「城の名前はトラン城です」
一同を前にきぱりと笑顔で言い切ったシグールに、うぉおおおおいとツッコミが二方向からやってきた。
「それでいのか!? 本当にいいのか!?」
「あれだけクロスにからかわれて渋い顔してたのに、またそれ!?」
「うるさいね二人は。さてと……」
マッシュが口上を述べているのを流し聞いているシグールは、ざくりと今まで持ち上げていたスコップを傍らにつきたてる。
それを見て嫌な予感がしたルックは、眉をひそめた。
なぜスコップ?
確かにこの城は廃墟だったせいでそこかしこ修繕が必要だが、今必要か?
なんで解放軍の新リーダーがスコップ?
そう思っていると、ぶぉおんと音がして、これまた懐かしいものが突如デデーンと出現した。
約束の石版だ。
もたれかかって寝るのにちょうどい……なんでもない。
そして現れるのは今回ばかりは多少活躍するレックナート。
まさかスコップで殴りかかるとは思えないんだが、さっきからシグールの笑顔がすっごく深いのはなぜだろう。
「久しぶりですねシ……きゃああああああああああ!!」
「え」
思わずルックは目を擦った。
今、いきなり消えた。
確かにレックナートは自在に転移できるが、今のはそういうのじゃなかった。
ドスン
ガラガラカラ
響いた音に一同は騒然として、慌てて石版の横にぽっかりと開いた大穴から下を覗き込んだ。
「やあ、レックナート様♪」
笑顔で片手を挙げたシグールの横にあるスコップが何のために使われたのか理解して、ルックは思わず俯いた。
やばい笑いたい。
「な、なんてことしてくれ、るのですか……!」
「いやぁ、ちょっと実験。下には布団積み上げてたし、たいした距離もなかったし、そんなに痛くなかったでしょ」
「そ、れはそう、ですが……」
ショックは大きいだろう、声が震えている。
なんせ転移してきた瞬間に足元が崩れるのだ。
ルックが同じ事をやられたら、シグールを切裂くだけでは飽き足らない確信がある。
「まあ楽しみにしておいて。ルックと石版は責任を持って預かるし」
「そうしてください……私はもう当分来ませんから……ああ……腰が痛い……」
「あと僕好きに生きるから」
「……最初からそのつもりなのでしょう」
すすり泣きのような声を残してレックナートはその場から消えた。
ルックの記憶が正しければここで「自分の道を〜」とか「歴史が動いて〜」とか「仲間集めろ〜」みたいなのがあったはずなのだが、それもこれも一切なし。
まあいいか、本人は分かってるわけだし。
「シグール殿、器は手に入りました」
「続けるんだ!?」
テッドのツッコミが遠くから聞こえたが、マッシュは今のワンシーンはは完全に見なかった事にしたようだ。
そういえば死んだと思っていた(シグールが誤解をさせたままだった)オデッサとの再会でも、ちっとも驚いていなかった。結構神経が図太いらしい。軍師とはそういうものなのだろうか。
「コウアンの町にレパントという男がいます。私の紹介だといえば……」
「おっけー、任せといて。テッド、ルック、グレミオにオデッサ、行くよ」
さくさくっと指名されて、五人は連れ立ってトラン城から出た。
もちろん休息はなしだ
もちろん休息はなしだ。
グレミオとオデッサはカクで休んでいたからいいが、テッドとルックはうんざりするほど連続労働。
「シグール……ちったぁ休もうぜ」
「大丈夫、僕の時はフィールドを歩いても夜にはならないんだ」
「好き勝手やってるくせに、こんな所だけシステム優先!?」
「寝ない=夜が来ない=ずっと僕のターン!」
「違う!! それは絶対間違ってる!」
テッドの悲鳴をBGMに、一同はさくさくっと敵を蹴散らし(気付けばグレミオもそこそこ育っていた。どうやらオデッサと共にカクまでかなりの強行突破、もといオデッサの個人的なレベル上げに付き合わされたらしい)あっというまにコウアンに到着。
そこには立派なお屋敷がある。
後の大統領、レパントの屋敷だ。
シーナの野郎はセイカでぬくぬくしてるんだろうけど。ああ殴りたい。
ものすごく強行軍をしていたせいなのだろうか、町に入った瞬間日が暮れた。
「じゃあ皆、盗みに入ろうか♪」
くるっと振り返って笑顔で言いやがったシグールに、グレミオがよろっとよろけた。
正直同情を禁じえない反応である。
「ぼ、坊ちゃんなんてことを!」
「あ、いたいた。クーリンー」
笑顔でシグールが声をかけたのは………………………………ああ、泥棒共の一人か。
ルックが思い出すのに時間がかかっても、こっちの責任ではないだろう。
というか日が暮れたのは……。
「そうか……仕様か……」
「どうしたルック、黄昏てんぞ」
「いや……なんでもないよ……」
今からシグールは、レパントの愛刀キリンジを盗みに屋敷に入るのだろう。
だったら夜の方が都合がいいと。それだけの事か。
「なるほど、ようしわかった。協力してやる。ほらよ、行ってきな」
あっさりとロープが渡され、シグールはひょいひょいっとロープを上った
「じゃあ行くよ皆ー」
「……休みたい」
自棄気味に言ったテッドに内心同意して、ルックは面倒臭かったのでロープを飛び越えて屋根の上へ自分を転移させた。
ずるい? 別にずるくはない、こっちの方が体力もいらないし。
「ルーレットルーレット♪ 運の紋章片に経験値〜♪」
道行くシグールが不気味な曲を口ずさんでいるのが気になったが、なんか本能が記憶を呼び起こすのを拒んでいたので、聞こえなかった事にした。
***
レックナート様も記憶はあります。
というわけで出番これだけ……後半にあと1度だけあるかな?