「……ええと、とりあえず、その……」
「話があるんだよねフリック」
ねえ、とシグールが微笑むと、フリックはかくかくと頷く。
盛大なる仕掛けの上に無事成功した『フリックドッキリ大☆作☆戦』の後、いまいちフリックがビクついているのは、作戦中にオデッサを「幽霊」呼ばわりしてしまったからだろうか。
尚、フリックはカクまでシグールに足を運ばせた事への謝罪として、後にフンドシ一丁でトラン湖にダイブさせられる事になっている。
「その、だな……」
「ハイじゃあまとめます」
まだ「その」しか言っていないフリックが目を白黒させると、横にいたオデッサが楽しそうに笑う。
今後ずっとこの風景を見るのか。
「フリック達はミルイヒ=オッペンハイマーの納める西方地域にいたんだって。突然帝国の反乱分子狩りが激しくなって、大勢捕まったらしいんだ」
「な、なんでお前がそんなことを」
「やだなあフリック、君がカクでスねてても、世界は動いていくんだよ?」
がくりと首を落としたフリックの横で、オデッサがにこにこしている。
「マッシュ」
「はい」
「ガランの要塞はどうかな」
「はい、もうこちらの統治に入りました」
「なんだって!?」
叫んでフリックががばっと顔を上げる。
「ちょ……なんで、いつのまに!」
「君がカクでスねてても以下略。持ってきてくれた軍勢は有効活用したよありがとう。さて……」
「じゃ、じゃあスカーレティシアにも」
ふむ、とシグールは考え込む素振りを見せる。
『フリックドッキリ大☆作☆戦』の決行前に、戻ってきたオデッサを加えて極秘幹部会議があった。
軍の補給などを仕切っているはずのサンチェスなどが参加していない奇妙な秘密軍議だったが、テッドはどうしてそうなのかを知っていたので何も言わない。
幹部会議と言っても「好き勝手やっている中心人物」の意味であって、隊を率いている人というわけでは……いや何人かはそうなんだが。
以下回想。
「ルック、集まったのは何人?」
「えーっと、四十一人。次はジャバだね」
「取りこぼしはないよね。えーっとシーナ、情報どう?」
「グレッグミンスターのあたりは結構静かだなぁ、反乱分子が各地で火花散らしてるから取り込めればいいんじゃねーの。ああ、あと……」
「テオ将軍が北方を離れたんでしょ、わかってる。ビクトール、僕の言ったとおりだった?」
「あ、ああ……一人で敵地に行けって言われたときは、何事かと思ったが。お前の言ったとおりだったな」
「りょーかい。クレオ、悪いけど準備してくれた?」
「はい、坊ちゃん。昨晩実験もしましたが、確実に半日は眠りこけると思います」
「じゃあそれは問題なしだね。マッシュ、ガランの周辺に変わりはないね」
「はい、特に変化はありません」
「ミルイヒの動きはないか……テッドは?」
「……主力メンバー全員、俺の限界まで鍛えましたとも、お坊っちゃん」
「じゃあいいね。オデッサ、湖は?」
「帝国がどうこうしようって感じはないし、むしろ帝国の運搬量は減ってるみたい。そういえばおもしろい噂を聞いたの」
「なに?」
オデッサは足を組んで、腕も組む。
「「あの」レオンがカレッカにいるみたいなんだけど、兄さんどうする?」
「……レオンですか……」
「折りを見てひっ捕らえてこい」
きぱりと言い切ったシグールを、兄妹が怪訝そうな顔で振り向いた。
「僕はあいつのこと好きじゃないし、許してもない。かといって必要なのはわかってるから軍には加える。それだけだ。ねえルック」
「まあね」
顔を見合わせた真持ち二名のやり取りで、レオンについての会話は終了となった。
「にしても……オデッサ、フリックの奴、かなり落ち込むんじゃないのか」
「そうね」
「……やっぱり、ドッキリなんて止めて」
「嫌よ! 私はうろたえて墓穴掘ってミスして事態をさらに悪化させて泥沼にはまるフリックを見たいの!」
「……あんた、それさえなければ美人なのにな」
ビクトールの溜息に、「まあ失礼ね」とオデッサはいつの間にやら手にしていた酒杯を掲げる。
「私はいつでも美人よ♪」
「……マッシュ、今まで遠慮して言わないようにしてたんだが、あんたの妹はやっぱりおかしいぜ」
「そうですねえ」
書類をとんとんと整えながら、マッシュはにこやかに(いつも目は細められているので微妙だが)返す。
「シルバーバーグの女性はだいたいおかしいですけどね」
「そうなの?」
口を挟んだシグールに、そうですよとマッシュは平然と返した。
相変わらず図太い神経をしている。
シグール達はオデッサの反応が怖くて仕方がないというのに。
「うちは軍師家系で、幼少時代から男女関係なく軍師の知識を叩き込まれますから、可愛気や常識をなくしてしまうんですよ」
「……やっぱり怖いねシルバーバーグ」
「オデッサも黙っていればそれなりに美人なんですけどね。口はこの通りだし性格もこれだし、戦えばそこらの男より強いですから」
「失礼よ兄さん。料理も洗濯もできるようになったわ!」
「貴今は解放軍の一員などやっていますし、いつ嫁にいけるのやら……兄としては心配ですよ」
たぶん心配などちっともしていないだろうに、マッシュはいけしゃあしゃあと言い放つ。
シグールはことりと首を傾けた。
「マッシュのが先に結婚しなよ」
そのセリフにオデッサは顔を輝かせ、(多少は気にしていたのか)マッシュはやれやれという顔をし、ビクトールは一本取られたなと豪快に笑い、シーナは可愛い子紹介するぜーと親指を立てた。
***
『フリックドッキリ大☆作☆戦』の詳細はオフ本にて。