Trick or treat.
Trick or treat.
I want something good to eat.
「Trick or treat!」
「……シグール」
寝ていたテッドを叩き起こして馬乗りになって上機嫌なシグールに、テッドは目を擦りながら声を絞り出す。
……今何時だと思ってるんだ。
明らかに夜半。
おそらく日付が変わったからどうかといったところだ。
そんな時間に起こされて、不機嫌にならないわけがない。
テッドの不機嫌さを全く意に介さず、シグール笑顔を顔に浮かべたまま手を差し出した。
「テーッド、お菓子は?」
「はぁ?」
「お菓子くれなきゃイタズラするぞ☆」
「…………」
「あれ、ハロウィン知ってたよね?」
首を傾げるシグールに溜息をつく。
ハロウィンくらいはテッドだって知っている。
万聖節の前夜祭で、もともとは秋の収穫を祝い悪霊を追い出す祭なのだが、今では仮装した子供が家を回って菓子をねだるイベントとなっている。
ただ、それは前夜祭であって、当日の真夜中過ぎにやることではない。
「お菓子くれないなら、イタズラ……」
「ほれ」
ベッド脇にかけておいた自分の服から飴を取り出して、口に放り込んでやる。
むぐ、と大き目の飴を頬張ったシグールは、器用に飴の入った反対側の頬を膨らませて抗議した。
「ずるいー、用意してた!」
「お前の思考回路なんざお見通しなんだよ」
さすがにこの真夜中からくるとは思わなかったが、多少フライングしてくるとは思ったので、予めお菓子を用意しておいたのだ。
……こいつにされるイタズラなんて怖くて想像したくもない。
してやったりと笑うテッドと反比例して、シグールの機嫌は急降下していく。
「せっかくイタズラしてやろうと思ったのに〜っ」
「あのなぁ……」
される方の身にもなってみろ、と言いかけて、テッドはふと思いついた。
「シグール」
「ん?」
「Trick or treat」
「……え」
「お菓子くれなきゃイタズラするぞ」
「え、えっ」
いきなり言い出したテッドに、シグールは目を瞬かせて、次いで慌てて自分の服を探る。
おそらく言われるなどとは思っていなかっただろうから、用意してあるはずもないし、他の人のところに真夜中に押しかけるわけにもいかないのでテッドからもらった飴以外の手持ちもなし。
そして唯一の菓子は現在自分の口の中。
「ないのか?」
「…………」
無言で逃げようとするシグールの腕を自分の手でがっちりと捕らえて、テッドは満面の笑みでもう一度問う。
「ないならイタズラ、だったよな?」
「……っ、そうだよ!」
何をされるのか戸惑いながら、半ばやけくそに答えたシグールに、テッドはくすくすと笑いを漏らしつつ襟元に手をかけた。
「テッドの変態」
「ひでぇなぁ」
頭上から降ってくる声に苦笑しつつ、テッドは脇腹を撫で上げる。
くすぐったいのか体を震わせるのを感じて、内股に指を滑り落とすと、緊張したように体を固くした。
服の前をはだけさせて、それでも完全には脱がされきっていない状況で、シグールは声を漏らすまいと耐えていた。
手は後ろで服の袖でまとめられていて身動きが取れない。
テッドの「イタズラ」がそういう意味だとは途中で気付いたけれども、半分脱がせてシグールを動けなくしてから一向に先に進もうとしない。
体をなぞったり口付けを落としたり甘噛みしたり、快感よりもくすぐったさが先にたつような刺激がほとんどで。
極たまに際どいところを触れてくる指が、その分もどかしくてたまらない。
思わずもっと、と言いたくなるのを我慢してシグールは赤味を帯びた目元を隠すように顔を逸らす。
「ほら、ちゃんと見てろって」
「……ほんっと意地悪い」
「へいへい」
顎を掴まれて元に戻される。
さっきから目線を逸らしたり目を閉じたりするのをテッドは許してくれない。
「んっ」
「どうした?」
「くすぐったい、ん、だよっ」
僅かに漏らした声にすら反応を返されて、シグールは拗ねたように返したが、じりじりと追い上げられるような気分だった。
意趣返しをばかりに自由な足で軽くテッドの脇腹を小突くと、足首を掴まれて持ち上げられた。
「くすぐったいか?」
ゆっくりと動かされて、シグールはいやいやと首を振る。
「なんで、こんなこと」
「イタズラだからな」
くすくすと笑ってテッドはシグールと唇に重ねた。
歯列を割って押し入ってくる舌に自分の舌を絡めて、ようやく快楽に直接繋がるようなキスにシグールは満足そうに目を細める。
「……甘いな。飴食ってたからか」
「テッ、ド」
口を離して端から零れた唾液を舐め取って呟くテッドに、シグールは熱に浮かされたような声で囁く。
それを聞いて、テッドは満足そうに微笑んで、鎖骨の上に赤い痕を残した。
Trick or treat.
Trick or treat.
I want something good to eat.
Trick or treat.
Trick or treat.
Give me something nice and sweet.
Give me candy and an apple, too.
And I won't play a trick on you!