つの知らせで軍は浮き足立っていた。
テオ=マクドール率いる軍がこちらへ向かっている、という知らせである。
「ついにこの日が来たか……」
「俺は、テオ様と戦うことになるのか……」
暗い顔をしている家人の間をすり抜けて、シグールはマッシュに駆け寄る。
「マッシュ!」
「はい。オデッサとフリックがたった今到着しました」
「間に合ったな! 持たせられるだけ全軍に持たせろ!!」
叫んだマッシュの横に立ち、軍を眺めながらシグールは叫ぶ。
「ここで決めるぞ!」
「「おお〜!!」」
盛り上がっている一団を前にしながら、端っこの方でルックとテッドはこそこそ話し合っていた。
「おかしくね? たしか一度負けて撤退して……殿をパーンが務めるんだよな」
「今回は碌にレベルあげてないし、そこは無視するんじゃない?」
「でも勝てなかったから撤退したんじゃあ……」
「火炎槍よ」
二人の後ろから響いた声に、そろって振り返った。
ちょっとボロくなったオデッサとぼっろぼろりんになったフリックがそこにいた。
「別動隊を率いて取りに行ってたの。全軍が使用すれば、テオ将軍の鉄甲騎馬隊にだって勝ち目は十分あるわ」
「だから先日の争いにいなかったのか」
「ああ、Uでの威力はチートだったしね」
ボソっと呟いたルックは無視して、オデッサは二人の近くに腰を下ろす。
「楽しみね」
「たのしみ……?」
「シグールが父親とどんな会話を交わして、なにをするか楽しみじゃないの?」
きょとんとした顔で問いかけられて、テッドは真っ青になって首を左右に振った。
「冗談。俺は今からテオ様に心の中で謝るので忙しい」
「……ほっといてあげてよ、僕らにとってシグールって悪魔とか理不尽とかの代名詞だから」
ルックの心優しいフォローに、あらあらとオデッサはにんまりした笑顔になると。
「いーいつけっちゃお♪」
「「悪魔だ!?」」
テッドとルックのユニゾンの絶叫は、すぐにもう一回、黒い笑顔を浮かべたシグールの前で響く事になる。
***
お次はテオ様。